第84話 キス……したい


「わーーーー初めて来た」


「まあ、ここには来ないよなあ」

 オタクの聖地のすぐ近くにある巨大ビル、ヨンシャイン60。

 オフィス、ホテル、水族館等の施設が入っている巨大ビル。そして今僕達がいるこの展望室もその一つ。

 以前は日本一、アジア一高いビルとして存在していたが、都庁や横浜ランドマ、あべハルカス等に抜かれ今はその存在は全国的ではない。

 しかし、池袋周辺は住宅街が多く、ここから見る景色はその高さ以上の景色と言われているとかいないとか……。

 

「ちょっと思ってたイメージとは違ったけどねえ」


「ですよねえーー」

 もっとしっとりと景色を見れるのかと思っていたが、アトラクション等があり、家族連れやカップル等で賑わっていた。


 マッチングシステムの恩恵を使い、アトラクションも安くチケットを手に入れられるが、折角のデートなので雰囲気を出す為に二人で景色見るべく窓の近くに向かった。


「うわあああああ」

「ふわあああああ」

 窓から見える絶景に俺と瑠は同時に声を上げる。

 窓からは夕焼けに染まる家々、周囲には言われている通り、大きな建物はあまり無い為に都内を飛び越え横浜方面まで一望出来る。


 そして遥か彼方にそびえる富士山が夕日に照らされ赤く染まって見えている。


 全てが赤い……見える物全てが赤く染まる……。


「凄い……ね」

「うん……」

 それから何も言わずに二人で景色を眺める……感動を二人で分かち合う様に、今一緒にいる事を確かめる為に、そっと手を繋ぎ景色を見続けた。

 

 少しづつ辺りが暗くなっていく……ポツポツ都内の街灯が点灯していく。

 遠くのマンションの窓がオレンジ色に、オフィスビルは白色に変わっていく。

 ゆっくりとゆっくりと暗くなっていく……少しづつ少しずつ夜景が広がっていく。


 こうして夜になっていくのを間近で見るのは初めてだった。

 まるで空を飛んでいる様な感覚になった。


「綺麗」

 瑠が夜景を見ポツリと呟く。


「うん……綺麗」

 俺は夜景と、窓に映った瑠の姿を見てそう答えた。

 

 夜景よりも綺麗な瑠の姿に気が付く……光輝く夜景……まるでスパンコールがちりばめられているドレスを着ている様に見えた。


 俺は視線を窓から瑠に移した。

 俺の視線に気が付いたのか、瑠もゆっくりと俺の方を向く。

 二人の視線が交差する。

 俺は繋いでいる手を少しだけ引いた。

 

 瑠は俺に引かれよろける様に近付く、二人の距離が縮む……瑠の吐息が聞こえる距離に……二人の距離が縮んだ。


 瑠の目が潤んでいく……綺麗な瞳に俺が映っている。

 瑠は口を少し開いた……綺麗な唇……艶かしい舌が奥に見えている。


「キス……したい……」

 俺はつい本能のままにそう言ってしまう……。


「……わ……私も……」

 しかし瑠は怒らずに、そう言い返した。


 俺はその言葉を聞き更に半歩踏み込み瑠に近付く。

 二人の身体が少しだけ触れあう。

 俺は繋いでいる手を離し瑠の腰に手を回した。


 そして……もう一方の手を瑠のおとがいに添えた。


 二人の顔が少しずつ近付く、少しずつ少しずつゆっくりと近付く。

 

 同時に瑠の瞼がゆっくりと閉じていく。

 そして!


「なあなあ、兄ちゃん達キスすんの?」


「ひああああ!」

 その時突然下の方から声が聞こえて来る。

 瑠はビックリして悲鳴を上げた。

 俺は声のする方に視線を向ける。


 そこには……某のはらさん家の様なガキが俺達を下から覗き込んでいた。


「く……くそガキ!」


「うわーーーい怒った、キス魔の兄ちゃんが怒った怒ったーー」

 そう歌いながら走って逃げていく……くっそ親の顔が見たいぜ……そう思い俺は瑠を見ると、瑠はさっきの夕日に照らされた位に顔を真っ赤に染めガクガクブルブル顔文字の様に震えながら俺を見つめていた。


 その顔を見て……俺はさっきの事を冷静になり思い出す。


 うわあああああ……キスしたいって、何言ってるんだ俺は……。


 俺は恥ずかしくなってうつ向いた、瑠も同じ様にうつ向いていた。



後書き宣伝失礼します。


初の本格的異世界物

『パーティーから追放された職業ポーターの僕、実は隠していた力、重力を操る魔法で最強になる。』を書きました。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897635010

暖かい目で読んで頂き、辛辣な感想まっております。(笑)(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る