第83話 聖地巡回


「いっけぶっくろ~~」

 俺は某妹アニメのキャラの様に駅前の道端で両手を上げてそう叫んだ。


「…………」


「どうした?」

 テンションアゲアゲの俺の横で全く乗って来ない瑠さんがジト目で俺を見ている。

 なぜ? 池袋だぜ? 聖地だぜ? もっと上げていこうぜ!

 そう心で叫びながら、笑顔で瑠を見るが、瑠は俺の笑顔を見るなり、更に不機嫌そうに眉間に皺を寄せながら言った。


「いえ、なぜに……ここ?」


「いや、言ったじゃん、瑠を楽しませるって」


「……恋人同士の久々のデート、それも彼氏が任せろって言って連れて来た場所が乙女ロードってなんなのよ!」


「いや、だって、瑠が一番喜びそうな場所で一番に思い付くのはここだし」


「うーーわ最低~~」


「ええええええ?」


「センスの欠片もないのね、折角のお洒落も台無し」

 何処かのお嬢様キャラ宜しく長い黒髪をかきあげ不機嫌そうにそう言う。


「だ、だって……」


「こ、恋人ならまずは服を誉めるとかあるでしょ? これだから……」


「ご、ごめん」

 言われて見れば可愛らしいワンピース姿、今までとは(ゴスロリ等)違うその姿に今さらながらこいつの可愛さを再認識する。


「折角私が覚悟を決めて……どこでもって言ったのに……それがここって…………」

 ゴニョゴニョと話す瑠……いや、でもここ以外だと秋葉原になっちゃうし、それは俺が喜んじゃうし……。


「……はあ」

 た、ため息までつきはじめる瑠、じゃあどうすれば? どこへ? 俺は仕方なく瑠に聞いた。


「えっと……ごめん……じゃあとりあえずここは」


「は? 行くに決まってるでしょ? ここまで来て帰るって選択はよりないわ」


「……おい」


「うるさいわね、いくわよ!」

 開き直ったのか? 途端に笑顔で俺の手を掴み乙女ロード邁進する月夜野さん……くそ……なんだよ一体、やっぱり嬉しい癖に……本当にこいつはムカつくけど……素直じゃないけど、それでも可愛い俺の彼女……。


「やっぱり……好きなんだよなあ……」


「……何か言った?」

 

「いえ、何も……」

 俺の手を引っ張りながら乙女ロードに向かって突き進む瑠……そして俺は瑠がさっき言っていた事が気になっていた。


 覚悟ってなんだろうか? と言う事を……。


◈◈◈


「ご、ごめんなさい……」


「……いや、楽しそうでよかった」

 あれから5時間……瑠は5時間かけて各店舗を回った。

 自粛期間はこっちの活動も自粛していたらしい……瑠は目を輝かせて思う存分BL本を買い漁っていた。


「と、止めてよ」

 瑠は恥ずかしそうにコーヒーを啜りながらそう言う。

 いや……目をぐるぐるにして嫌がる俺の首根っこを押さえつけ執事喫茶に連れ込まれた俺に、お前をどう止めろと?

 俺は辺りを見回す、近くにいた美男と呼べる長身の黒服男性がこっちを見て静かに微笑む……「ふえ!」その瞬間瑠から奇声が……いや、お前今あいつと俺をカップリングしただろ?

 どっちが……とかは今後の為に聞かないでおく。


「で? どうする?」


「それは貴方が! ってそうね……ごめん」


「いや、いいよ……えっと、そういえば瑠は門限とかってあるのか?」

 そろそろ夕方、そう言えば俺は瑠の家庭の事情を全く知らない……。


「え? まあ常識の範囲では……」


「そうか……そう言えばマッチングシステムに夜の制限ってあったっけ?」


「一応無いみたい……でもほら……家でとか長時間二人きりは……」


「ああ、カラオケとか、はそもそも未成年は夜中は駄目か、ホテルも然別だな、成る程……」


「ホ! って! ちょっとなに考えてる…………の?」


「いや、別に今から行くとかじゃ無いよ、同じ失敗を繰り返さない様に言っただけで、他意は無いよ」


「……そ、それは私の事を女の子として見ていないって事?」


「どっちなんだよ!?」


「微妙な乙女心くらいわかんなさい!」


「自分で乙女とか言うなし」


「……それで……どうするの?」

 一旦二人で落ち着こうとコーヒーを啜る。さてどうするか?


 夕方……恋人同士が良い雰囲気になる所……。


 俺は気が付く、あるじゃん……すぐ目の前に……。


「よし、じゃあ行こう、お嬢様」

 俺は席を立つと紳士宜しく頭を少し下げ、胸に手を当てエスコートする。


「ちょ、恥ずか…………そうね……ありがとう」

 瑠は一瞬戸惑うも、場所が場所、ここはオタクとして乗らなければと思ったのか? 俺の差し出す手に軽く自らの手を添え立ち上がる。


「行きましょうお嬢様」

 俺はそう言って腰に手を添え、腕を組む様に目で合図すると、瑠は素直に腕を組んだ。


 俺達のデートが、正式に恋人になってからのデートが、ここから始まった。



 







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