第65話 90パーセントの裏
とりあえず麦茶のおかわりを持ってきて俺は高麗川の前に座った。
今度は麦茶を一口だけ飲み、喉を潤してから高麗川はゆっくりと喋り始めた。
「お兄ちゃんがマッチングシステムで恋人が出来た話をしたよね」
「ああ」
「お兄ちゃんはオタク趣味を隠して登録したんだ。持っていたエロゲーを全部捨てて絶対にバレない様に……でも……それはもう良いんだ……そこまでしても恋人が欲しかったんだから……僕はお兄ちゃんが好きだけど……恋人にはなれないんだから……でも……」
「でも?」
「あんなにインチキな機械に惑わされて、結婚相手を決めるなんて、僕は納得出来ない」
「……インチキ……なのか?」
「ああ、そうさ、あんなのインチキだ」
「でも……確率90%以上なんだろ?」
「だからそもそもそれが騙されてるんだ数字のマジックなんだよ」
「どういう事なんだ?」
「90%なんて当たり前だよ、君だって利用しているなら分かるだろ? 会わないと警告が来るんだから」
「……来るらしいな……でもそれが関係あるのか?」
「そうさ……全く合わないカップリングをされたら……警告なんて無視して使用停止を選ぶのさ」
「いや、でも使用停止したら、そこから先利用出来ないんじゃ」
「不正使用ならそうさ、でも警告を何度も無視した場合の罰則は最終的には長くて2年、短い時は1年程度の利用停止処分になるらしいんだ。どっちにしろ一度決まった相手とは18才以上の場合2年間は変更出来ないんだからね、どっちを選ぶかは明白さ」
そうか……だから俺達は1ヶ月で済んだのか……。
「……でも、なんでそれで90%の成功率が変わるんだ?」
「……1年間以上の使用停止処分の場合カップルは自動解消されるんだ」
「じ……自動解消……」
「そうさ」
ちょっと待て……カップル解消の方法があるなんて聞いて無いぞ?
疑問点は一杯ある、そもそも何故ネットに上がらない情報を高麗川が知ってるのか? でも嘘を言ってる様には思えない……俺はとりあえず話を聞き続けた。
「そ、それで?」
「……90%というのは数字のマジックさ……2年間付き合い翌年以降継続しなかったカップル10%と継続するか、結婚、婚約したカップル90%の割合でしかない……最初に決まったカップルが分母じゃないんだ……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、それって……」
「そう……90%の謳い文句、もうそこから違うんだ……そして……普通恋愛が出来ない者同士が登録するんだ。そういったマイナスな情報は全て削除されている。そしてその90%の成功率や相性が完璧って事に騙されている……それが現状さ」
「騙されて……いる?」
「そうさ、相性なんて曖昧な物いくらAIが発達したってわかるわけ無いじゃないか! 人の考えなんて10人10色、皆違うんだ」
「いや……でも……趣味とか」
「だから嘘を書いていたら? うちのお兄ちゃんの様に、それでも結婚出来るんだよ?」
「そ、それは……」
「だからインチキなのさ、皆騙されているんだ」
「……そ、そんな……」
ちょっと待ってくれ……頭が混乱している……俺と月夜野の相性は最高なんじゃ無いのか? 全国から選ばれたんじゃ無いのか?
「だからそれを踏まえてもう一度聞く……君は本当に月夜野 瑠の事が……好きなのか?」
「……それは」
「どこが好きなのか言ってみろ! 顔か? 身体か? 性格か?」
「そ、それは……」
「言えないならはっきり言ってやる……き、君は彼女が綺麗だから付き合ったんだ、身体目当てなんだ、自分の欲望の捌け口で彼女を好きって思い込んだんだ、システムを言い訳にし、利用したんだ」
「違う!!」
「違わない!!」
俺が強めの口調で否定すると、身を乗りだし俺よりも数倍大きな声を出しキッパリとそれを否定する……な、なんなんだ……高麗川は一体何が言いたいんだ。俺は高麗川の勢いに圧倒されてしまう。
「……な、何故そう言いきれる」
「君はいまだに瑠を名字で呼んでいる……月夜野って名字で」
「そ、それは……たまたま」
「僕が瑠って名前で呼んでいるにも関わらず……君はそれを聞いても名前で呼ぼうとはしなかった……彼女をいまだに名字で呼び続ける……恋人なのに……おかしいよ」
「いや……それはあの時はまだ付き合って無かったから」
「……海に二人で行ったって聞いた、瑠が嬉しそうに写メを送って来た……でも僕はそれでピンと来たんだ……君は自分の欲望を瑠にぶつけてるだけだって」
「何故それで、そう言い切れるんだよ……」
「ははは、君がしている事はエロゲーやギャルゲーと一緒さ、付き合って直ぐの水着回なんてヒロインは絶対に迷惑だよ、あんなの主人公とファンの欲望でしかないからね」
「え、エロゲーと俺を一緒にするなよ……」
「違うのかい? 君は彼女と付き合う為にギャルゲーを買いに行ったんだろ、そこで僕と会ったんだろ? あれは彼女の為になのか……自分の為になのか……考えたらわかるよね……」
「あれは……」
「もう一度聞く……君は本当に……月夜野 瑠が好きなのか?」
俺は……その質問に即答出来なかった……そう……高麗川の言う通りだ……俺は俺の欲望のままに月夜野と付き合っていた……正式に付き合ってから……あいつの事も気持ちもあまり考えずに……自分の思いだけ……あいつにぶつけていた……。
高麗川の言う通り……俺は月夜野の何が好きなんだ? どうしてあいつと付き合ったんだ?
その問いに……俺は答えられなかった……。
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