第46話 私の好きな人
告白してしまった……。
あんな形で告白してしまった……初めて男の子に告白してしまった。
告白された事は何度もあった……あの中学の時のあいつにも……。
だから告白なんて信用出来ない……私は絶対にしない……そう思ってた。
だからシステムを利用した。
なのに……つい……つい言っちゃった……好きな男の子って……。
「はうううううう」
恥ずかしい、顔から火が出るほどほど恥ずかしい……。
そして改めて思った……やっぱり私は……彼の事……好きだって……。
初めて会った時から、初めてって感じがしなかった。
小さい頃からの知り合い……そんな感じがしていた。
私がそう思っているのに、彼はそう思っていない事がムカついた……腹が立った。
だからなにかと彼に当たってきた……あいつに似ていたから、私の近くに来てくれ無かったから……こんなの……ただの焼きもち、ただの言いがかり。
でも……彼はそんな私の我が儘を許してくれた。私の我が儘に真摯に向き合ってくれた。
「今日だってそう……今だってそう……」
戻らなきゃ……でも……どんな顔で? 私……今……どんな顔しているの?
恥ずかしい……恥ずかしすぎる……ど、どうしよう……。
「――――どうしたんだい? トマトかって位真っ赤な顔で、熱中症? 飲むかい?」
突然私に話しかけてくる中学生男子が!
「ひううううう!!」
「……そんなビックリしなくても……」
あ、違った、ジュース片手に数冊の同人誌を抱えホクホク顔の菫だった……あれ? 中学生男子? どこかで……。
「す、菫? えっと……」
「こんな所でどうしたんだ? て言うか五十川君一人にして良いのかい?」
「そ、そう……そう……なんだけど、ど、どんな顔で戻って良いのか……どうしよう……菫、ど、どうしよううううう」
戻らないと行けない、でも……どうして良いのかわからない……足が動かない、彼の顔を見るのが怖い、私の顔を見られるのが怖い……な、涙が溢れそうになる。その怖さに……私はその場で立ち尽くしてしまった。
「ど、どうしたんだい? とりあえずここじゃ人目が、あっちに行こう」
コスプレ姿の二人がこんな所で話してたらかなり目立つと菫に手をひかれながら混みの外、会場の端の方に向かった。
ジュースを持ってたからか……菫の手はひんやりしていた。
「とりあえず飲んで、どうしたんだい? 五十川君と喧嘩でもした?」
菫から貰ったジュースに口をつける。そう言えば朝から何も口にしていなかった……興奮しているのか味は全くしなかったが喉を通る冷たい感触に少し落ち着きを取り戻してくる。
「……ううん……違うの……」
どうしよう……なんて言ったら良いのか……菫は五十川君の事が好きかも知れない、ひょっとしたら二人は付き合っているのかも知れない……。
私がここに誘った時二人は一緒にいた……なんで一緒にいたのか、いまだに聞いてない……怖くて聞けなかった。
でも……逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ。
自分の為にも、五十川君の為にも私はもう……逃げちゃ駄目なんだ……今逃げてるけど……もう逃げちゃ駄目なんだ。
「あ、あのね……教えて欲しいの……す、菫の好きな……人って……」
私は勇気を出して聞いてみた……もし五十川君だったら……私は敵わない……でも逃げちゃ駄目だから……。
「僕の好きな人? ああ、うん……僕の好きな人はね……ドジでバカで、でも優しくて……、いつも僕を見守ってくれて……少しだけかっこよくて……そしてかなりのオタクで……格好付けてるからそのオタクを隠して……」
「くっ……」
やっぱりそうだ……全部当てはまる……そうか……菫も……。
涙が溢れて来る……私はシステムで強制的に五十川君と一緒になっただけ。システムが無かったらこんな気持ちにならなかった……自分の気持ちに気が付かなかった……だってたまたま五十川君だっただけ、違う人が選ばれたら私はその人と付き合っていた。
そう考えると私はなんて恐ろしい事をしたんだってそう思う。今は五十川君以外の人となんて……あり得ない……。
でも菫は違う……システムなんかで気付かされたわけじゃない……悔しい、そして羨ましい……。
「でも……そのオタクを隠して……それでシステムを使うとか……本当信じられない……」
「え?」
システム? え? 知ってたの? まさか五十川君が!
嘘? 信じられない……あれ程内緒にしようって言ったのに、あっさり菫に言ってしまうなんて……。
「ああ、例のマッチングシステムだよ、本当あり得ないよねえ」
「え、うん……」
そうか……もうそこまでの仲だったんだ……私の出る幕じゃなかった……。
嫌みとも取れる菫の発言……私はもう……耐えられなかった。
「ふ、ふ、ふえええええええええええええん」
「!」
「ふええええええええええええん」
涙が溢れて止まらない……初めての告白は秒殺で終了した。
初めての告白、そして……多分2回目の失恋……ううん、これが本当の……初めての失恋かも……私はここまで五十川君の事が好きだったんだって思わされた。中学の時には泣かなかった……でも今は涙が溢れて止まらない……五十川君、五十川君……酷い、酷いよおおおお。
「ど、どうしたの? なんで泣くの?」
菫は私にそう言った……なんでって……わからないの? 菫が言ったんじゃない……私が五十川君の事が好きって、菫が先に言ったんじゃない……。
「だっでええ、だっでえええ」
私がそう言うと菫は私をそっと抱いてきた……菫の汗の匂い、甘い香りがする……。
「やっぱり五十川君と何かあったのかい?」
「ふえ?」
なんでわからないの? なんでそんな事言うの? 菫ってバカなの?
「恋するって苦しいよね……ゲームのようには行かないよね……わかるよ……よーーくわかる……僕だって……お兄ちゃんがシステム使って彼女を作ったって知った時、泣いたもん」
「…………お兄ちゃん?」
は?
「ああ、うんそうだよ、僕はお兄ちゃんの事が好きなんだ、僕の好きな人は……お兄ちゃん」
「…………ええええええええええええ!! い、五十川君じゃ無いの?!」
「は?」
「私てっきり……菫は五十川君の事がって……」
「何を言ってるんだ? ああ、それで泣いたのか、あはははは、五十川君は友人だ、大切な友人だよ、ただの友人だ」
「ほ、本当に? そ、そうなんだ……」
嘘……本当に……それだけ? 私はその場にへたり混む……身体が震える。筋肉が弛緩する……腰が……抜ける……。
「あはははは、そうかそれでか……良かったね私はライバルじゃなくて」
「はあああああ……」
「でもシステム使ったって言っただろ? 聞いて無かったのかい?」
「あ、うん……」
「まあ、確かに共通点は多いなあ、お兄ちゃんと五十川君は」
「ええええ!」
「大丈夫大丈夫、奪ったりしないよ、横恋慕なんてしないから」
菫はそう言って笑った。私はホッと胸を撫で下ろす。でも最後に菫はこう付け加えた。
「五十川君は大事な友人だ……そして瑠もね、だからちゃんと付き合ってくれれば僕は応援するよ……でもお兄ちゃんの様に不誠実な事をしたら……僕は許さない……君達を別れさせる……五十川君を君から奪ってでも……ね」
菫はそう言って笑った……でも、その目は笑っていなかった……私を上から見下ろしているその目を……その菫の目を……私は多分一生忘れないだろう……そう、思わされた。
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