第55話 ダークサイド


 家から電車に乗って30分……閑静な住宅街に月夜野の自宅があった。


 お洒落な外観……え? 月夜野ってお金持ち?


 まあ、元々月夜野のイメージは生意気なお嬢様だったから、ピッタリな家なんだけど……。


「って言うか……手土産忘れた……」


 浮かれていて、親御さんに挨拶をする可能性の事をすっかり忘れていた。


 マッチングシステムは未成年の場合親の許諾が必要、マッチングされた時には必ず付き合う旨の挨拶をしなければならない、月夜野は俺の家に来て挨拶をしたけど、俺は月夜野の都合でメールにて挨拶しただけ、実際に顔合わせはしていない。


「とりあえず挨拶だけはしっかりしないと……」

 今さらお土産を買いには行けない……遅刻するくらいならイメージを良くした方が良いだろう……。


 俺は暫く家の前でウロウロしながら頭の中で挨拶のシミュレーションをしてから呼び鈴を……。


「怪しいから早く入って来なさいよ!!」

 押そうとした瞬間扉が開き月夜野が顔を出す。


「えええええ……」

 全部見てたんですか、そうですか……。


 扉を月夜野が押さえさっさと入れと促す……え? 月夜野……ミニスカート? 

 チェックのミニスカートにノースリーブというとんでもない破壊力満点の格好をしていた月夜野……さらには黒のニーソ……白い肌の絶対領域が光輝いている。


 オタクを殺す服……月夜野まさか……俺を殺す気か……。


「えっと……ごめん月夜野……手土産とか買わなかった……とりあえず……親御さんに挨拶を……」

 小さな声で耳打ちすると月夜野は少しとぼけた感じで俺に言った。


「え? ああ、気にしないで、えっと……その……今、誰もいないから……」


「――――誰も……えええ!」


「だって……仕事に決まってるでしょ、お盆は終わってるんだから」


「あ、ああ、そ、そうだよね、あ、あははは……」

 決まっていないと思うけど……って言うかこれって……俺は慌てたこれは想定外だ。

 だって……これってエロゲだと完全にフラグが立っている状態じゃないか……彼女の部屋で二人きりって……。

 いや……お、落ち着け俺、これはゲームじゃない、フラグとか無いから!


「私の部屋2階だから……」

 俺が慌てていることなぞ気にも止めずに、そう言うと俺の目の前で月夜野は階段を上がり始めた……いやちょ待って先に上がらないでえええ。

 俺は慌てて月夜野を追った、そして月夜野にくっつく様にすぐ下を上がる。離れるとパンツが見えちゃう……おれは月夜野の細く、くびれた腰を見ながら……く……これはこれで気になる……。


「どうぞ……」

 部屋の前で少し間を起き月夜野はそう言って部屋の扉を開けた……。

 窓が大きく外の日差しが差し込んでいた。ここから見る限りは可愛い普通の部屋……いや女の子の部屋に入るのは初めてだから普通とかわからないけど……俺は一歩踏み出して月夜野の部屋に入った。


 入ってすぐ感じたのは柑橘系の甘い匂い……部屋は月夜野の匂いで満ち溢れていた。


 一人で寝るには大きなベット……白基調のお洒落な家具……ぬいぐるみ花……ただちょっと異質だったのは机に置かれた大きなディスプレイと液タブ……。


「あまりジロジロ見ないで……今お茶いれて来るからそこに座って待ってて」


「あ、うん……えっとお構い無く」


 俺は言われるがまま部屋の真ん中に置いてあるガラスの机の前フカフカのクッションに座った。

 月夜野は俺が座ったのを確認すると部屋を後にする……そして俺はその姿に感動した。


「月夜野が……俺を信用してくれている……」

 あれだけ自身の事を隠していた月夜野が……俺を部屋に一人残して行くなんて……。

 去年なら信じられない行為だ……俺は信頼されている……でも……。


 部屋に充満している月夜野の匂いで既に俺の理性は崩れかけていた。


 電車で嗅いだ月夜野の髪の匂いが忘れられない……。

 あの匂いの数倍の香りが今俺の脳を刺激しているんだ、わかるかこの状況……。

 俺の正面にはベットがある……そして可愛い枕が……月夜野の香りをタップリと吸い込んでいるであろうお宝が目の前にある……。


「ちょっとだけ……ちょっとだけなら……」

 クンカクンカしたい……で、でも……もし、もしそんな姿を見られたら……。

 俺の脳裏に数々のアニメや漫画のお約束シーンが浮かぶ……。


 これは罠だ……しかし……虎穴に入らずんば虎子を得ずだ……ちなみに昔のひとつは虎子を得て何をするんだろう……。


 そんな疑問はどうでもいい……俺は……どうすれば……行くべきか行かざるべきか……。

 投票している暇は無い……自分で決めろ、自分の道は自分で切り開け!


「おパンツ漁るよりは……」

 そんな最低行為と天秤にかけ、それくらいならと判断した俺はフラフラと立ち上がりベットの脇に座った。


「今ならまだ間に合う……」

 俺はまず前菜の掛け布団に顔を埋めた…………ああああああ……。

 フカフカの布団……柔らかい感触が心地よい、しかしやはり外側だとあまり匂いがしない……どっちかと言うとこんな良い布団使いやがってこの金持ちめ! という感情が湧いた……。


 駄目だ部屋の匂いの方が強い……これ以上はやはり……枕……しかしその時俺の中の悪魔が囁いた。


『布団を捲って顔を突っ込め、さすれば最高のクンカクンカが出来るぞ』


 そうだ……枕じゃあ髪の毛の匂いと変わらない……もっとだもっと上を目指さないと!

   お茶と言っていた、じゃあお湯を沸かすんだろう……ならまだ時間はある……。


 俺は布団をそっと持ち上げた。すると暗闇がそこにあった……ダークサイドの暗闇……いや、ただのシーツと掛け布団の間なんだけど……。


 俺は息を止めゆっくりダークサイドにその身を、いや俺の顔を委ねた。

 ……暗闇が俺の顔を闇が覆う……さあ、深呼吸だ俺はまずおもいっきり息を吐いた。



「……な……何してるの……」


「ぶふああああああ」

 月夜野の声で俺は慌てて首を出す……ああ、罠だった……お約束だった……。


 月夜野はお盆の上に麦茶とお菓子を持って部屋の前で佇んでいた。


 麦茶……そうだよね夏だもんね……熱いお茶なんて出さないよね……。





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