第48話 打ち上げ……そして……
「乾杯~~~~」
「完売おめでとう~~~」
俺と高麗川がテンション上げ上げでグラスを持ち上げ乾杯をする。
「乾杯……あ、あり……がとう」
一人テンションが上がらずに小さくグラスを持ち上げる月夜野。
完売した俺達は売れ残りを宅配で送る手間も着替えの入ったキャリーに詰め込む事もなく会場を後にした。
会場を出ると突然月夜野が、打ち上げする為に予約がしてあると徐に言い出す。
元々来る予定だったサークル3人でやる予定だったとの事。会場から家に帰る途中の居酒屋の個室、お酒も飲めない高校生3人にはちょっと場違いだけど、お金も既に振り込んであるからキャンセル出来ないとの事で、俺達は今居酒屋にてジュースで乾杯した。
こじんまりとした個室だが一輪挿しやらちょっと古い棚なんかが置いてあり大人の雰囲気を醸し出す。居酒屋って初めて入ったけど、もっと騒がしいイメージだったがこういう所もあるんだなあ……って思わされた。
「いやあ、楽しかったなーー本当に楽しかった~~!」
酒なんぞ飲まなくても盛り上がれそうな高麗川は烏龍茶片手に笑顔でそう言った。
高麗川は制服のコスプレからTシャツ、デニムに着替えている。いかにも高麗川らしい格好だ。ちなみに月夜野はピンクの花柄ワンピースに着替えている。
「な、何よ」
「あ、いや……」
「ふん……」
月夜野の可愛い格好につい目が止まる……見とれてしまう。素直に可愛いって言えれば良いんだけど、今までの関係を急に変えるってのは中々難しい……。
俺は月夜野を初めて見た時……なんて綺麗な顔をしているんだと思った。
今でもそう思っている。しかし美しい花にはトゲがある様に、月夜野はトゲだらけだった。近寄れば誰もが傷つく……そんな花の様な奴だった。
「見せないのかい?」
「む、無理……」
「チャンスだろ?」
「で、でもぉ」
俺が月夜野と出会った頃を回想していると、なにやら月夜野と高麗川がこそこそと話している。二人がそんなに仲良くなって少し嫉妬心が芽生える。
「俺がいない間にすっかり仲良くなって……」
「妬かない妬かない、僕はもう帰るからさあ」
「え?」
「え?」
「言っただろう? 僕は明日も練習、来週から合宿なんだよ」
「そ、そんな……じゃ、じゃあ私も」
「何言ってるんだ、代表代行が先に帰ってどうする? 最後までちゃんとやらないと、ね?」
高麗川はウインクしながらそう言うと綺麗な動作で立ち上がる。
「二人とも今日はありがとう、僕は嬉しいんだ……部活以外で仲間が出来て……僕達……仲間だよね?」
高麗川は満面の笑みで確認するように俺と月夜野を見る。
「ああ、もう完璧にオタ仲間だよ」
「うん、ありがとう……こま……菫」
「うん、僕こそありがとう……冬は僕たちでサークル参加しよう!」
「「えええええ!」」
「あははは、そんなに驚くなよ、冗談だよ、冗談……それじゃ、行くね」
高麗川は手を上げるとキャリーバックを大事そうに持ち上げた。
「……くふふふ……」
そのキャリーバックを見てニタリと笑う高麗川……月夜野は高麗川のセリフに感動して気が付いていないが俺はその表情を見逃さなかった……。
お前……戦利品堪能したいんだろ……早く帰って読みたいだけだろうがあああああ!!
いや、しかし……同じオタとして気持ちはわかる……明日も部活があるのは間違いない……武士の情け、オタの情けだ、ここは黙っておこう。
高麗川は笑顔で手を振りスキップするかの如く個室を出ていった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
高麗川が居なくなり下を向いて沈黙する俺と月夜野……文字数を稼いでいるわけではない……。
二人きりなんて、慣れているはず……漫画喫茶にだってカラオケにだって行っている……なのに言葉が出ない……二人きりという事に緊張する。
思えば月夜野と二人で会うのに緊張するのは初めてかも知れない……いや、まあ、違う意味では緊張していたけど……。
しかしずっと黙っているわけには、何か言わなければ、俺は勇気を出して声を出す。声を出せば何か喋られる……はず……。
「あの」
「あのさ」
「「!」」
同時に顔を上げ同時に声を出す。
「あ、いや、えっと、どうぞ」
「あ、うん……いや……月夜野こそ……何?」
「ううん……私は……たいした事じゃ……五十川君から」
「あ、いや、俺も特に……えっと……その服可愛いなって……あ、服じゃなくて月夜野がって……」
「ふえ!」
「あ……いや、俺は何を言って……」
「……あ、うん……ありがとう……嬉しい」
真っ赤な顔で照れる月夜野……可愛い……こいつ……マジで可愛い過ぎるだろうがあああ!
どうしよう……ここは俺から言うべき……だよな……コミフェで月夜野もまんざらでも無い様だったし……そもそも俺達はマッチングされてるんだし。
問題無い……何も問題は無い……。
俺は……勇気を出して言った。
「なあ……俺達……正式に付き合わないか?」
言った言ってしまった……これで遂に……俺と月夜野は……。
俺がそう言うと月夜野は一瞬ビックリした顔で俺を見る。
そして……少し間を置き……悲しそうに言った。
「嬉しい……でも……ご、ごめんなさい……」
「…………な!」
月夜野の口から出た言葉に耳を疑った……俺は絶頂から絶望に叩き落とされた。
やっぱりこいつはトゲのある花だ……近づけば近付く程に傷つく……そんな花だった……。
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