第82話 再スタート
「えっと……久しぶりね」
「あ、うん」
謹慎明け……いや、別に謹慎していたのは俺だけなんだけど、それも1週間、システム利用停止が開けた俺達は久しぶりにいつもの場所、いつもの喫茶店に集合した。
瑠とは同じクラス、なので毎日の様に顔を合わせていた。
この間みたいに呼び出す事も出来た。
でも、こうやって瑠との正式なデートは久しぶりだった。
会うなりこう、劇的に抱きしめちゃう様なそんな期待も想像もしたが、あまりに久しぶり過ぎて、俺達ってどんな関係だったか思い出せない様な、そんな嬉しい様な気まずい様な変な空気が、変な雰囲気が僕らを包んでいた。
そしてそれは主に瑠の方に、俺との間に壁を作っているって……そんな感じがしていた。
「えっと……とりあえず、どうするの?」
「あ、うん……ど、どうしようか……」
言われてそう返事すると、彼女の顔からピキッと音がした様な気がした。
俺は上を向いて考えていたが、彼女の様子がおかしいのに気が付きそっと彼女の顔に目線を戻した。
ひいいいいいい!
「……は? 考えて来なかったの?」
あ、あれ? 俺達って……ラブラブカップルじゃ無かったっけ?
久しぶりに見た瑠の悪意に満ちた……って言うか、悪意しかない目……いや、なんか以前よりもより強い意思を感じる。
こいつ絶対暗器とか持ってそう。
ポケットに毒針でも仕込んでそうな、そんな顔で(どんな顔だよ……)俺を見つめながらそう問いかける。
「いや、えっと一緒に考えようかなと……」
「へーーそうですか、そうですか、この1ヶ月で、菫とあんたは、あんた主導で仲良くお出かけしてるし、桜ちゃんとはお家で随分仲良くしてたみたいにじゃない! ふん!」
「いや、え? な、何で知ってる!」
は? え? 高麗川のとはデートじゃなくて半分無理矢理ゲーム屋に誘われて、そのまま帰るのも何だったから「ファミレスにでも行こうか」って言っただけで、いや、そもそもこれは誰にも言ってないし、そんなたいした事じゃないし面白くもない話だからそもそもカットって、何を言ってるんだ俺は……。
「──菫とは、あんたとの事はちゃんと言えばお互い不可侵にしようって、そういう話になってるの! 桜ちゃんはこの間あった時、あんたがトイレに行ってる間にアドレス交換させられて、それで送られて来たのがこれよ」
瑠はそう言うと俺にスマホの画面を見せつけた。
「へ? あ、ああああ! いや、違う!」
画面には俺が桜の上にのし掛かり両手で押さえ付けている写真が、しかも俺の表情はニヤニヤしていて、桜は泣きそうになっている。
いつの間に撮ったのか? 桜と家で練習してた時の、フォール勝ちした時の写真がそこに。
てかこれてどう見ても俺が桜を襲っているとしか……。
「違う、違うんだ!」
「ふーーん、桜ちゃんて中学生だっけ? これは通報した方が良いのかなあ?」
「ま、待て、話せばわかる!」
「撃ち殺していい?」
「お前は青年将校か、 違う! それは!」
「わかってるわよ、あんたが桜ちゃんと練習してたって……」
「え? いや、まあそうなんだけど」
「もしこれが本当にそうだったとしたら、あの娘はもっと笑顔だったでしょうしね!」
「いや、そこまでわかってて」
「それぐらい言わせてよ! 言いたかったの! 自分ばっかり楽しんで……私が……あなたの……彼女なのに……」
瑠はアイスコーヒーのストローでコップの氷をカラカラ慣らしながら、グルグルとかき回す。
俺が何か言うのを待つかの様に、黙ってコップを見つめている。
「ごめん……」
「……別に……」
「わかった……じゃあ今日は……俺が瑠を楽しませる!」
「え?」
「俺達の再スタートだ!」
俺は立ち上がり瑠の手を取った。
「ちょっと、待って、まだコーヒーが、ちょっと瞬!」
さあ、どうやって瑠を楽しませようか!
俺はワクワクしながら瑠の手を強引に引っ張り、店を後にした。
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