第19話 カップル(仮)



 「「あ……」」


 喫茶店には同時についた……学校を出てなんとなく裏道を歩いていたので、いつも通り教室で捕まっていた月夜野と到着のタイミングが重なる。


 隣の席で朝から一緒に試験を受けてたので今さら挨拶をするのも変、と言うことで何も言わずに無言で喫茶店に入る。

 

 店員に二人と告げいつもの席を指差すと「どうぞ」と言われたのでそのまま無言で席に向かった。


 席につくと同時に店員さんがお水を持ってくる、注文はいつものようにコーヒー2つ、アイスにするにはまだ早いので二人ともホットで注文した。


 いつもはこの会合を早く終わらせたいのか直ぐに話始めるのだが、何故か今日は無言でコーヒーを待っていた。


 そして数分後、コーヒーが目の前に運ばれるも月夜野は黙っている。俺もいつ話を切り出すか考えていた。


 そしてそのままコーヒーも飲まずに5分程経ったが俺も月夜野の何も喋らない。俺は意を決し、勇気を出して聞いた。


「月夜野って今好きな人いるのか?」

「五十川君て、男の子が好きなの?」

 俺と同時に月夜野が何かを言ってくる……。


「……」

「……」


 なんか凄い事を言われた気がした。しかも月夜野も何かポカンとしていた。

 同時に言葉を発したので聞き取れなかったのかもと、もう一度はっきりと言ってみた


「五十川君て、男の子が好きなの?」 

「月夜野って今好きな人がいるのか?」


「「はああああああ?」」


 今度は聞こえたらしく反応があった。そして俺もはっきりと聞こえた。


「「ど、どういう事?」」 

 またもやシンクロしたが今はそんな場合じゃない! い、今なんつった!!


「ちょっ、ちょっと、どういう事だよ!」


「そ、それはこっちのセリフよ!!」


「男ってなんだ男って、システムは出生率、人口の増加を目指してるんだから男女のカップリングに限定されてるんだ。利用している俺にそんな趣味があるわけないだろ!?」


「私に好きな人って、システム使ってるんだからそんなわけないでしょ!」


「「不正使用で捕まりたいの!?」」


 俺と月夜野がまたもやハモる、一体何が言いたいんだ? 別に同性愛を否定するつもりはないが、俺にそんな趣味はない! お前こそ百合なんじゃないのか!? あああ、さては池袋で会ってたのは彼氏じゃなくて彼女か?!


「なんで俺がそうだと思ったんだ?」


「え!! い、いや、な、なんとなく……かなあ」

 月夜野の目が泳ぐ……なんだその目は金魚鉢か!


「なんとなくでそんな事言うな!!」


「だって……って、あんた何を強気になってるの! あんたも同じような事言ってるでしょ! なに? 好きな人って! 私に好きな人がいたらシステムなんて利用してないわ! なんでそんな事言うの!!」


「あ、いや……なんとなく……かなあ」

 あれ? 俺も今目が泳いでる? ああ、なんかプールに居る様だ~~。


「なんとなくって何よ!!」


「なんとはなくなんとなくだよ!! そっちだって言ってるだろ!」


「ああ、もう大きな声を出さないで!!」


「そっちこそ大きな声だしてるだろ!!」


「あのう……」


「何よ!」

「なんだよ!」


「ひっ! …………お、お客様……大変申し訳ありません、他の方のご迷惑となりますので、もう少しお静かにお願いします」

 お盆を持った店員さんが俺たちに怯みながらも注意をしてくる。


「「あ、す、すみません」」

 またも店員さんに怒られる俺と月夜野……次やったら出禁になるかも……。

 椅子の陰に隠れて周りからの冷たい視線を避ける。


「だから嫌、男って直ぐに大きな声を出すから」


「いやいや、今のは月夜野の方が大きかった……まあ、いい……で、一体どういう事なんだ?」


「な、なんとなくよ」


「なんとなくって……」


「そっちこそなんでよ」


「……まあ、俺もなんとなく」

 なんとなく以外言えるわけが無かった……ストーカー紛いの行為をしたわけだし……。


「ふん……まあいいわ……」


「あ、ああ」

 何か月夜野にも探られたくない腹でもあるのか? とりあえず納得してくれた以上俺も納得するしかない……。


 俺と月夜野は一旦気持ちを落ち着かせる為にコーヒーを一口飲む、どうでも良いけどなんか色々シンクロするなあ、気持ち悪い……。

 

 そしてひとしきり落ち着いたのを見計らって俺が先に切り出した。


「そんで次はどうするんだ?」

 そう、俺達は1年間会い続けなければならない。システム上は試験で2週間も会っていない事になっている。


「それなんだけど……私……少し考えたの……」

 俺がそう言うと月夜野は先ほどとは違った表情で俺を真剣に見つめる……一瞬カップリング解消の話かと思いドキッとしたが、月夜野はそれとは全く真逆の話をし始めた。


 「私達……このまま1年間こんな風に嫌々会ったりなんて事をするのは勿体ないと思うの……私も貴方も異性と付き合うのは初めてでしょ?」


「ああ、まあ……」


「だったら、もう少し恋人らしく付き合うってのはどうかなって?」


「ええええええ!」

 俺は驚いた、いやいや驚くだろう、さっきまたいつもの喧嘩をしたばかりなのに……そんな提案をするなんて……。


「か、勘違いしないでよね、別に貴方の事が好きだとかそういう事じゃ何いんですからね!」


「なんでそんなにツンデレ?」


「ツ! な、何かなあそれって」

 絶対知ってる言い方だよなあ、しかし今はそんな事より、月夜野の言っている事が気になる。


「そ、それで?」


「だからね、私も貴方も1年後には別の相手とカップリングされるかも知れないじゃない? だからそれを想定して仮想カップルとして1年間過ごせば次は失敗しないと思うの」


「……まあ、そうかも、でもなあ……」


「だめ?」

 首を傾けおねだりするように言う月夜野、畜生なんでこいつの顔はこんなにも俺の理想なんだ……。


「長い時間一緒に居たりすると、結局今みたいな喧嘩になるんじゃないかなって思うんだが」

 もう1年以上こんな事の繰り返し……おれと月夜野の相性は最悪なんだろうなあって思う。ポンコツだなあのシステムは……。


「だからよ! だからこそ恋人の振りをして少しでも相手に合わせられれば次は行けると思うの!」


「うーーん、まあ……それはあるかもな」

 月夜野とある程度上手くいけば、他の誰でも上手くいく気はする。


「これだけ相性の悪い組み合わせなんて多分奇跡よでしょ? だから敢えて付き合って見れば他の人なんて余裕だと思うんだけど、どう?」


「まあ、どっちにしろこうやって会わなきゃいけないんだし……嫌々よりもそう思った方が少しはお互いの為になるよなあ…………わかった……そうしよう!」


 そして俺と月夜野は次回のデートの打ち合わせや、いくつかの約束事をした。

 解消まで残り約11ヶ月、そこまで俺たちの付き合いが持つのかわからないが……。


 それにしても、何で俺が男好きになるんだろう? なにか俺からそんな空気でも醸し出してたのか?

 

 も! もしや……こ、こないだBL同人を見たからかも……恐るべし……。


 とりあえず俺は、当面はBL本は見ないと心に誓った。

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