第34話 月夜野はオタク?


 俺の手を放すのも忘れレンタルケースを覗き込む月夜野……。


 ちなみにレンタルケースというのはいわゆるフリーマーケットのミニバージョンの様な物で、お店が個人にケースを貸し、借りた人はそこに売りたい物入れておく、すると見にきた人が欲しい物を見つけそれを買い、売り上げから手数料引いた代金受け取れるというシステムだ。


 月数千円程度で小さな小さな自分のお店を持てると考えると、わかり易いかも知れない。


 ただ、やはりいらない、不要な物を入れている人が多いので価値のある物は少ない……が、中には掘り出し物もあって、ここは玉石混淆である。


 そして月夜野はその玉石混淆の中から掘り出し物を見つけるべく目をギラギラさせ、レンタルケースにかぶりつく……。いや……あの……月夜野さん?


 ギラギラと鼻息荒くケースを覗く月夜野、全く誰の影響か知らないけど、これじゃまるで俺じゃないか……目の前でこうも反応されると連れて来て嬉しい反面自分のオタ熱が冷め…………あれ? ちょっと待て、俺……今なんて言った? 


 自分が何か重要な事を考えていた事に、思っていた事に気が付く。


 いや……違う……そうだ……俺は考え違いをしている事に気が付いた。


 そう……月夜野は誰かに影響されている……月夜野は誰かオタクと付き合っている。それが彼氏なのか、家族なのか、ただの知り合いなのか……その辺は聞いて無いから仕方ない。まだ俺は月夜野としっかり話が出来ていない。


 まあ、それはこの際いい、今はそれは置いておくとしてだ、ただ俺は大きな勘違いをしているんじゃ無いか、その事が重要だ……。


「ねえねえ、これ可愛い……『妹に突然いもとつ』の栞ちゃんだよねえこれ、あああ、いやん美月ちゃんのゴスロリ可愛い~~いいなあ、こういうのが着たかったんだよねえ」

 

 月夜野は、またもや超マイナーな小説とコミックのキャラを指差し興奮していた。

 

 やはりそうだ……間違いない……。俺は確信した。


 誰の影響であれ……今の月夜野は……もう……立派なオタクだった。


 俺は勘違いしてたのだ、オタクとは宣言するものでは無い、無自覚なのだ。


 なろうって思ってなるものでは無い。程度の差はあれど、秋葉原でゴスロリを着てこれる、コスプレに興味ありあり、最新アニメを知ってる。超マイナーな、ラノベやコミックを知ってる。


 本人の思いがどうあれ、これはもう……立派なオタクなのでは無いだろうか?

 

 そもそも誰かの、彼氏の影響なのか? 池袋で会ってたのは男じゃないかも知れない……オタク仲間? 女オタク? 中学の友達? その可能性も否定出来ない。

 月夜野の中学時代の影響? 俺は何故か興奮した……そう高麗川だ高麗川のせいで興奮してしまった。


 ひょっとしたら……月夜野とも高麗川の様に楽しく話せるかも、楽しく付き合えるかも知れない……。 


「ねえ、ちょっと、い、五十川君、いたい、いたいよ五十川君!」


「え?」

 考え事をしていた……月夜野に声をかけられハッとして見ると月夜野が苦悶の表情を浮かべていた。


「痛い! て、手が痛い……」


「あ、あああああ、ご、ごめん!」

 俺は興奮のあまり月夜野の手を強く握り締めていた。


「いったあ、てかいつの間に私の手を握ってたのよ! 何勘違いしてるのあんた、ちゃんとしたデートって言っても変な事はしないって言ったでしょ!」


「いやいや、最初に握ったのは月夜野の方で」


「うーーーわ手汗びっちょり、キーーーモーーーイーーー、あーーー爪の痕が! この暴行魔! 痴漢! 変態!」


「うわ、ごめん、とにかくごめんて落ち着いて、な」

 俺は周りの目を気にし敢えて反論せずに月夜野を宥めた。強く握ったのは悪かったけど、でも最初に握ったのは月夜野からなのに……本当に理不尽だ~~~。


 俺はなんとか月夜野を宥めとりあえずさっきの喫茶店で奢るからと店に誘った。こんな所で騒がれるよりは、喫茶店の方がまだましだ。


 喫茶店で座るなりお手拭きと紙ナプキンでこれ見よがしに必要以上にごしごしと手の平を拭く月夜野……。俺の汗は細菌かよ……。


「ああ、もう五十川菌がああああ」


 口に出すなよ……俺意外にそう言うのダメなんだから、あまり言うとここで舌噛むぞ……お前のな……。


「ごめんて……でも先に握ってきたのは月夜野からだからな」


「嘘! あり得ない」


「わざとらしい…………でもさあ、とりあえず、どう? 面白い?」


「え? それはもう~~~~………………私がオタショップで楽しいとか言うと思ってるの」

 笑った顔から一瞬で真顔に変わり、更にはベタなツンデレキャラの様に髪をさっと後ろに流し横を向く月夜野……いやもうそれツンじゃなくデレだから。


「……そうか」

 そんな月夜野を見て俺は思わず笑ってしまった。

 こいつの事が少しずつわかってきた。わかって来ると……案外可愛い奴なんだなって。


「な、何よ! なんで笑うのよ!!」

 

「いや……なんとなくな」


「ふん」

 再びデレる月夜野さんである……くくく。


 俺の奢りと言うことで滅茶苦茶注文をし……くっ……月夜野……死ねば良いのに……。


 それでようやく機嫌がよくなったのか、ニコニコし始める。

 笑うと可愛いんだよなあ……こいつ。


 そして俺は今が良いタイミングとばかりに直球で月夜野に聞いてみた。


「なあ……月夜野ってさ……本当はオタクだろ?」


「うん…………あ!」

 

 俺が何気なく聞いたので月夜野は油断してたのか思わず……うんと言ってしまった。




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