第39話 内緒!


「でもさ……それでよくシステム利用する気になったなあ」

 そこまでされて、裏切られて、拒絶されて……男嫌いになって……なんでシステムを利用したんだろうか? それこそ二度と人を好きになんかならない、少なくとも俺だったら数年は無理だろう……でも月夜野は今年いきなりシステムを利用した。


「システムだからよ……」


「だから?」


「少なくとも私はもう自分から男の子を好きになる事はないと思ったの……だからシステムを利用した」


「だから?」


「そうよ……好きになれないなら、それでもいい、でも……彼氏がいらないってわけじゃない……私には夢があるから」


「夢?」


「そうよ、女の子なら誰でも見る夢よ」


「でも……それとシステムと繋がらないんだけど」

 好きになれないからという月夜野の言葉……俺にはその意味が理解出来なかった。好きになれないのに何故?

 月夜野は俺の表情から悟ったのか、俺が言う前に自らその答えを言った。


「だってシステムが選んだ相手って私の理想の人なんでしょ? 成功率90%なんて、普通の恋愛じゃありえないわ」

 そう言うと天使の様にニッコリ微笑んだ。いままで俺に見せた事の無い月夜野のその柔らかい表情……こいつってこんな顔で笑うんだ……そう思い俺は月夜野の顔をじっと見た。


 綺麗な顔……改めて思う、こいつは本当に綺麗で整った顔だ。美しさと可愛さも併せ持つその顔立ち、そしてこんな笑顔を見せられたら、落ちない男はいないんじゃないか? って思わされた……。


「……つまり……貴方は私の理想の人なのかな?」

 今度は今までの意地悪さを少し足した小悪魔の様な笑顔でそう言う……前のきつい月夜野、そして今少し柔和になった月夜野、その二人が合わさった様なその姿は……まるで……俺の理想の人そのものだった。


「そ、それは……」


「……私は……貴方の理想の人なのかな?」


「……えっと」

 畳み掛ける様に月夜野は俺にそう言う……ゴスロリ姿が様でこんな言い方されたら……。




「って言い方すれば好きよねえオタクって……あはははは、ねえねえどうだった? フラグ立った?」


「…………は?」


「は? じゃなくて、ほら私達トレーニングの最中でしょ? 次の相手の為に」

 

「あ……ああ、そ、そうだよな」


「貴方がオタクだったって事は次もそうなる可能性があるって事よね! システムってやっぱり凄いなあ、わかってるじゃん」

 さっき泣いたカラスがって程月夜野はあっさり切り替えいつものモードに戻った……。

 えっと、あれ? いや……これから俺と月夜野が本格的に付き合うとかそういう展開になるんじゃないの?

 身体がどうとか言ってたし、いや……まあ俺がクラスで月夜野のオタをバラすとか無いけどさあ……でも……でもさあ……。


「あれ? あれあれ? 五十川君なんか残念そう……ま、まさか本気で私に恋しちゃった?」

 ケラケラと笑いながらそういう月夜野、くっそう……なんであんなに嫌だったのに、今はこんなに可愛いって思うんだ俺……単純かよ。


「そ、そんなわけないだろ!」


「そ……そうだよねえ、あははははは」


 月夜野がまた笑う……今度は少し力無く……でも前よりも全然いい、これで次からの月夜野とのデートが楽しくなるかも知れない。そしてそれは俺にとっても月夜野にとっても、とても有意義な事になるとそう思った。でも次はどこに行けば……。


「あ、そうそう、あのね、次のデートなんだけどね」


「ああ、今それを」


「ごめん、私ちょっと追い込まないと駄目なんだあ、だから当分パスね」

 可愛く手なんか合わせて俺にそう言う……って! ええええ?


「えええ? 当分って?」


「えっとねえ、夏休み迄かな?」


「夏休みって……一ヶ月も先じゃ、警告来るぞ? いいのか?」

 いや、決して今の月夜野なら楽しいデートになるのに残念とか、あわよくばとか思ってないんだからな! 警告が来て困るのが月夜野だからそう言ってるだけなんだからな! と誰得のツンデレを言ってる場合じゃない! 一ヶ月は本当に来るかも知れない。


「大丈夫大丈夫、もうすぐ期末でしょ? あと1回くらい喫茶店行っておけば平気だよ」


 高校生が利用するにあたってシステムは試験、つまり定期考査の前や受験の前はある程度許容範囲が設けられている。なので、一ヶ月と言っても実質2週間程度となるので、1回喫茶店で会合すれば確かに許容範囲内だろう。


 月夜野が試験を追い込みたいと言っているならそれは仕方がない…………あれ? 試験? 追い込む?


「追い込むって……学年トップクラスのお前が?」

 いいか? 俺の成績は聞くなよ? 絶対に聞くなよ! お兄さんとの約束だぞ!


「え? ああ、追い込むのは勉強じゃないよ」


「そうだよなあ、お前が追い込むとか……じゃ、じゃあ……一体……なにを?」


「え? えっとねえ……内緒!」

 月夜野は片目をつむり口に指をそ一本当ててそう言った。 くっそなんでこんなテンプレが一々可愛いんだ畜生~~~!


 今日月夜野の事を色々知った。中学の頃の事、オタクだという事。だが……それは……ほんの一部だった事いう事を……俺はこの後知る事になる。


「さあ、じゃあ! これで……こころおきなく秋葉回りするよ!!」


「ええええ! 俺……もう……お金が無い」


「割り勘にしてあげるから、ほら立った立った」

 割り勘……俺が頼んだのはアイスコーヒー1杯だけどな……ま……いいか。

 その後暗くなるまで二人で同人やゲーム店、ガチャコーナーや怪しい自販機など普通? の秋葉原を満喫し今回のデートを終えた。


 そしてあっという間に試験が終わり夏休みが始まった。長く短い俺と月夜野……そして……高麗川との夏休みが……。

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