第36話 俺がシステムを利用した本当の理由

 

  俺を睨みつける月夜野、そして睨みながら再び呼び鈴を押す……まだ食うのかよ!

 そして俺の顔を見ずにメニューをじっと見つめる。


 いやだから人の話聞けよ……。




 ◈ ◈ ◈ ◈ ◈




 小学校の時とあるスポーツをやっていた。


 俺はその競技を好きになれなかった。


 父さんが学生の頃にやっていた為、物心つく前から自分の意思に反してやらされていた。


 ただそのお陰で俺はジュニアの部で全国でもかなりの上位に名を連ねていた。


 周りはちやほやしてくれた、父さんもとても喜んでくれた……だから俺はずっと言えなかった。やりたくないってずっと言えなかった。


 そしてとある日の大会で、地方テレビの生放送中にインタビューを受けた俺はそのインタビュアーの人が俺をやたら誉めちぎっていた。


 今大会の優勝は俺だと、そしてさらに将来の事も言われて俺は……つい言ってしまったんだ。つまらない、やりたくてやっているわけじゃ無いって……。


 今ならね、俺も大人になって、物事の本音と建前って事を理解しているが、当時は好きでもない事をやらされている事がどうにも理解出来なかった。


 負けてもなんとも思えない、勝ってもなんとも思えない……ただ言われるがままに淡々と試合をこなし、全国大会になんかも出場しはじめる様になっていた俺……将来の事まで言われ始め俺はその事が恐ろしくなってしまった。


 だからつい言ってしまったんだ……父さんの前でカメラの前で……。


 父さんは俺に謝り今後は好きにしていいと言った。その時の悲しそうな顔は今でも忘れられない。とりあえずその場では保留にしたが、翌日学校に行くと黒板に大きく俺の事が書かれていた。


「好きでもないのに男同士であんな事してキモい」


 ここではその競技の名前を言うのはあえて避けておく、ただ俺はその言葉がショックだった。


 だって……俺もそう思っていたから……。俺がどうしても好きになれなかったのはその競技の性質上、相手と組み合わなければいけなかった事。


 そのスポーツが好きでもないのに……でもそんな事をしている自分が嫌になった。


 その後俺は苛めにあった。そのスポーツをやっていた為に、身体的な苛めは無かったが、裏ではかなり言われた。ここで口に出せない様な性的な悪口を影で言われた。友達からも、好きだった娘からも……陰で言われた……あいつキモいって。


 俺はクラスの人間が誰も信用出来なくなり、そして競技も止め引きこもっていった。


 幸いな事に引きこもったのが夏休みだったのと、その後急遽父さんの転勤が決まったので、両親には俺が当時学校でそういう状態だったって言うのはいまだにバレていない。


 そしてその引きこもった時に出会ったのがアニメと漫画だった。


 俺はその時アニメに救われた……あの一件でクラスの友達、好きだった女子からも陰口を叩かれ人間不信に陥りそうな俺をアニメが救ってくれた。


 青春物、恋愛物、ロボット、異世界等々、色々なアニメを見まくった。


 作り物と言われればそうかも知れない、だけどそれは人間が作った物、だからきっとそんなアニメの世界の様な友情や愛情がこの世界にもあるかも知れないって思えた。


 いつか俺も……そんな人に出会えるかも知れないって……そう思えた。



 ◈ ◈ ◈ ◈ ◈



「だから俺はシステムを利用したのかも知れない、なんか使った時はそこまで深く考えなかったけど……本当になんとなくだったけど、今考えると……それなのかも知れない……実際なんか格好いいよね、アニメの世界の様にAIで理想の相手と出会えるってさ……」


 俺は睨む月夜野に自分の過去を語った……月夜野と話すと言っていたが、まず自分の事を言わないと月夜野だって言えない、だから俺はオタクの事よりも隠していた、親にも隠していたそれを月夜野に語った。


 月夜野は相変わらず不貞腐れた顔で再び頼んだクリームソーダを啜りながら俺を睨んでいる。


 これでも駄目か……月夜野と俺は一生わかりあえないのか……システムなんてたいした事無いんだな……このカップリングもやっぱり何かの間違いだったんだと、そう思い始めたその時……月夜野の目が変わった。目の色が、目付きが変わった。



 そして……ストローを加えたまま、表情は依然として不貞腐れた様なままだったが……月夜野の瞳から涙が一滴こぼれ落ちた。


 さっきとは違う、とてもとても綺麗な涙が……。







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