第47話 祝福の拍手

 1時間程たっただろうか、ようやく二人がブースに帰ってくる……。

 高麗川はニコニコと笑い、月夜野は……何か怒ってる様な……俺を睨みながら帰って来た。


「とりあえず後は僕と瑠でやるから五十川君は会場を回って来て良いよ」


「え? ああ、えっと……大丈夫?」


「うん、後は任せてくれ!」

 ウインクしながら腕捲りをする高麗川……男前でしかも可愛いとか凄いキャラだな……こいつは……。

 

 俺は売れ残りの本を見た。残り2時間弱で数十冊、二人が居なくなる前のペースに戻れば完売するかも知れない……いや、そもそも俺が最初から居なければとっくに完売していたかも知れない……。


 俺がいるとかえって邪魔か……そう判断した。


「じゃあお言葉に甘えて」


「はーーい行ってらっしゃい」

 手を降りながら俺を送り出す高麗川、俺は目線を高麗川から月夜野に変えると……。


「……」

 黙ってうつ向く月夜野……しかし……俺は見逃さなかった……下におろした手をそっと振っていたのを……。


 なんだこの可愛い生き物は……。


「……あ、じゃ、じゃあ」

 俺はそう言ってその場を後にした。


 ヤバい……月夜野がどんどん可愛く見えてくる……。


 第一印象は最悪だった……何を考えているのかさっぱりわからない、やたらと俺に絡んでくる。嫌いならほっとけよ……何度もそう思っていた。


 ただ……それでも俺がずっと彼女と居続けたのは、彼女の裏が知りたかったからかも知れない……男嫌いで誰も寄せ付けない彼女、その中でも俺に対してだけは少し異質だった。


 他の男の場合、絡みにいかなければ何も問題は無い、触らぬ神に祟り無し……そう思っていた。でも……俺には、俺にだけは違った。何故か彼女からわざわざ絡んで来る。


 俺はそんな彼女が嫌いだった……凄く嫌いだった……。

 でも彼女から離れなかった。離れられなかった。

 偶然席が近くなる……いつも偶然側にいる。席も授業でのグループ分けも何故か近くになる。

 断れば良かった、席だって何か言い訳をして別の場所にしてもらう事だって出来た。

 でも俺はしなかった、彼女もしなかった。

 その理由を知りたかった。俺も彼女もお互い離れなかった理由を知りたかった。


 そしてマッチングシステム……ここでも偶然一致した。偶然も3回続けば運命という言葉がある……。


 俺と月夜野の出会いは運命だったのかも知れない。


 でも運命って……それは全て結果論、過去の話だ。


 じゃあ……今は?


 行く宛もなくフラフラと終了間際の会場で俺はふと立ち止まった。

 そう……昔はどうでもいい……俺は今、彼女を、今の月夜野をどう思っているのか?


 彼女は俺に好意を示している。システムで繋がれた俺達だけど、去年迄喧嘩ばかりしていた俺達だけど……そんな事は今はどうでもいい。


 今俺はどう思っているのか……いやそれはもうわかっている。問題ばこれからだ……。


 俺は……彼女とどうしたいんだ? 彼女の思いにどう答えれば良いんだ?


 そこで……ふとさっきの言葉を思い出す……俺は最初に思った。


 触らぬ神に祟り無しって……。


「そうか……俺にとって彼女は……神様だったんだ」

 初めて会った時から彼女は神様……俺の女神様……。


『以上を持ちましてコミックフェスティバル2日目終了致します』

 放送と同時に会場から盛大な拍手が巻き起こる。

 俺はどこにも行かずただ会場で立ち尽くしていた。

 

 でも……その放送で俺は気付かされた。

 どうすれば良いかを気付かせてくれた。


 会場からの拍手が光の粒となって俺の元に舞い降りてくる。

 そして会場全体が俺の気持ちを、俺と月夜野の事を祝福してくれている様な、そんな気になった。

 

 天使の羽が舞い落ちる、リンゴーンと鐘が鳴る。


 俺は今自覚した。月夜野に恋をしている事を、彼女に恋をしている事を……。


「言わなきゃ……俺から……はっきり言わなきゃ……今日はっきり言おう……」

 

 システムなんて関係なかった……俺は前から月夜野が好きだったんだと、初めて会った時から好きだったんだと……今、そう思っていた。


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