第63話 やってしまった……

 

 うちの風呂は普通の大きさ、まあ人の家の風呂をあまり見た事は無いので、あくまでも予想の範疇での普通だ。


 とはいえ、ユニットバスの様に一人で限界って事はない……頑張れば大人二人入れる大きさである。


 俺は既にその大きさの浴槽に浸かっていた。

 プールみたいなもの……何も問題は無い……既に海に行ってるんだから……。


 風呂はのぼせない様にぬるま湯、全て完璧に準備した……後は月夜野が入ってくるのを待つばかり…………本当に来るのか? 俺は風呂場の入口をじっと見つめていた……。


「…………来た」


 脱衣場に人影……これで扉が開いたら母さんだったって落ちはないだろう……。

 俺は固唾飲んで待った…………そして遂に扉がゆっくりと開く…………!!


「い、五十川君……これ……ちょっとキツイ……よ」

 肩口部分を軽く引っ張りながらスクール水着(旧式)を着た月夜野が風呂場に入って来る…………ふおおおおお……。


「ちなみに旧式スク水と言うのは昭和の時代に主流だったスクール水着で収縮性胸元から入った水を抜く為股間部分がセパレートしている……所謂お腹の部分が開いている奴だ。前から見るとミニスカートを履いている様に見えるのが特徴的で……」


「五十川君……マジで超キモいよ」


「超まで言われた、って俺……声出てた?」

 しまった……つい心の文章を読んでしまった。 


「えっと……それで……どうするの?」

 月夜野は可愛らしく手を前で組、身体を捻るようにモジモジしている……いや……特に何もしなくていい……ずっと見ていたい……美少女のスクール水着姿なんて早々見れる物ではないし……ああ、出来れば俺の部屋に飾って置きたい……等身大月夜野フィギュアとして……。


 俺はツインテールにスク水そして美少女というこれ以上ない組み合わせを堪能する。

 しかし、このままって言うのはちょっと勿体ない……見ているだけなんて……と、俺はさらにこのシチュエーションで想像した事を言ってみた。


「えっと………………あ、あの……その……出来れば……月夜野を洗いたいなーーなんて、あははは」


「ひ!」

 俺がそう言うと月夜野は身体を自ら抱き扉の方へ後ずさりする……あ、言い間違えた、でもそこまで拒否されるのはなんか……。


「あ、えっと……ち、違う、その、身体じゃない、その髪、髪を洗いたいって」


「……あ、ううん……ご、ごめんなさい……いきなりだったから……でも……なんか……逆にひくっていうか……」


「ひ、ひく!」


「あ、ううん、えっと……」

 

 ヤバい月夜野が怯えてる……まあ、そりゃそうだよな。

 完全な密室、裸同然の恰好……まだ彼氏になったばかりの男にいきなり身体を洗わせろなんて言ったら、いくらなんでもそりゃ怯えるよね……。


「えっと……ごめん、じゃあ……やめとく……」

 俺が寂しそうにうつむきながら月夜野にそういう言った。


「もう…………いいよ……」

 月夜野は一度髪をかき上げると、ゆっくり俺の前まで歩き、そして洗い場の椅子に座った。それを見て俺は……浴槽から出た。


 そしてゆっくりと月夜野の背後に回ると膝をついて中腰になる。

 鏡に映る月夜野は俺を見てニッコリと笑う……風呂場は温いので鏡は曇っていない……当然いま裸でも不思議な煙は出ない。


「うちのシャンプーとか使って大丈夫?」


「うん」

 頭皮に合わない、匂いが気になる……そして親バレ……その辺を考慮してなかったのを思い出し、俺は一応月夜野に確認をする。

「じゃ、じゃあ……洗うよ」


「うん……」

 そう言うと月夜野は自らお湯を調節して温度を確認しシャワーに切り替える。切り替えた瞬間お湯が月夜野にかかりスク水が水に濡れた。


 水がかかり肌に張り付くスク水……ヤバい……これはヤバすぎる……俺は一度頭を振り髪を洗う事へ集中する。そしてシャワーヘッドを月夜野から受け取ると月夜野の背後からそっとお湯を髪にかけた。


