第44話 コミフェ!
「それで……その格好は?」
「え? コスプレ?」
「コスプレで会場入りは禁止じゃなかったっけ?」
「まあ、普通の制服だし」
「それも二人でって」
「だって、知り合いにバレるのは……困る……」
「僕は困らないけど僕からバレる可能性も考慮しないとね」
そう言ってはいるが凄く楽しそうにクルリと一回りして俺にコスプレ姿を見せつける高麗川……確かそのキャラ銀髪だった気がする……。
「……だから俺もか……」
始発に乗らなくても悠々と会場入り出来るサークル参加、これが明日なら泣いて喜ぶのだが……。
早朝最寄り駅で二人と待ち合わせしていた。
朝から暑い……今日並ぶのは大変だっただろうと考えていると道の向こうからキャリーを引きながら見た事あるが見た事の無い制服を纏った恐らく月夜野と高麗川らしき二人が歩いて来た。
あれって確か『妹に突然の制服……』この間秋葉原で見たマイナーアニメの制服……恐らくそのアニメキャラのコスプレ姿で二人が歩いて来た……マジか……。
聞くと身バレを避ける為に変装したとの事……いや……確かコスプレで入場って禁止じゃなかったっけ?
制服姿で入場してはいけないわけではないからグレーゾーンか、そもそもあのアニメうちの高校のがモデルなんじゃないか? っていう位、制服も校舎も色々似ている……ついでに担任教師もそっくりだ。
「はい五十川君もこれ着てね」
「俺も?」
「五十川君もバレるのは嫌でしょ?」
「ま、まあ……で、シャツにネクタイ?」
「普通でしょ?」
「ま、まあねえ……」
3人が3人共に微妙なコスプレをするって……まあ、うちの学校の奴だってコミフェに行く人間は結構居るだろうし……。
俺は月夜野の言う事を素直に聞き、着ていたTシャツの上から白い校章入りのシャツを着る。
俺がシャツを着ると月夜野がストライプのネクタイを取り出す。
「ちょっと屈んで」
「え?」
「ほら早く」
そう言うと手早く俺のネクタイを締める月夜野って……ええええ!
「――――へーー仲良いねえ……」
「――――あ……」
高麗川に言われて初めて自分が今何をしたか気付く月夜野……。女子にネクタイを締められるって……しかも月夜野からって……何かドキドキしてしまう。
「と、と、とにかく行こう、準備が間に合わなくなる」
「そ、そうね、い、行きましょう」
高麗川を誤魔化す様に俺と月夜野はそう言って駅の改札に向かった。
そんな慌てっぷりの俺達を見て、高麗川はクスクスと笑うが、何も言わずにキャリーを持ってついてくる……。
それにしても……高麗川と月夜野が一緒に来る、しかもコスプレもどきの格好までしてなんて想定外だ。しかも何か俺達の仲を知ってるかの様な感じだし……。
サークル参加と聞いてとにかくびっくりした。オタクって事自体びっくりしたのにまさかそこまでとは……。
そして俺の前で仲良く話す二人……なにやらゲームの話みたいだが、かなりディープな高麗川のギャルゲー話に月夜野は全く動じていない。
一体二人に何があったのか、急速に仲良くなっている気がする……そんな二人を見て少し嬉しくそして少しモヤモヤした。何か疎外感というか……そんな気持ちに少しだけなった。
◈ ◈ ◈ ◈ ◈
「そうか……まあ、そうだよなあ……」
会場に到着すると周りは案の定女子ばかりだった。疎外感迄は感じ無かった……隣のサークルの人達は俺達のコスプレもどきの格好を見て少し驚いていたが、普通に挨拶もしてくれた。
「ねえねえこれが本?」
高麗川がテーブルの上に宣伝のチラシと共に梱包されて置かれている包みを指差す。
「ああ、多分……しかし結構あるなあ……」
勿論壁サークルとは比べ物にならない量ではあるが、島中にしてはかなりの量だ。
「み、見ても良いかな?」
「とりあえず1つは開けて、見本誌の提出をしないと、月夜野提出シールは?」
「ふえ?」
「いや、ふえ? じゃなくて……やっぱりか……」
俺が一番恐れていた事が現実の物となった。こいつら何も知らねえ……。
「申し込み書の中に入ってるはずだけど?」
「あ、うん、会長から一式送られて来たのをそのまま持って来たから入ってるはず……」
月夜野はそう言って持っていたキャリーを開ける……うわ……本当に丸々一式入ってる。
ポスター、値札、釣り銭用の入れ物、テーブルクロスその他諸々全部入っていた。
「えっと、えっと、ど、どうしよう……」
月夜野がキャリーケースを開け、大量の販促物を見てそのまま固まった……。
「確認してきたんじゃないのかよ……とりあえず机の上を片付けて、まずはテーブルクロス出して……」
俺が二人に指示を出す……俺の指示を聞き高麗川はテキパキと月夜野はあたふたと動き始めた……良かった高麗川を連れて来て……。
サークル参加俺だってした事は無い……なんとか見よう見まねで1時間近くかけ開場ギリギリで全ての準備を終えた……そして……。
『ただいまより第○○回コミックフェスティバルを開催致します』
放送と同時に会場から拍手が巻き起こる……これを聞くのは俺も初めてだ。
少しの間を置いて、ドドドと遠くから人の足音が聞こえて来る。不安とワクワクのコミフェサークル参加が、今始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます