第87話 はひゅううぅぅ

「はひゅううぅぅ……はううううぅぅ」

 家に帰ると一目散に部屋に入り私はベットにダイブした。

 そして枕に抱き付き、うつ伏せでベットの上を泳ぐ様に足をジタバタと動かす。


 いつもならお風呂に入らないでベットに乗るのは嫌なんだけど……今日は入りたくない……だって……彼の感触が……彼との感触が薄まっちゃう気がして……。


「しちゃった……ううん……されちゃった……」


 私……キス……、されちゃった……。

 私は日和ってほっぺにしたら……彼が……。


 少し強引だった……ちょっとだけ怖かった……でも……彼なら平気……。

 

 ううん……違う……そう……キスをしてはっきりわかった。

 彼しかいないんだって……私には……彼しかいないんだって、これではっきりとわかった。


 多分他の人なら……他の男の人だったら、顔を掴まれた時点で周囲は血の海になっただろう……。

 

 ずっと近くに居たから、ずっと喧嘩してたから……逆に近くにいる事が一緒にいる事が当たり前になっていた。


「あんなに嫌いだったのに……あんなに……大嫌いだったのに」

 いつも私の近くにいた。何故かいつも近くに……嫌だった、本当に嫌だったのに……今は……今は離れるのが嫌、ずっと一緒にいたい。


 私はそっと唇に触れる……。


「うううううぅぅ……はひゅううぅぅ!」

 突然だったから……何も覚えていない、彼はどんな顔してたっけ? 私はどんな顔してた? ただ感触だけが……感触だけが……今でも残っている……唇に彼の唇の感触が……。


「好き……しゅき……くふふふぅ」

 こんな感覚初めてだった。自分にこんな乙女ちっくな心があったなんて……。

 彼の事が頭から離れない……ああ……全世界に宣言したい……これ、私の彼氏よって。


「きゃああきゃあああ」

 私は枕を抱いてゴロゴロとベットの上を転がった。


「今度は……私から……」

 枕を彼に見立てて、そっとキスをする。

 そのまま顔をグッと押し当てた。


「ああ、私……今……相当キモい……よね?」

 恋は人をダメにするとはよく言ったものだ。

 もう駄目だ……私はもう彼から逃れられない……。

 もう駄目だ……私はもう彼から離れられない……。


「渡さない……もう誰にも……」

 今までは正々堂々とか……彼がもし違う人を選んだのならとか、余裕のある事を言っていた……。

 でも……もう嫌……そんなの嫌……。

 私には彼しかいない、一生でただ一人……運命の人……。

 こんな出会いでもなければ私は一生男の瞳と付き合うのは無理だった。

 奇跡の出会い……。


 渡さない、菫にも桜ちゃんにも……誰にも渡さない……彼は私の物……瞬は私だけの物。


 だからここからは本気だ! 利用出来る物は何でも利用する。あらゆる手を使ってでも……。


 まずは更新。マッチングシステムの更新まで……約半年、春の更新に再び瞬と……そして、高校卒業後のバージョンアップで……。


「ふふ、ふふふふ」


 そう……使える物は何でも……瞬を私の元に留める為に、ずっと一緒にいる為に、これからは何でも使う……それはマッチングシステムでも……私の身体でも……何でも……使う……何でも……。



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