将来と未来の違い
第103話 高麗川菫の正体
「ゲームやろうぜ!」
「……はい?」
そんな雑な誘いに乗って俺は再び高麗川の家にやって来た。
ギャルゲーオタクの高麗川は前来た時と同様に、お気に入りのゲームを俺にやらせそれをはしゃぎながら、そして説明を繰り返しながら隣で観賞している。
うーーむ、まあ俺もオタクなんだがそれにしても……。
「……盛り上がってる所水を差して悪かったな……」
暫く二人でゲームをしていると、高麗川は画面を見つつ唐突にそう言って来た。
まあ、恐らくこれが本題なんだろうと、俺はようやく切り出して来た高麗川に現状の思いを伝えた。
「……あ、うんまあ、俺バカだからさ、流れに乗っちゃうって言うか、深く考えないって言うか……確かにあいつとの温度差は少し感じていたんだ、でもそれが何かわかってなかったから……」
「温度差か、どっちが熱かったのかねえ……あはは」
「うるせえ……」
恐らくは浮かれていたのは俺、そして瑠はそれに乗ってくれていたのだと思う……。
「まあ、それを言ったら僕と君の間にも温度差はあるよな」
「そうなのか?」
「だって、部屋で二人きりのこの状況、僕は君が何かしてこないかずっとワクワクしてるんだから」
高麗川は俺の腕をつかむと上目遣いで見つめてくる。
「し、しねえよ!」
「してもいいんだぞ?」
「だからしねえって……全く」
誘惑って言うには些か雰囲気が足りない……なんかこの間といい、本気かどうか全くわからない高麗川のその行為に俺は思わず笑ってしまった。
「な、なんだよ! 据え膳食わぬは男の恥って言うだろ?」
「それを女子の高麗川が言うのはどうかと思うぞ?!」
俺はそう言って立ち上がる。
「……お、怒ったのか?」
俺が立ち上がるのを見て高麗川は泣きそうな顔で俺を見上げた。
え? その高麗川の初めての表情に俺は戸惑ってしまった。
「え? あ、ああ、いやトイレに行きたいなと、どこだっけ?」
「あ、ああ、そうか……良かった」
心底安心した様な顔で立ち上がる高麗川……俺の前で初めて見せる女の子の様な顔、いや、態度や喋り方はともかく顔は可愛いのでいままで男っぽい顔って意味ではなく表情がって意味で……でも、その意味深な顔に、その表情に俺は思わずドキっとしてしまう。
「こっちだ」
そう言って部屋から出た高麗川は扉の向こうで驚きの表情に変わった。
何事かと俺も廊下に出るとそこには……。
「お、お兄ちゃん……」
「よお、ストーカー元気にしてたか?」
高麗川の頭をポンポンと軽く叩く男がそこにいた。
「ストーカー?」
「ん? 誰だこいつ? お前の彼氏か?」
そう言われた高麗川は何も言わずに黙ってうつ向いている。
「へーー、菫、お前も遂にブラコン卒業か?」
ニヤリと笑うそいつに、その表情に、その言い方に、俺はとにかくムカムカして来る。
「いや、ちょっとあんた、高麗川の兄貴だろ? そんな言い方無いだろ? 何で妹をストーカー呼ばわりなんだよ!」
「ああ? ストーカーにストーカーと呼んで何がわりいんだ? なあストーカー?」
そいつはポンポンと頭を叩く手一旦止めるとそのまま高麗川の髪を掴み、無理やり顔を上げさせ自分の顔を近付ける。
「なあ、そうだよな? 菫」
「……」
高麗川は顔を横に向け兄貴から目を反らした。
ここまで言われて、ここまでされて一切何も言わない高麗川。
しかし友達が……ここまでされて見てるだけなんて事、俺に出来るわけがない。
「その手を離せ!」
俺は高麗川の髪を掴んでる兄貴の手を取った。
「お? なんだよやる気か? ガキが!」
そう言って俺に掴みかかって来るが、俺はその手を簡単に払うと今度は持っていた手を下に引き、同時にもう片方の手で肘を押しながらバランスを崩し床に捻り倒す。
柔道で言う隅落としという技をかけ高麗川の兄貴は見事床に揉んどりうって倒れた。
「い、いってええ、ち、畜生なんだこいつ」
兄貴の手は持ったまま、俺は睨みつける。手を離せば頭を打つ、さすがにそこまでするわけにはいかない。でも、いまにもとびかかろうとしてくる兄貴、次は手加減しないと俺は構える。
「や、止めて……お兄ちゃんも、五十川君も、止めて……くれ」
そんな俺と兄貴を見た高麗川はポロポロと涙をこぼし、そのままその場に塞ぎ込んだ。
「……ふん、ちょっと荷物を取り来てこんな目に遭うとはな、まあ、いいさ、お前もせいぜい気を付けろよな、このストーカーにはな……」
腰を擦りながら起き上がった高麗川の兄貴は、そのままこっちを見る事なく、捨て台詞を吐くと俺達を置いて奥の自分の部屋らしき所に入って行った。
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