第102話 高麗川VS月夜野

「やあ、来てくれて嬉しいよ」


「そろそろキチンと話さないとね」


 遂に菫に呼び出された。『17時、部活を終えてから学校の隣の公園で待つ』とメッセージが届いた。

 既に家に帰っていた私は……いや、お前が来いよ……って思った。勿論そんな事言わないけどね。


 とりあえず菫は制服だろうし、学校の近くだろうしと、私は一度脱いだ制服を着直して菫の待つ公園に向かう。

 そんなに広くない近所の子供達が遊ぶような公園。でももう夕方とあって公園内には誰もいない。

 デートか決闘には持って来いの場所だろう。


 公園に着くと菫は直ぐに見つかった。

 何故か大量の猫と共に……。


 私がゆっくりと近付くと菫は私を見ずに猫の前にしゃがんだまま言った。


「なんで公園って猫が多いんだろうな?」


「……なんかで読んだ事あるけど、個々のテリトリーが重なる場所があって、そこで集会を開くって」


「へーーこれって話し合いをしてるんだ」


「……まあ、ただ居心地の良い場所にいるだけって気もするけど」

 特に鳴きもせず、ただただそこに座っているだけの数匹の猫、菫はその中の一匹の頭をゆっくりと撫でていた。

 ゴロゴロと喉を鳴らす猫をひとしきり撫でると満足したのか、ゆっくりと立ち上がりそこで初めて私と目を合わせる。


「……じゃあ、僕らも話し合いをしようか」


「そう……ね」


 菫とは以前二人きりで一度話し合いをした。


 でもそれはうわべだけ、宣戦布告をしただけで、話し合いっていう程の事では無かった。


 その時はシステムで選ばれただけって負い目があったから売り言葉に買い言葉で、菫が瞬にちょっかいを出す事を了解したけど……でも今はあの時とは状況が違う……今瞬と正式に付き合っているのは……私なのだから。


 私と菫は無言でベンチに腰かけた……誰もいない公園……さっきも言ったけど、ここはデートか決闘に適している……。


 相手は体育会系……大丈夫かなあ……決闘になったら勝てるかなあ……。

 男の子を取り合って殴り合いの喧嘩とか、時々アニメでもあるけど……実際にそうなったら……非力な私じゃ菫には勝てないよねえ……。


 そんな事を黙って考えていると、この沈黙を破り菫が訥々と話し始めた。


「僕さ……ずっと好きな人が居てさ……その人を忘れる為に五十川君を利用したんだ」

 

「え?」


「だから……君に大きな事は言えないんだよね……実際」


「そう……なんだ」


「でもさ、好きになる理由って、そういう打算的な事でもあると思う……容姿がいいから自慢出来るとか、お金持ってるとか……そんな理由から好きになる事ってあると思うんだ」


「……そう……かもね」


「だからここで瑠に、本当に五十川君が好きなのか? とかは聞かないし、聞く意味もないって思ってる……」


「……うん」


「システムなんて所詮は昔からあるお見合いと一緒……お互い知らないままに結婚して、そして色々と知りながら一緒に歩んでいく、良い所も悪い所も」

 なんだろう、菫はシステムをあれだけ否定していたのに……っていうか違う……これは一度上げてから落とす前触れ……そう思い私は身構える。

 腕っぷしでは負けるけど、口喧嘩なら……。


「……」


「でも……五十川君はそう思っていなかった……いや、瑠が思わせないように仕向けていた、そうだよね」


「どう……かな」


「これは普通の恋愛なんだって……勘違いをさせ、この先に起こる事を考えさせないで……さらには身体も使って、キス迄して」


「そ、そんな事!」

 私が菫に向かってそう声を上げると、菫は前を向いたまま間髪を入れずに言葉を被せて来る。


「停学……五十川君は君の策略で停学になっている……あれは誤算だったね、あれで少なからず五十川君の未来が変わってしまったんだよ……君はそれを理解しているかい?」


「そ、それは……」

 でも……あれはお互い盛り上がって……それに最終的に誘ったのは瞬だし……。


「そして……僕はそれでわかった……そして覚悟した」


「──覚悟?」


「ああ、五十川君を……君から奪う覚悟さ」

 そういうと、菫は私を見つめる……その大きな目から、瞳の奥から殺気を感じた。


「奪うって……本気?」

 瞬は私の彼氏なのだ……そして……私を一番って考えてくれている……だからいくら菫でも……そう簡単には……。


「いや……正確には……五十川君の未来を、将来を君から奪う覚悟と言った方が良いかも知れない」


「将来……」


「今の五十川君は君にベタ惚れさ、僕がちょっと揺さぶった位でホイホイと乗ってくるような奴じゃない」


「……」


「君がシステムを使う本当の理由は知らない……男子が苦手……ってのは表向きの理由だって事くらいしか」


「そんな……事ない、私は」


「そう自分に言い聞かせているんだろ? 罪悪感を無くす為に」


「っ……」


「さっきも言ったように、利用するってのは悪く無い、それは僕も一緒だから……付き合っていた彼氏と別れた時、大事な物が壊れたり、飼っていたペットが死んじゃった時、その悲しみを癒すのに一番なのは……新しい恋をする事、新しく好きになる物と出会う事だからね」


「わ、私だって……好きだから……瞬の……事」


「そう……でもね……だけどね、僕は思うんだ……それで相手を不幸にするのは駄目だ……忘れる為に利用して……そう気軽に考えて……結局は忘れられなくて……別れるなんてよくある話しさ……そして……その相手を騙すなんて事は絶対にしちゃいけない……不幸にしちゃいけないんだ」


「菫……」


「だから僕は覚悟を決めた……五十川君を不幸にしないって……」

 菫の熱い眼差し、そしてそのつぶらな瞳から涙が溢れ出す。


「五十川君は……彼は僕のヒーローなんだ……僕が今走ってるのは彼のおかげなんだ……そんな彼を不幸になんて出来ない、させない……君は、今の君じゃ……彼を不幸にする……だから僕は覚悟を決めた……瞬の未来を将来を守る……君から、そしてシステムから」


「菫……」


「だから……僕は……陸上部を……陸上を辞めるよ……これが僕の覚悟さ」

 そう言われ私は何も言い返せなかった。

 全部図星だったから……これなら……いっそ殴られた方が楽だったかも知れないと私は拳を握りしめいまさらそう思っていた。


 菫は全てを言い終えると、ポロポロと涙を流していた……その涙に、その表情に彼への、瞬への愛を感じた。


 もし……私がシステムを使っていなかったら、もし私の相手が瞬じゃ無かったら……二人は普通に出会い、普通に付き合っていたのかも知れない。


 私の……私自身のエゴの為に……二人を……不幸にしてしまっている……。


 でも……でもそれでも……今……私は瞬が好き……この気持ちは嘘ではない。


 それだけは……嘘では……無かった。



【あとがき】

 4章終了となります。

 なろうコンの新作に取り掛かりますので、少し更新が止まります。

 (´・ω・`)ダレモヨンデイナイ……

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