第14話 乙女ロード


 待ち合わせ場所は池袋駅東口、今日が2回目のデート日

 そろそろ中間考査があるし、次はいつになるかわからない。

 まあでも、別にねえ、寂しくなんかないから。


 俺たちは1年限りの付き合いだから……寂しくなんてない。


「お待たせ」

 月夜野が笑顔で俺にそう言った……お待たせ? 

 池袋東口、道路を挟んで斜め前の有名小売店から、威勢のよい放送がこだまする。

 信号が変わり目の前の車が一斉に走り出す。

 うん、間違いない、別に異世界に飛ばされたわけじゃない……。


「な、なによ! なんか言いなさいよ」


「あ、いや、ごめん……」


「ふん、なんかキモ」

 相変わらずの物いいであったが、いつもと表情が違う。あのゴミを見るような目つきは消えていた。

 春っぽい青のストライプのワンピース、少し大きなベルト、赤いパンプス、うわ~~めっちゃ可愛い……いやいや、勘違いするなこいつは月夜野、いやいや俺と付き合ってるんだから。

 

「いや、ごめん……行こうか」


「そうね、こっちだっけ?」

 月夜野が南側の道路を指す。俺はとりあえずスマホのマップを起動させた。


「うん、あってる、えっとじゃあ行こう」


「うん!」

 そう言って笑って返事をする……、あれ? なんだ? 何が起きてる? 月夜野が……滅茶苦茶素直だ……。


 駅前大通り、デパートのショーウィンドウを眺めつつ大手本屋に向かう。

 少し歩くと道の反対側に目的のビルが、地下1階から地上9階まで全て丸ごと本屋、本好きには堪らない場所であった。

 まあ、今日は月夜野がいるので、漫画やラノベは避けて……あれ? そうすると本屋で何を見るんだ?

 本屋に行くのは、アニメ雑誌やムック本漫画やラノベ、あとは参考書? 月夜野と本屋に行ってなにを見ればいいんだ?

 なんて困っている間に到着してしまう。


「大きい……」

 本屋の入り口で月夜野がそう呟く。


「あれ? ここに来るの初めて?」


「うん、池袋はいつも……あ、うん、ここは初めてかなあ」


「いつも? どこに行ってるの?」


「え!」

 俺が何気なく聞くと月夜野は思いっきり大きな声で驚きの声をあげる……そんなにびっくりする質問か?


「い、いや……そんな驚かれるとは、いいよ別に言わなくても」

 俺は気を使ってそう言った。そうだよね、彼氏でも無いのにそんなプライベートな事を聞くのはおかしい……つい調子に乗っちゃったよ、また月夜野に毒を吐かれる。そう思っていたがまたも月夜野は俺の予想に反して、毒を吐くどころか、すまなそうな顔で慌てて喋り始めた。

 

「ううん、ち、違うの、えっと……そうそう買い物、買い物ね、あ、ほら最近下着を買ったからついびっくりして、うん、そう……そうれだけ、何も他意なんてないわ。池袋は西ね、西口のデパートによく行くから、東口は全然来た事ないよ、サンシャインの方とか行かないなあ~~」

 

 何故か今日の月夜野は饒舌に喋る。でも何か隠す為に余計な事を言っている様な、わざわざ俺に下着の話しなんてしなくて良いのに……あとサンシャインってこの間も言ってたけど……なんだろうか……。


 まさか! そう言えばいつも秋葉に行くから行った事なかったけど……確か……あそこアニメイトがあったはず……。


 そう思った瞬間俺は焦った。月夜野が何かを隠してるってのは……ひょっとして……俺のオタ趣味を見抜いてるって事か?

 俺に遠慮して誤魔化してる? 一瞬そう思ったが、それは直ぐに否定した。

 何故なら、俺がオタ趣味と分かったら、月夜野はそれを必ず突いてくる。マウント取ってボコボコにしてくる……そういう性格だろ? だからそれは違う、違うはずだ。


 そうするとあそこに何かあるのか?……なんだろう? 凄く気になる。



「どうしたの? 入らないの?」


「あ、ごめん」

 店の前でついそんな事を考えてぼーっとしてしまった。 とりあえず入らないと……。


「えっと……どのフロアにする?」


「え!」

 俺が聞くと何故か驚かれる。なんだか今日は何を言っても驚かれるなあ。


「いや、ほらこの本屋9階まであるし、何を見るか決めないと」


「ああ、うんそうだね、えっと…………ま、任せるわ!」


「え!」


「ど、どうして驚くの!」


「あ、いや……」

 今度は自分で驚いてしまった。な、なんなんだ一体……。


「な、なにか困る事でも? エッチな本とかは……止めてねそれ以外ならどこでも……」


「い、行かない、行かないよ! そんなの買った事ないよ」

 3次元のそういう本は買った事ない、漫画や同人なら……一応は……。


「え!」


「いや、なぜ驚くんだよ、ああ、まあ驚くのか……普通はそうか」


「ううん、違うの……だったらあの本棚はって……」


「なに? 本棚?」


「ううん、なんでもない、ほら、私来た事無いから、五十川君の良くいくフロアでいいよ」

 そう言って笑う月夜野……、なんだか今日の彼女はとにかく笑って驚いて表情豊かだ……呼び方も相変わらず五十川君だし……一体どうしたんだろうか?


「じゃあ、えっと……参考書とか見てみる、結構豊富だよ?」


「あ、うんそうね、もうじき中間試験だしね、行って見ようか」


「ああ、うん」

 俺と月夜野はとりあえず、参考書のフロアに向かった。


 しかし、月夜野は一体どうしたんだろうか? そしてサンシャインに何があるんだろうか?

 俺はエレベーターに乗りながらずっとそれが気になって考えていた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る