 水に濡れる月夜野の綺麗な黒髪、絹糸の様な光沢、それは正に川……黒い川の様だった。黒い川と言っても汚い川ではない……そう、水滴と髪の光沢が星だとすると、まさに天の川の様な美しさだ。


 神々しい……俺はその美しすぎる髪に、女神の髪に触れてもいいんだろうかと、一瞬躊躇する。

 しかし洗うと言ったからにはこれで終わりってわけにはいかない、俺は勇気をだしてシャンプーを2滴程手に垂らすと、月夜野の髪にそっと塗る。本来は頭皮をゴシゴシと洗うんだろうが、さすがにそれはとリンスを付ける様に髪を撫でる様に洗う。

 しっとりした感触が手に伝わって来る。 ああ、なんていう触り心地だ。

 俺は月夜野の髪に心酔した。


「……これが五十川君のしたかった事?」


「えっと……この先があるんだけど……やっていいのかな?」


「あははは、どんと来い」


「じゃ、じゃあ」

 俺はそう言われると、とあるアニメのシーンを思い浮かべる……そうあれだ、あの兄妹のお風呂のシーン。多分あれをやれば月夜野も乗ってくれるだろう……。


 俺はシャワーのお湯を風呂桶に貯めた。そして泡の付いた月夜野の頭目掛けてそのお湯を思いっきりぶちまける。

「くらえ!」


「ええええええ! な、何?!」

 突然背後からお湯を思いっきりかけられ動揺する月夜野……通じなかったか……。


「ご、ごめん! いや、ほら兄妹でそういうシーンがあるアニメが……」


「……ああ! でもあれってスク水着てたっけ?」


「いや……裸」


「兄妹で裸……妹じゃないけど……脱ぐ?」


「ごめんなさい」

 いや、見たいけど……。


「あははは、中途半端でわかんないよ、もっとちゃんと設定しないと……じゃあ意味なくお湯を掛けた罰として、仕返しいい!」

 そう言うと月夜野は俺の顔目掛けてシャワーをかける。


「ぐああああああああ」

 バシャバシャと思いっきり顔にお湯が……お、溺れるううう……で、でも……なんか楽しくなってきたぞ!

 俺は桶で浴槽のお湯を汲むとそれを月夜野目掛け掛けた。

 月夜野もシャワーでさらに反撃をする。


「きゃはははははは」

「あははははははは」

 二人でお湯の掛け合いが始まる……月夜野の全身が濡れる……ああ、神々しい、女神の行水……。


 しばらく子供の様に二人でお湯の掛け合い……高校生が一緒に風呂に入ってこれってとお互い思ったのか一旦落ち着こうとシャワーを止めた……さて、この後どうするか……一緒に浸かるか?

 かなりお湯が少なくなっていた浴槽、まあ二人で入れば浸かれるだろう……次はそれだと……そう思った時脱衣場から妙な音が聞こえた。


『ブオンブオン、ブオンブオン』

 どこかで聞いた音、最近の……そうだ……これって!

 俺は浴室を飛び出ると脱衣場に置いてある月夜野の服を手に取る……ぱ、パンツが……

 一瞬躊躇するも今は緊急事態だ、構わずに月夜野のスマホを取り出した。


「い! 五十川君! な、なにしてるの! これって……」

 どう見ても後ろからだと下着を漁る変態だ、しかしそこで月夜野も音に気が付く


「……やっちまった」

 シャワーの音で聞こえなかったのか? 恐らくずっと鳴っていたんだろう……俺が手にした瞬間音は鳴り止む……そして画面にはメッセージが……。

 俺はそれを確認すると……恐る恐る画面を月夜野に見せた。


「警告3回無視によりサイトへのアクセスは停止いたします。罰則事項に該当する為処分が決まり次第登録学校に通達をいたします。……い、五十川君……これって」

 メッセージを読むと青ざめた顔で俺を見る月夜野……俺はスマホを月夜野に渡すとそのまま身体も拭かずにキッチンに走って行く。


  そして母さんの携帯を見た……。


「か、母さん……充電しとけよおおおお」


 電池切れ……つまり今……システム上母さんは家に居ない事になっている……やってしまった。


 

 そして俺たちは夏休みが終わる3日前に学校から呼び出される事になった。

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