第66話 僕は君が好き
「そして彼女も……瑠も……本当に君の事が好きなのかい」
俺は月夜野の事を好きなのか……どこを好きなのか……何を好きなのか……本当に好きなのか……わからなくなっていた……そして高麗川は俺のそんな気持ちに追い討ちをかける。
「月夜野……も……」
月夜野は俺の事を好きって……言った……言ってくれた……でも……。
「そうさ、あれだけ君に攻撃をしていた彼女が何故急に君を好きになるんだ? おかしいって思わなかったのか?」
「……そ、それは……」
確かに……あれだけ俺を嫌っていた月夜野が……急に……なんでだ? 俺は月夜野に……何もしていないのに……。
「わからないならそれも言ってあげるよ……瑠は君に同情しているんだ」
「同情?」
「そうさ、友達がいない君に同情している、そしてその原因を作ったのは他でも無い、瑠本人だからさ」
「それは……」
「君だってわかってる筈だよね、1年の時から皆に避けられている理由は」
「……ああ」
「瑠はその責任を取ったんだ……そして君はその瑠の気持ちを利用した……自分の欲望を満たす為に……違うかい?」
「…………くっ」
俺は言い返せなかった……高麗川に何も……だってそうなんだから……そう……俺はオタク同士だからなんて理由で月夜野も同じ気持ちでいる筈と決め付けていた。相性が良いからと調子に乗って自分の欲望を……。
俺は……あいつの気持ちなんて……考えて無かった……。
俺は……月夜野の気持ちを……あいつの罪悪感を……利用してた……。
そう考えた瞬間、涙が溢れた……ボロボロと涙が……止めどなく溢れた……そうか……俺は……最低な男なんだ。
「君達は……付き合うべきじゃ無かった……ううん……付き合う筈無かったんだ……悪いのは君でも瑠でも無い……全部システムのせいなんだ」
「システム……の……せい……」
そうなのか? でも……システムが無ければ俺達は……そうすれば月夜野の気持ちも……変わる事は無かった……そうか……そうなのか?
「そして、僕も同罪さ……僕はそれを見ていて、知っていて……君を助けなかった……陸上に部活に理由をつけて、君が孤立していく姿を黙って見ていたんだから」
「う……くっ……それは……関係……ない」
駄目だこんな姿を高麗川に見せてはいけない……でも……止まらない……涙が……止まらない。
「あるよ……だから2年になった時、部活に余裕が出来た時……直ぐに君に声を掛けようって……でも先を越された……瑠に先を越されたんだ……僕は何を今さらって思ってた……でも君が許したなら……二人が和解したなら、僕は何も言わないって、君達がそれ以上の関係になるなら、それは素晴らしい事だって……心から祝福しようって……そう思ってた……」
高麗川は俺を見つめる、ボロボロと涙いている情けない俺を嫌な顔一つしないで見つめている。
「高麗川……」
「でも……僕はもう黙って見てられない……君達は歪んでいる……だから僕は君達を別れさせる……もう……これ以上大事な人を失いたくない……これ以上システムなんかに大事な人を取られたくない」
高麗川は一度目を瞑り下を向く……少し考えているのか俯いたまま黙る……そしてゆっくりと顔を上げニッコリと笑った。
「僕は君が好きだ! 君が好きなんだ……」
「な!」
「さっき瑠にも同じ話をした、そして絶交しようって言ってきた」
「絶交?」
「そうさ、友達の彼氏を奪うのはルール違反だからね……僕は瑠に……君を奪うって……宣戦布告をしてきた」
「せ、宣戦布告って……高麗川お前……」
「僕は同情なんかじゃない、1年の時の罪滅ぼしでもない……僕は純粋に君と話して楽しかった、もっともっと話したいって、一緒にいたいって思った……君の為なら部活を辞めてもいいって思った……だから」
「ま、待ってくれ……待って……俺は……月夜野と……付き合っているんだ……システムに誘導されたかも知れないけど、でも俺は……まだ……月夜野の彼氏なんだ……」
「わかってるさ……」
「……月夜野は……月夜野はなんて……言ったんだ」
「僕と絶交はしないって……そして五十川君とも別れるつもりは無いって……でも……僕の宣戦布告は受けて立つってさ、五十川君は絶対に渡さないってね」
「月夜野……」
月夜野は高麗川の話しを……今の話を聞いて……それでも尚俺の事を……そう言ってくれたって事か……嬉しい……心から嬉しい……俺の中でまた、いとおしい気持ちが沸き起こる、好きだって気持ちが溢れ出す……ああ、そうか……俺は月夜野を……。
「そんな顔をされたら……僕は今完全に悪者だね……二人の邪魔をする悪者さ……でも……それでもいい……僕は君達を許さない。そんな歪んだ関係なんて承認できない。瑠の元友達として……クラスメイトとして、君の事を好きな女の子として、僕は君達の邪魔をするよ……今度こそあんな機械に大切な人を奪われたくないからね」
高麗川の顔がくしゃりと歪んだ……一生懸命の高麗川の顔……あの試合の時みたいに、ラストスパートの時のような苦しい表情の高麗川……。俺の為にそんな顔をしてくれている高麗川にキチンと言わなければならないって思った。自分の気持ち、正直な気持ちをちゃんと言わないといけないって……そう思った。
「…………正直に言うよお前に好きって言われて素直に嬉しい……でも……やっぱり俺は……月夜野が好きだ……さっき聞いたよな……どこが好きかって……俺は即答出来なかった……顔? 身体? お前に言われてそう考えてしまったからな……でも……今なら答えられる……そう……答えは簡単だったよ……」
「簡単?」
「ああ……俺もお前は好きだよ、凄く可愛いし素直だし、頑張ってる姿は魅力的だ……でもな……それは全部二番だ……二番目なんだよ……俺の一番は月夜野だ……何もかも月夜野が一番だ……一番好きなのは……月夜野 瑠だ」
「ふふふ……あはははは……君もそう言うんだ……ふふふ……僕はそれを聞いて益々闘志が湧いたよ」
「君も?」
「ああ、そうさ、僕のお兄ちゃんと同じセリフを言うとはね……」
「……そうか……」
「うん……それもシステムのせいなのかって、強敵だな……でも今度は……負けない……絶対にね……」
「…………」
「僕の言いたかった事は以上だ……ごめんね……厳しい事を言って……」
「いや……お前のお陰で……高麗川のお陰で自分のバカさ加減がわかったよ……ありがとう」
「僕は狡いだけさ……もし……ううん、これは言うのは止めておこう」
高麗川はそう言うと少し悲しそうな顔で笑った……いつも明るい高麗川のそんな一面を目の当たりにして……そんな顔をさせてしまったのはやはり自分のせいだと言う事に
(次回1部完)
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