第88話 勘違いの証明


「お、おはよ」


「……あ、うん」


 翌日学校で瑠と顔を合わせる……瑠は真っ赤な顔でうつ向き、俺から顔を反らした。


 ヤバい……可愛すぎる……。

 そんな瑠を見てくれ俺はその場で悶えそうになる。


 授業が始まるも、俺は瑠の事が気になって仕方がない。

 俺は遂に瑠と、あの月夜野 瑠と……キス……をしてしまったのだ。

 ファーストキスなんて、男が言うのはキモいけど、でも……それでも、ずっと想像していた。妄想していた。

 オタクの豊富な想像力で、キャラバン相手に何度も何度も想像でキスをしていた。


 それが……現実になった。


 まさか3次元の相手と、瑠と……キスを……それは俺にとって夢の様な出来事だった。


 星空の様に光輝く街明かりを眼下に、瑠の唇と俺の唇がそっと重なった……。

 多分俺はあの出来事を、あのキスを生涯忘れないだろう……。



 隣に座る瑠の艶やかな黒髪が肩からサラっと流れるのを、俺は机に肘を付きながら呆然と眺めている。


 時折視線が重なると、瑠は顔を真っ赤にして俺から目線を外す。

 

 何でこんなに可愛くなったのだろう、以前はあんなに憎らしかった筈なのに……。

 俺の瑠、俺だけの瑠……。

 瑠のあの柔らかい、ピンクの唇に……またキスしたい……今すぐしたい。



◈◈◈



「へーーそりゃ完全に勘違いだね」


「か、勘違い?」


 昼休み、高麗川に呼び出された俺は、裏庭でしつこく問いただされ、遂に口を割ってしまった。

 俺と瑠の様子から何かあったなとピンと来たそうだ。怖いなこいつ……。


「今は盛り上がっているからそんな気持ちになるんだ、でも断言する、君たちは合わない」


「いや、そんなわけ」


「だって僕は1年以上君たちを見ているんだ、あれだけ意見が合わなく喧嘩ばかりしていた君たちは、マッチングシステムの適当判断で勘違いしてしまったのさ、さらに今回雰囲気でキスしてしまって益々その勘違いが進んだ……」


「ち、違う! 俺は」


「ふふん、君が今何を考えているか当ててやろうか?」

 裏庭のベンチで俺の隣に座る高麗川は、ニヤニヤしながら俺を見上げる。


「あ、当てる?」


「そうだな、次は瑠のおっぱいを触りたいって……君は今そう思っているだろ?」


「な!」


「あははは、男の子が特に興味を持つ場所だよねえ」


「そそそ、そんなわけ!」


「セックスアピールの象徴だよねえ、唇と胸は……君は知ってるかい? お猿のお尻が赤いのと、唇が赤いのは同じだって事を」


「セックスアピール?! 同じ?」


「赤いお尻が唇、そしてお尻の膨らみはおっぱい、人間は猿と同じなんだ」


「いや、そんなわけ」


「ほら興奮するだろ」


「高麗川はそう言うと姿勢を正し胸を張り両手を恐らく胸の下に当てる。

 恐らくと言うのは、高麗川の胸の膨らみがわからないので……」


「うっさい! あるだろ?! ほら、よく見ろ! 見ろ! あるんだよ、僕にだってええ、うええええええん」


「うわ、うわあああ、口に出てた! てか、泣くな!」

 高麗川は泣きながら俺に近づき、さらに胸を強調する……。

 

「し、失礼……取り乱しました」


「お、おお……」


「……えっと……話を戻して、じゃあさ、君が勘違いしているって、教えてあげるよ」


「教える?」

 俺がどうやってと聞く前に高麗川は俺の腕に抱き付いた。


「お、おい!」

 さっきの仕返しとばかりに高麗川は俺の腕に胸を押し付け、さらにうるうるした瞳で見つめてくる……。


 瑠と高麗川は正反対だ。

 瑠璃は長い黒髪、高麗川は短髪、目は瑠がややつり目、高麗川はややタレ目

 唇も瑠は全体的に小さく、高麗川は下唇がやや厚い。


 改めて見てもタイプの違いはあれ、二人ともかなりの美少女なのは間違いない。


「──もう一度、今度は別の女の子とキスすれば、それが勘違いだってわかる筈だ」


「……は?」


「君は性的に興奮しているだけなんだよ、それは好きとは違うって事を証明してあげるよ」


「いやいやいやいやいやいや」


「……僕が証明してあげる」


 高麗川はそう言い、ゆっくりと……まぶたを閉じた。


「……いや、えっと……えええ!?」

 高麗川の長いまつげが僅かに揺れる。

 柔らかそうな唇が俺の目の前に……。


「いいよ」

 高麗川は目を瞑ったまま、俺に向かってそう……言った。

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