第13話 あのセリフが気になる

「ごめん、少し言い過ぎた」

 うつ向く月夜野俺はそう声をかけた。


 月夜野は黙って首を降る……下を向いて表情が見えない。

 謝った事でプライドを傷つけたかも……、ああどうしよう、こういう時なんて声を掛ければ……俺はアワアワしていた。


 な、何か話さなきゃ、えっとえっと……。


 女の子と付き合った事が無い、そもそもろくに話した事もない。

 こういう時はどうすればいいのかさっぱりだ。でも何か、何か言わなければ、それがさっき言った向き合う、信用して貰うって事だ。


 俺は考えた…………そうだ月夜野にずっと聞きたかった事があったんだ。


 俺は思いきってそれを月夜野に聞いてみた。



「あ、あのさ……月夜野って……アニメとか見るの?」


「ふえ!」

 そう言った途端月夜野は顔を上げて驚きの表情で俺を見た……な、なんだこの反応?



「な、な、なななな、何で!!」


「え? あ、いや、ほら、時々アニメのセリフっぽい事言うから」


「い、いいいいいい、いつ!」


「えっと……あんたバカとか?」


「そそ、それがそうなの?」


「ああうん、ヱヴァ○ゲリヲンのア○カのセリフ…………だったかな確か……」

 エ○ァ位は大丈夫だよな、オタじゃなくても見るし……俺は少しだけ誤魔化して聞いてみた。


「そ、そうなの、へーーー、あんたバカって言うんだ」


「いや、厳密にもっとこう……あんたバカぁって感じ……だったかなあ」


「へーーーへーーーそうなんだぁ、じゃあ私の言い方と違うね」


「ああ、でも後はえっと……ああ、40秒で支度しなとか」


「へーーーー、へーーーーーそ、それそうなんだ」

 なんか誤魔化してる様な口調だけど、さすがに知ってるだろ?


「えっとこれはジ○リのなんとかの城ラ○ュタで出てくるセリフ」


「ああ、ああああ、ハイハイ、ジ○リね、うん見たことあるよ宮崎さんだよね、それは、えっと猫バスとか出てくるんだっけ」


「それはト○ロ…………だったかなぁ」


「ああ、そうなんだト○ロね、うんうん両方見たことあるよ、うん」

 凄く嘘っぽい口調でそう言う月夜野、何か変? でも自分のオタがバレるから慎重に聞かねば。


「あ、えっと……五十川君てそう言うの……よく見るの?」


 五十川……君? いつもあんたとか呼んでるのに五十川? しかも君付け?


「俺? ああ、まあ友達と話す事があるから、ゆ、有名なのだけチョロチョロっとね、ほんのさわりだけ、みたいな?」

 そしてここでいつもなら月夜野が、あんた友達いないでしょ! どかーーんとなっていつもの通りに……。


「あ、うんそうだね、私も、ほら……そういう友達いるから、少しは、有名なのくらいは……見ないとね」


 あれ突っ込みが……ない? どういう事だ? でもこれ以上は危険この辺りで撤退した方が……と、俺はそう判断をした。


「そ、そうだね、あはははは」


「う、うんそうだね、あはははは」


「あはははははははは……」


「あはははははははは……」


 二人して向き合って笑う……いやさっき言った向き合おうって、こういう事じゃ無いんだけど……。


「えっと……じゃあそろそろ帰ろっか」


「あ、うんそうだね」

 俺と月夜野は何か誤魔化す様に同時に立ち上がるとレジに向かった。



 全部聞けなかった……でもこれを聞いたら俺のオタがバレる。でも……今考えるともの凄く気になる会話を思い出した。


 それは月夜野が言ってた、『汚物は消毒』と、今日言っていた『諦める勇気』両方共に有名だけどかなりマニアックなアニメ作品のセリフ……一般人会話に入れるとは思えない。ましてや月夜野が見てるとも思えない。


 でも勇気はともかく何も知らなくて、消毒って言葉が出るか?


 まさか……月夜野って……オタ? ま、まさか……ねえ……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る