第61話 ナイスボート?

「……ロリコン……痴漢……凌○……強○……」


「……いや、えっと……」


「ふーーん……そうなんだ、こういう趣味なんだ、ふーーん…………キモ」


「いや、それは……」


「彼氏がロリコンとか……私……どうすれば良いの?」


「いや、えっと……」

 俺の部屋でお互い床に正座をして向き合っていた。俺達の中間地点目には俺のお宝が表紙を表にし綺麗に並んでいた。


 いや、言い訳させてくれ、別に俺がロリとかじゃないんだ、同人を知ってる人はわかると思うけど、同人誌と言うのは作家や特定の作品で買い集める場合があるんだ。たまたま、たまたま好きな作家さんがロリ作品を書いていただけなんだ!!


 本を見ているのか? うつ向いている月夜野……髪の毛が顔を覆いその表情は俺からは見えない。


 浮気がバレた時ってこんな気持ちなんだろうか……した事無いのでわからない……でも言ってる通り2次元と3次元は別物なんだ……。ロリ好きが皆3次元に手を出しているわけじゃ無いだろ? それと一緒なんだ! いや、俺はロリじゃないけど……多分そんな気持ちのはず……。


 しかし月夜野になんて言って良いかわからない、何を言っても買ってる以上言い訳に過ぎない……。


 暫く沈黙が続く……オタク同士の恋愛って、こんな事で躓くのか? そう思っていた時月夜野が顔を上げた。


 髪の毛から現れた月夜野の顔……真剣な表情……何か思い詰めた様なその表情に俺の背筋は凍った。

 ま、まさか……別れ話? そんな……。


 月夜野はそのままスッと立ち上がる……そして持ってきていたバックに近寄った。

 別れを切り出しすぐに帰るって事? 俺に反論の余地を与えない? 

 

 すると月夜野はバックの中から何かを取り出す……まさか刺され! ちょ、ちょっと待て、2次元でナイスボートされたら、あいつを越える!


 俺は立ち上がろうとするが正座で足が痺れてしまっていた。


 何かを取り出し俺の方に迫って来る月夜野……な、何か笑ってないか? 月夜野は少し笑っているような少しニヤケた表情をしていた。


 ヤバい……殺られる、そう思った瞬間月夜野は俺の前に座った……あれ?


 するとそのまま自分の髪を纏め始める、手に持っていたのは……ブラシ?


 月夜野は髪を2つに纏めると腕に付けていたシュシュで髪を止めた……。


「……は?」


「ど、どうかな?」


「な、何がですか?」


「少しはロリっぽくなった?」


「え? あ、ああ……」

 月夜野のツインテール……いや可愛いよ滅茶苦茶可愛いけど……ロリではないよなあ……。


「後はどうすればいい? どんなシチュエーションがいい? これとか?」

 そう言うと月夜野は俺の同人誌の中でも一番過激な物を手に取ると俺に見せつけて来る……。


「いや……えっと……怒ってるんじゃないの?」


「……なんで?」


「いや……なら良いんだけど……」

 いや、キモいって……でも……そう言えばそうだった、月夜野のキモいはただの口癖だった……。


「どうやったら五十川君が喜んでくれるのか知りたいの……」


「いや、現実にはまずいでしょ?」


「でもほら、あの同人の様にするのね! ってやっぱりオタの夢のセリフの一つじゃない?」


「もっと自分を大切にしなさい」


「彼氏なら……五十川君の為なら……私……なんでもしたいの……出来る事ならだけど……」

 それって脇の匂いを嗅がせる以上だと思いますけど……。実際そう言うシチュエーションになったら無理~~って殴るんだろうなと俺は学習している。


「いや、そこまでは……」


「何かしてほしい事無い?」


「してほしい……事ねえ…………あ」


「あるのね!」


「いや、まあ……あるにはあるけど……」

 彼女が出来た時の夢のシチュエーション……俺の妄想の一つ……。


「教えて!! お願い! どんな事でも引かないから」


「いや……絶対に引くと思うけど……」

 キラキラと目を輝かせる月夜野さん……いや、マジで言うの? 月夜野が引かなくても読者がどんどん引いてる空気なんだけど……。


「お願い! 私……頑張るから」


「…………えっと…………お、お風呂……」


「……お風呂? 入るの?」


「う、うん……一緒に……」


「ああ、恋人同士がお風呂って……別にひかないけど……でも……いきなりは……少し……恥ずかしい……」


「あ、いや……まだ全部言ってない……」

 当然いきなりお風呂なんて俺だって恥ずかしい……でもほら……アニメでもたまにあるでしょ? 幼なじみとか、妹とか付き合ってなくても入るシーンが……。


「お風呂で何かするのね!?」


「いや……何かするって言うか……」


「なんなの? はっきり言って」

 月夜野は足が痺れて胡座になっている俺の太ももに手を置き身を寄せる。いや……マジで可愛いなツインテール姿の月夜野……こんな可愛い人と一緒にお風呂は俺の夢の一つ……ならば言って見よう……多分全員ドン引きするだろうけど……。



「えっと…………スクール水着姿の月夜野と……一緒にお風呂に入りたい……なって?」



「…………五十川君…………マジでキモい……」


「そんなああああああああ」

 なんでも言えって言ったじゃんかああああああああ!

 その言い方本当にキモい奴に言う言い方だしいいい。


 去年月夜野に迂闊に近寄る男に言ってた言い方……マジでキモい……その言い方マジで傷付くからやめてくれええ。

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