第54話 月光

 

 月夜野が可愛くて仕方ない……俺はベットに寝転び枕を抱き締める……。


 目を閉じると浮かび上がる月夜野の水着姿……。

 細くスラリと伸びた手足……現実離れした可愛い過ぎる顔……。


 そして何よりも目立ったのは月夜野の白い肌だ。多分日焼け止めをたっぷり塗ったのだろうか? いつもよりも白く感じた。


「出来る事なら俺が塗りたかった……」


 アニメの様に水着を取り砂浜にうつ伏せで寝る月夜野、その綺麗な背中に日焼け止めを塗る俺氏……あああああ、やりたかった。

 月夜野の手の感触、髪の感触、月夜野の匂い……そこまでは今回知れた。


 でも……もっと知りたい……もっと触れたい……。


 あの綺麗な背中を触りたかった。

 飛び付いた時どさくさに紛れて太ももは触った……いやわざとじゃないよ、でも一瞬過ぎてよくわからなかった……。


 もし月夜野の背中に日焼け止めを塗れたらと想像してしまう。

 でも実際付き合い始めでは現実的にあり得ないシチュエーション……。


 そうなんだ……俺の想像は、知識はそんな程度なんだ。


 そう……初めての恋愛……初めての彼女……この先月夜野との付き合いをどう進めれば良いのかわからない……。


 俺の知識はギャルゲーとエロゲだけ。


 でも俺の知ってるギャルゲのほとんどは告白エンドだし、エロゲは…………。


 …………出来るか!!

 そもそも月夜野はあんなに軽くない! あいつはめんどくさいんだ!!


「……いっそ……高麗川に聞いてみるか?」


『めんどくさいツンデレ主人公と付き合ってから攻略するゲームとか無い?』


『なんで付き合ってから攻略するんだ? 笑う~~』とか言われそう……。


 すると、その時俺のスマホから着信音が……〖ピアノソナタ第14番嬰ハ短調 作品27-2〗 ベートーベン月光が俺の部屋に鳴り響く。


 スマホに入っていた曲……俺の月夜野に対するイメージにピッタリだった……名前もそうだけど、静かで美しく儚げなピアノの旋律が月夜野の姿を想像させられる。


 俺は通話のボタンを押し、一呼吸置いて嬉しさを抑えながら声を出した。


「……あ、何?」


『……何って……掛けちゃ駄目なの?』


「あ、ううん、違う……えっと……何かあったのかなって」


『無かったら掛けちゃ駄目?』


「いや……えっと……全然、ぜんぜんぜんぜんぜんぜん」


『ふふふ、どこのDJよ』

 クスクスと笑う月夜野……言い忘れていたけど、月夜野は声も美しいんだ……高過ぎず低すぎず……喧嘩の時は早口だったけど、いつもはややスローで少し色っぽいしゃべり方、声で言うと永遠の17才の様な……オイオイ。


「えっと、声が聞けて嬉しい、月夜野は声も可愛いから」


『つつつ……』


「ん?」


『また……そういう事を言うし……』


「だって本当の事だもん」


『……って言うかさあ、あまり言うと……なんか信用無いって言うか』


「そうなの? じゃあ言わない方がいい?」


『え?! いや、えっと……それはそれで……残念って言うか……』


 一体どっちなんだよ? 本当相変わらずめんどくさい……。


「俺が本心からそう思って言いたいから言ってるだけ、月夜野が好き好き好きって気持ちが溢れて出て来るんだから仕方ないだろ?」


『………………』


「月夜野?」


『……ううん……なんでも……えっと……あのさ……しゅ、宿題やった?』


「宿題? 突然だなあ、えっと宿題って言ってもうちの学校は簡単な物ばかりだし、2日もあれば終わるだろ?」

 自主性を重んじるという校風なので宿題とかは殆ど出ない、それでも全く無いわけでは無かった。ただその量は少なくそれこそ提出のタイミングによっては夏休みが終わってからでも十分間に合うそんな程度だ……去年他の奴らは皆学校始まってから友達どうしでパパッと見せあったりしてやっていた……俺は……聞くな!


『……まあ、そうなんだけど……終わってないなら一緒にやろうかなって』


「ああ、良いねえそういうイベント、でも一緒にやったら638年と110日一緒にいられたかも知れないのに終わっちゃうよ~~」


『私はあんな黄色い変なカチューシャ持って無いから』

 リボンだとああいう結び方は出来ないらしい、なので、あれはカチューシャ説が有力らしい……さすがだ月夜野!


「でも去年の理不尽な言動は少し似てたよ」


『…………いじわる』


「ごめんごめん……良いよ、じゃあどこでやる?」


『……えっと……あの……えっと……あにょ……あのね……よ、よかったら……私の……部屋とか……どうかな?』


「……………………えええええええええ!!」


『……いや?』


「ううん……月夜野が良いなら……是非」


『えへへへ……じゃあ……明日、後で住所送るね……』


「あ、うん……」


『あのさ……五十川君……さっき言えなかったけど……私もだから』


「え?」


『私も……大好き……だから……じゃ、じゃあね明日待ってるね』


「あ、うん、ありがとう……楽しみにしてる」


 そう言い俺達は少し慌てる様に通話を終えた……って言うか、えええええ!!


 ヤバい……月夜野の部屋に呼ばれてしまった……どうしよう……。


 確か何かで読んだ事がある……そう……代表的な初体験の場所の一つそれは……


 『彼女の部屋』

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