第101話 瑠の秘密
「へーーじゃあ本当に走っただけなんだあ」
いつもの喫茶店、お互いいつも通りにコーヒーを注文する。
俺は砂糖一つとクリーム少し、瑠は砂糖抜きのクリーム多め。
いつもと変わらない瑠……いや、少し嬉しそうな雰囲気に内心ホッとする。
今朝高麗川と10キロのランニングを完走し、ボロボロの状態で登校した。
高麗川は、席でぐったりしている俺の頭を元気よく叩き笑顔で席に着く。
そんな俺と高麗川を周囲が唖然としながら見ていた。
隣に座る瑠も……。
ゴールのご褒美は、とりあえず保留って事になっている。
いや、俺は断ったんだよ、でも高麗川は「だったらこの場で僕がする!」なんて言うもんだから……じゃあ保留って事に……。
多分俺が瑠とキスをした事で、高麗川の闘争心に火が着いてしまったのだろう……多分俺が好きとか、そういう気持ちよりも、瑠に対して勝ちたいっていう意識が高い結果な気がする。
桜もそうだけど、体育会系女子は競争意識が高くて困る。って言っても二人しか知らんけど。
「付き合おうってのが本当に朝のランニングなだけだったのか? もう俺には高麗川が何を考えてるかさっぱりだ」
「菫は、照れてるんだよ」
「そうなのか?」
「まあでも、あの子、不思議ちゃんだからねえ」
「不思議ちゃん?」
「まあ、女子の間じゃそういう認識になってる、恐らく陸上部でも」
「ふーーん……そうか……」
この間一人で走っていたのは……その辺が原因なのかも……。
「でも……知らなかったなあ、瞬が元スポーツマンだったなんて、何で言ってくれないかなあ」
「いや……黒歴史だから……」
「そんな事ないのに……」
俺達はマッチングされたという、それだけの信頼でここまで付き合って来た。
でも最初から俺達はずっとお互いを隠してきた。
オタク趣味や、過去の事……正式に付き合ってからもそこを深く掘り下げて話す事は無かった。
こうやって会って話す内容は学校の事や趣味の事。
いや、高校生のカップルとしては普通の事なのかも知れない。
でも俺達は普通ではない……結婚を前提にした付き合いなのだ。
そして、春までに一度判断を迫られている。
俺はゆっくりと、じっくりと関係を、信頼を深めて行けばいいって思っていた。
でも、瑠が更新の時に俺を選ぶとは限らない……そして……それは俺もだ。
人の心は簡単に揺れる……今は好きって思っているが明日はわからない。
俺達の間に、まだそこまで信頼関係を築いていない。
自分の全てを晒けだす程、相手を信頼していない。
秘密を隠したまま結婚する人も多分いると思う。
所詮は他人……法律上での家族。
でも……そんなのうまく行くわけが無い。
そんな状態で、一生を誓う事なんて出来ない。
俺は瑠の事を知らない……まだまだ知らない事が多すぎる。
そして……それは……俺も……。
「それで、あのさ……こんな状況でなんなんだけど……週末さ……どっか行かないか?」
「ん? どっかって、どこへ?」
「…………じっくりと……二人きりになれる所に……さ」
◈◈◈
喫茶店で瞬と別れ私は幸せな気分に浸りつつスキップするかのように家路につく。
「そっか……ふふふ」
菫の考えはよくわからない……でも、とりあえずなにもなかった。
それだけで、こんなに気分が楽になる。
そして週末はデート……しかも瞬から誘ってくれた。
「二人きりになりたいって……ふふふ」
とりあえず行き先は後で考えてメッセージを送るって……行きたい所があるなら送ってって言われた。
どこへ行こうかな……また夜景の綺麗な場所?
「ふへええ……」
駄目駄目、焦っちゃ駄目……それに……多分瞬はもうあんな事はしない。
乗りと勢いで付き合う事はしない。
システムにも頼らない……。
でも……それは私達のこれからを真剣に考えてくれるって事。
来年の更新……そして卒業したら……。
男子は嫌い、瞬と付き合ってる今でも苦手……。
でもお婆ちゃんの為にも、そして…………あいつと決別する為にも……私は結婚しなくちゃならない。
システムは結婚までの一本道、だから一刻も早く相手を見つけて……そう思っていた。
理想の相手……私は信じる……瞬が理想の相手って……。
もう時間が無い……ゆっくりなんてしてられない。
自覚している……めんどくさい私が……普通に付き合って……お互い信頼しあって、そして結婚して……そんなの何年かかるか……そもそもスタート地点にも立てない。
そんな私が結婚するには……システムしかなかった。
時間が無い……。
再来年……後一年半しかない……だから……それまでに……瞬と…………。
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