第37話 たとえ身体は許しても……心までは許さないんだからね


 月夜野は慌てて涙を拭きなに食わぬ顔でクリームソーダのアイスを食べる。でもその手は震え、スプーンがカチカチと音を鳴らす。


 かなりの動揺が見られる……俺の話に反応したと言う事か? 


 俺は今まで月夜野の事をあまり深く考えた事は無かった。こいつの事がわからない、だから話を聞こうと思っていた。だが月夜野は頑なに自分の事を言わない……言いたげな表情や言動は今まであったが口を割る事はなかった。

 今後も言うとは限らない、こんなに動揺している現時点で何も言おうとはしないのだから。

 かといって俺がこのまま何もしないというわけにはいかない……だって……俺は今……月夜野の事で頭が一杯になっているんだから……こいつの事が気になってしょうがないんだから。


 だから俺は考えた。今考えないでいつ考えるんだとばかりに深く考えた。


 ヒントは一杯ある……俺は月夜野の側に1年以上居たんだから……。


 まず、月夜野は恐らく男嫌いだ、しかしシステムを利用したと言う事は全く拒絶をしているわけではない……。


 女子には人気があり、男子には不人気……いや俺から見ると何か男子を拒絶し、女子に媚びている感じがする。


 美人で可愛くいかにも男子受けしそうなタイプ、男子にちやほやされるている所を周りの女子に見せない様にしている様な……そんな感じがする。


 いや、違う……それだけであの拒絶の仕方は考えられない…………憎しみ? そうだ、さっきの月夜野はそんな目で俺を見た、そして言った……「……本当男って……最低」って。


 つまり男に最低な事をされたと言う事だ。


 そしてその原因は……恐らくオタク……。


 ――――繋がった……そうだ月夜野はオタ趣味が原因で男に何かされた。


 そして仲間外れにされない様に女子には受け入れらる様に自分を隠しオタクを隠し……理想の女子を、いや、周りから思われている様な月夜野自身を演じている……。

 あいつは、女子の前では、でしゃばらない……付き合いも凄く良く、聞き上手に徹していた。

 

 それを全て考慮すれば……やはり中学時代に何かあったと考えるべきだろう。


 そしてさっきの涙……オタバレで激泣きし、俺の話に一瞬だけ気を許したかの様に涙した。


 そうだ……間違いない……答えは既に全部出ているじゃないか……こんな事も直ぐに出てこないなんて……俺は鈍感主人公かよ。


 問題はそれを月夜野にどうやって伝えるかだ……ここで間違えると……恐らく月夜野はもう俺の事を見てくれないだろう……でも……これを乗り越えないと俺と月夜野に未来は無い。

 いや、俺は最悪俺は嫌われても、月夜野の男嫌いが少しでも解消してくれれば……そうなってくれれば、俺のこの気持ちが少しでも救われるだろう……。


 ちょっと待て……俺の気持ち? 俺の気持ちってなんだ? 嫌われてもいいってもとより嫌われているんじゃないのか? ――――そうか……まずそこから考えなければ駄目だったのか……月夜野の事よりもまず俺の気持ちか…………ははは、それは簡単だ。


「なあ……お前さ……俺の事嫌いか?」

 結論は出ている……だから直接聞いてみた。


「……そんなの……嫌いに決まってる……嫌いと嫌いが嫌いで嫌いの嫌いへ嫌いな嫌いは嫌いを嫌い……」


「よく覚えたな……俺にそれを言うって、好きってしか聞こえないけどな」

 あのキャラどう考えても主人公にベタ惚れだよなあ……。


「な! そ、そんなわけ」


「俺は好きだけどな」


「…………へ?」


「俺は今お前の事結構好きだけどな」

 俺はテーブルに両腕を付き、両手を握って口の前に持っていきながら、見上げる様に喋る…… 某司令官の真似だ。


「え? えええええ!」


「あははははは、本当お前って実はわかりやすかったんだなあ、今まで逆に考え過ぎてたよ」

 突然の俺の対応に顔を赤らめる月夜野……本当こいつって……わかりやすい……俺は今まで深く考えていなかった……こいつの表面しか捉えて来なかった。こいつは……月夜野は俺に対して、俺にだけ本音で、本気でぶつかって来てたんだ……そう思ったら、それがわかったら……こいつの事が凄く好きになった。そしてわかってやれなくて申し訳なく思った。


「は? 何わかった風に……あんたに……私の何がわかるって言うのよ」


「ん? わかるよ、好きな人の事くらいね」


「すっ! じゃ、じゃあ言って見なさいよ、私の何がわかったって言うのよ」


「そうだなあ、ポンコツって事かなあ~~」


「ポ! あんた何様!!」


「可愛いポンコツ娘……オタク娘、男嫌いで女子に好かれようと努力している……って事はわかったよ」


「あ……い、いや、そ、それは」

 月夜野が動揺している。困惑の表情で俺を見つめる。ここは畳み掛けるしかない……俺は月夜野の核心を突いた。


「話してくれないかなあ、中学の時にあった事……俺なら大丈夫だと思うよ……同じ目にあってるし……ね」


「な! なんでそれを! だ、誰から聞いたの!!」


「いや、聞いてないから今聞かせてって……」


「あああ!」

 いや……本当に素直過ぎて逆に心配になる……よく今までバレなかったなあ……。


「く……ま、敗けを認めるわ……さ、さあ好きにしなさい」


「悪魔が落ちた様なセリフだなあ…………フフフフ、じゃあ全てを語って貰おうか、お前の全てを俺にな」


「く、身体は許しても心までは許さない」

 いや、身体も許してないやろ……。オタク娘は開き直ると乗りが良くていいなあ~~。


 そして月夜野は俺に中学時代の話をする…………前に、再び呼び鈴を押した……いや……まだ食うのかよ……いい加減にしてくれええ。





 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る