システムを否定する者、利用する者

第68話 高麗川(魔王)のターンが始まった


「エンディングが秀逸だったんだよお、もう僕ずっと泣いちゃってさあ、あれはやっぱり神ゲーだったよ」

 俺の目の前に座る高麗川はその綺麗な瞳を潤ませながら俺に満面の笑みで話しかけていた。



「いや……あの高麗川さん?」


「ん?」

 高麗川は持っていたハンカチで目元を軽く拭く、俺は見た事が無かった……これ程軽い女の涙を……。


「いや、あのさ……わざとか?」


「何がだい?」

 俺は周囲を恐る恐る見回した。うん……やっぱり皆こっちをチラチラ見てる。

 そして約1名……突き刺す様な視線を送る者が……黒髪の美女……俺の彼女……マジで刺され無いかビクビクしてしまう。


「昼休みに俺の所に来るのはいいよ……でもな……普通さ、こういうのは正面に座って、とかだろ?」


「そうか、君はそんなに僕の顔を間近に見たかったか、うん、僕の顔は滅茶苦茶可愛いからな!」


「……いや、挿し絵無いからわかんねって、違う違う、そうじゃない!」


「なんなんだよさっきから君は!」


「そ…………それは……俺のセリフだああああああ!」

 ようやくここで俺は、俺の首に巻き付いている高麗川の腕を振り払った。

 高麗川は今まで教室内で大胆にも俺の隣に椅子を並べ俺の首に腕を回し、身体を密着させながらスマホの画面を見せ付けていた……いや、なんなの一体?



 今日は停学明け……なんだけど……誰も気にしていなかった……それはそれでどうかと思うんだけど……。

 

 そして何のリアクションも無いまま昼休みが始まると、これまた昨日の夜にあれだけ感動の言葉を言い合ったにも関わらず、何故か何のリアクションの無い隣に座る月夜野 瑠……そしてこれもまた、いつも様にお昼ご飯を一緒に食べるべく友達の元に移動していった。


 まあ、俺達の関係は誰にも知られないようにしようと言っていので、全く問題無いんだが……その瑠が席を立った瞬間狙い済ましたように、椅子取りゲーム宜しく、高麗川が持ち前の俊敏さを生かしウサギの様に俺の方に走り寄り、瑠の椅子を素早く俺の椅子にくっ付け、流れる様にスカートのポケットからスマホを取り出し、俺の首に腕を絡め、ギタリストとボーカルの密着プレイ宜しく、俺にピッタリと寄り添いそのギャルゲーのエンディング画面を俺に見せ付けながら訥々とつとつとその最後のシーンを涙ながらに語り始めたのだった。


 説明なげええ!

 

 

 かくして、俺はあまりの事に身動きが取れず、高麗川にされるがままだったのだが、今ようやくその奇妙な行動に突っ込みを入れられた。←今ここ



「な! なんだよおお、感動しろよおおお!! 凄いだろ可愛いだろ!」

 俺に突き放された高麗川は、そんな事はお構い無しとばかりに、よくなついた犬の様に俺に再びすり寄ってくる。


「いや、だからくっつくなって……」

 高麗川を押し戻しながらチラチラと瑠の様子を見ると、友達同士で俺と高麗川の事を話して居るのか? 笑いながら俺達を見ている……いや……瑠の目は全く笑って無いけど……ね。


「何を気にしてるんだい? ぼ、く、と君の仲だろ!」

 高麗川は周囲に、特に瑠に聞こえるような声でそう言うと、どこからか「きゃあ」と小さな悲鳴の様な歓声の様な声が上がった……ああそうか……わざとか……。


「ちょっと来い」

 俺は立ち上がり高麗川の腕を掴む……。


「いや~~ん」

 高麗川は俺が少々強めに腕を引くと、艶かしい声色でそう叫んだ。


「くっ……い、い、か、ら、来い!」

 俺は少し乱暴に高麗川を引っ張り、皆が注目する中慌てて教室の外に出て行きそのまま校舎裏まで引っ張って行く。

 ……一体どういう事なんだ? 俺は高麗川の行動に、いかにも周囲に見せ付ける態度に……特に瑠に見せ付けるその態度に動揺していた。



「いたたた」

 

 裏庭のベンチに高麗川を座らせると高麗川は俺の掴んでいた自分の腕をそう言いながら擦った。


「あ……す、すまん」

 少々強く腕を掴んでしまったのを謝罪すると高麗川は俺を上目遣いで見つめながら言った。


「いや、痛いのは嫌いじゃない、なんだったらもっとやってくれても……」


「…………」


「なんならもっと」


「聞こえてるから!」


「なんなら紐とか使ってくれても」


「そんなアブノーマルな話は聞いて無い! えっと……一体なんなんだよ!」


「何がだい?」


「何がって……」


「……あはははは」


「笑い事じゃない!」

 

 暖簾に腕押し状態の高麗川……一体何がしたいのかさっぱり見当もつかない。

 まだまだ暑い季節、裏庭のベンチの周りには木が生い茂っており、幸いな事に日陰になっていた。

 だが日本一暑いこの県、それでもかなりな暑さだったが、高麗川は暑さに強いのか? 汗一つかかず涼しい顔で俺を見つめている。


「まあまあ、うーーん、言うなれば僕のターンが始まったって所だね」


「高麗川の……ターン?」


「そうさ! 瑠と僕がキャラクターのギャルゲーが始まったのさ」


「いや、ギャルゲーって……」


「勿論主人公は君だ! いやあ、実戦は僕も初めてだからね少し緊張してるよ……でもシミュレーションは完璧さ」

 高麗川そう言うと僕にウインクしてくる……いや可愛いけど。


「……あのな、俺は月夜野と……瑠と付き合ってるんだぞ?」


「システムのせいで……だろ?」


「いや、最初はそうだったけど……」


「言ったとおり……瑠とはちゃんと話した、僕は君を瑠から奪うって、システムなんて物に頼った君を君達の目を覚まさせるって……ね」


「目をって……」


「僕にチャンスは無いかい?」


「…………な、無い」


「ふふふふ、即答出来なかったね」


「いや、それは……」


「これは勝負なんだ……今度こそ大切な物を……あんな機械の為に失いたくない」


 俺を真剣に見つめる高麗川の目は少し潤んでいた。


「でも……俺達は……」


「君達の出会いは根本的に間違ってるんだ。システムにはこの間言った以外にも……まだ問題が多々あるんだ……だからそれを君に教えてあげる」


「──問題が……」


「ふふふ聞きたいだろ?」


「…………ああ」


 俺がそう言うと高麗川はニヤリと笑った……何故高麗川はシステムに詳しいのか? そして問題というのは一体なんなのか?








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