第21話 趣味を隠す意味って?


「い、五十川君! 頼むこれ買ってくれ!」 

 高麗川は華麗にジャンプをして棚から取ったエロゲーを俺に渡してくる。

 物欲しそうに見てたのはとれないからじゃなかった……っていうかなんで俺が?

 

「は、はああああああ?」


「頼む! お金は払うから!」


「えええええええ……」


 俺は仕方なく高麗川から渡されたエロゲーをレジに持っていき購入した……何で俺が買わなきゃいけないんだ……そもそも俺のゲームは?


 

 ほくほく顔の高麗川とそのまま店を出た。高麗川は俺にお礼の代わりとお金を払う為と喫茶店に誘われ、二人で近くの大手チェーン店の喫茶店に入った。


 人生二人目、女子とのお茶……女子か……。

 

 高麗川は店の前で帽子とマスクを外す……ジャージの女の子と喫茶店ってどうなんだろうと思いつつも自分も大して変わらない恰好だからまあいいかと思い直し、店に入ってレジにて注文をする。先に注文して後から座るタイプの喫茶店で、俺は『アイスコーヒー』を、高麗川は『グランドノンファットミルクノンホイップチョコチップバニラクリームフラペッチーノ……』を注文し受け取る。


 店内比較的に空いていたので、窓側ソファー席に座った。しかしその飲み物なんだ? 呪文かよ……。


「はい、お金ありがとう~~~」

 コーヒー代はすでに出して貰ってる、まあ断るのもなんなのでありがたく奢って貰い、さっき支払ったゲームお金を受け取った。


「いや、18禁を普通に買うとか、書籍やアニメになったらどうするんだよ」


「なにそれ? あ、これ18禁じゃなくて15禁だから」


「そうなの? ってこんな所で出すな見せるな!」

 ゲームを袋から出し俺に15禁シールを見せたついでに嬉しそうにパッケージを眺める……この喫茶店隣の席と近いんだから止めてくれえ。


「いやあ、君が居てくれた良かったあ、ランニングの途中にあのお店を見つけて、入ってみたらずっと探してたこれがあってさ~~僕見た目子供じゃないか、身分証明出来る物も無いし、どうしようって悩んでたんだよねえ~~」


「って言うかさ……隠さないんだな そういうの……」


「ん? なんで隠さないといけないんだ?」


「いや、こういう趣味ってさあ、迫害されたりするじゃないか」


「迫害!……あはははははははは」

 俺がそう言うと高麗川は腹を抱えて笑い始める……周りの目を気にする事なくゲラゲラと笑う……それを見て……なんだか俺もおかしくなってきてしまう。


「わ、笑うなよ~~」


「ご、ごめんごめん、いやあだってさ、君があまりにも変な事言うから」


「へ、変? 変かな?」


「ああそうさ、だって迫害って、あはははははは」


「い、いや、まだあるんだぞ、実際俺も小学生の時アニメの文具で結構言われたし……」


「あはははは、可愛いじゃないか」

 

「いや、でも結構きついんだぞ、言われた事無いのか?」


「うん? 僕かい? そりゃあるさ」


「だろ?」


「でも聞くけどさ、君はそう言う事を馬鹿にする奴と、それを隠してまで付き合いたいと思うのかい?」


「え?」


「誰に迷惑をかけているわけでもない、ただの人の趣味を馬鹿にする奴と君はそれを隠して、自分を隠してまで付き合いたいと思うのかい? そんなのこっちからお断りだと思わないのかい? 僕なら絶対にお断りだね、それこそこっちから迫害さ!」

 呪文フラッペチーノを飲み片手を上げてアピールをする高麗川、この相手を気にしないメンタルってのは陸上で鍛えられたものなのだろうか? いや、多分生まれ持っての気質なんだと思うけど……。


「でもさ、それって怖くないか? 結局の所そういう悪意って言うのは持った者の力だろ? カースト上位に嫌われたらそれこそ迫害じゃすまない」

 実際そういう人は今でもいる。確かにオタ文化が浸透してきて、そういう事は無くなってきた。

 でも、たとえ100ある中の99が無くなっても、その最後の一つが自分だったら、それは100と同等なのだから……。


「まあねえ、実際部活でも僕の事を毛嫌いしている奴はいるしねえ~~」


「クラスじゃ全然そんな感じ……もなにも、居なかったからなあ」

 そう、高麗川は1年の頃部活の為に、授業中くらいしか見る事は無かった。だから彼女がオタクとか、そもそもどういった人間なのかさえ俺はしらなかった。


「合宿とかいくとさあ、一杯漫画を持っていくんだよねえ、僕お勧めの漫画を、借りに来る先輩とかもいるんだよ、変な顔する人もいるけどね、でも隠したりはしない」

 オタクは隠さない、そう断言する彼女に俺は凄く好感を持てた。でもじゃあ自分はというと、そこまでにはなれない……だから俺はそんな彼女が凄く羨ましいって思った。


「そっか…………ところで、なんでそのソフトなんだ? 探してたのか?」

 俺がそう聞くと、高麗川は目をキラキラさせて俺を見た……あれ? やばいかな?


 後悔先に立たず……そこから高麗川はそのソフトの事を延々と話始めた……。


 まあ、簡単に言うと、彼女には年の離れた兄がいるらしく、その兄の持っていたゲームに嵌ったそうで、以来ガチのゲームオタクに、特に男性向けのエロゲーを中心に興味を持ち、今回はコンシューマー移植されたエロゲーの原作を前からずっと探してたらしい。そして今日たまたまランニング中に寄ったあの店でその探していたゲームを見つけたとの事。


 ちなみに帽子は髪を押さえる為に、マスクは心肺機能を高める為にしていたそうで、変装の意図は全くなかったそうな……。いや、怪しさ全開だから。


 そこから俺と高麗川は喫茶店で周りの目も気にせず延々とゲーム、特にギャルゲーについて話した。高麗川はエロゲーの事を話したかったみたいだがさすがにそれは断った。

 

 でも、少し俺の趣味とは違ったがそれでもゲーム好きには違いない。


 延々と時間が経つのも忘れギャルゲー談義をしていた。

 


 そして俺は……自分の趣味を隠しもしないで喋られるこの楽しさを、この快感を……高麗川のせいで初めて知ってしまった。


 





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