第40話 サークルチケットは3枚です。
夏休みに入り久しぶりに五十川君とデートに行ってきた。
デート場所は漫画喫茶。
お互い好きな漫画をただただ読み耽るという、なんとも言えないデートになった。
でも……なにか今までとは違う雰囲気というのか、二人の間に流れる空気が違うというのか……。
彼は私の秘密を誰にも言わなかった。あの後でも普通に、今まで通りの彼でいてくれた。
――――冗談で……半分本気で身体を……って言ったのに……私に興味ない?
私の理想の人に……彼は近いのかもしれない……。さすがシステム……。
多分……私は彼の事が五十川君の事が気になっている……優しくて、口が固くて、そして元スポーツマンで、オタクで……。
あんな人他に居ない……いたとしても出会えるかどうか……システムは当然年齢と共に理想の人に出会える確率が下がる。普通の恋愛と一緒……カップルは理想の人を見つけたら離さない、離すわけがない。つまり年齢若ければ若い程理想の人に出会える可能性が高くなる。
それでも成功率が極端に下がらないのは、人は年齢と共に妥協するからだ……でも男の子が苦手な私は……彼を拒絶して来年の人に妥協できるとは思えない。
ひょっとしたら……もう彼の様な人には二度と出会えないかも知れない。
……今さら素直になれない……ううん、違う……彼に対してして1年間してきた事を考えたら、私の好意を押し付ける事なんて出来ない。
今さら彼の優しさにすがるなんて出来ない。彼をこれ以上困らせたくない。
もし彼と初対面だったら、こんな思いをしなくて済んだのに。
「システムのバカ! 距離くらい考慮に入れろ」
ただの八つ当たり、そんな思いでシステムのサイトから何か来ていないか確認の為にスマホを見ると、メッセージが1件入っていた。
「サークルの連絡?」
もう2日前なのになんだろう? 原稿はとっくの昔に送ったのにとメッセージを見ると……。
『サークルウミボウズ代表千秋でございます。毎度原稿ありがとうございます。
突然の連絡申し訳ありません、顔出しNGの夜月様には大変心苦しいお願いなのですが、私を含めたサークルメンバー3人が季節外れのインフルエンザに罹患してしまい、コミフェに間に合いそうにありません。周囲の者も皆サークル参加するとの事でどうにもならない状況です。しかしながらこのまま辞退すると、夜月様の原稿も私達の努力も全て水の泡となってしまいます……印刷代も……つきましては、私達に代わりご参加願えませんでしょうか? OKでしたらサークルチケットを至急お送りさせて頂きます。是非ともよろしくお願い致します。』
「ええええええええええ!」
サークル代表からメッセージが来た……インフルエンザ? 真夏に? 全員?
私の最後? の秘密……それはBL同人活動をしている事……書き手として。
サークルウミボウズでBL同人を書いている。基本文章なんだけど、挿し絵も下手だけど少し書いている。
顔出しNG本名も住所も代表しか知らない、宮城のサークルなので顔合わせもした事がない……それでも良いと言ってくれた。私の作品を気に入ってくれた。
中2の時入ったんだけど年齢を明かしてびっくりされた。まあ中学生でBL小説、しかも結構ガチなのを書いてる事がありえないから当たり前かも知れない……。
それ以来の付き合いだった……中学生は原則サークル参加出来ない……まあ、付き添いって事ならいいんだけど、恥ずかしいって事もあって……ただ原稿を書くだけの私を置いてくれて、文句を言うサークルメンバーもいただろうに……。
だから恩も義理もたっぷりとある。中学生の時は行けなかった私の代わりに同人誌を一杯送ってくれたりしてくれた。
優しいお姉さんって感じで凄く好きだった。去年はお婆ちゃんが倒れて行けなかった。今年こそはと思っていた。
だから私はオタを止められなかった……サークル活動を止められなかった。
「どどどど、どうしよう!」
初のサークル参加、いや、そもそも私コミフェに行った事がない……入場の仕方も知らない。それが……売り子?
「売り子って一人で出来るの? だって何時間も居るんでしょ?」
私は調べた……すると最低2人、少なくとも3人は必要と書かれている……。
大手サークルではない、でもそこそこの部数は出る。千秋さんはそれなりに知られている作家さん……。
「無理……一人では絶対に無理」
かといって……頼める人なんて…………。
その時私に天からの啓示が。
『いるじゃーーないか、お前には頼りになる人が1人、理想の男が……いるじゃあないか』
「…………いた」
でも……それは全てを彼に話すという事……私の全てを彼に……。
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