第104話 もしもシステムが無ければ?
「お兄さんって……」
「うん」
俺の言葉を察して高麗川は頷いた。
とりあえず部屋に戻って高麗川を落ち着かせようとするが、次から次にぽろぽろと出てしまう涙に戸惑っているようだった。
高麗川の兄、システム構築に関与していたとか、悪用しているとか、以前高麗川が何か色々言っていたような気がする。
そして、頭の悪い俺でも、なんとなくあの兄貴が言っていた言葉を理解してしまう。
高麗川はストーカーだ、って言葉を理解してしまう。
多分高麗川は調べたんだろう、色々な手を使って兄貴の事を、多分部屋も調べ、資料を漁り、そして最終的に兄貴の相手までも。
そして……それを兄貴に知られた。
陸上で培った足を使い、徹底的に調べあげる。
そんな想像が容易に頭に浮かんだ。
でもそれは心配だったから、不安だったから、だから高麗川は、いてもたってもいられなかったのだろう。
でもそんな高麗川の事なんて、妹の言葉なんてあの兄は全く聞き入れなかった。
そして、その心配と懸念は、俺の方に変わった。
高麗川は兄にしていた様に、俺の事を、そして瑠の事を徹底的に調べたのだろう……。
部活をしながらどうやって? なんて疑問も湧くが……。
「ご、ごめん、ごめん……ぼ、僕は……」
俺の考えを読んだのか、高麗川は泣きながら謝りだす。
「いいよ」
別に迷惑はかけられていない、俺の過去や親の事はちょっと調べればわかる事、犯罪を犯したわけではない。
「ご、ごめん……なさい」
それでもポロポロと泣きながら謝る高麗川、やり過ぎたって事は理解しているんだろう。
なぜあんなにも俺に構って来たのか、理解出来る。
見た目は強そうな高麗川、でも……陸上で負けた時も泣いていた。
意外にに弱いんだな……俺の中で高麗川へのイメージが変わる。
そして沸々と保護欲が沸き上がる。
俺は目の前でうつ向きながら泣く高麗川の頭を撫でた。
高麗川はビクッと身体を震わせ俺から一歩離れる。
「だ……駄目だよ」
か弱い声でそう呟いた。
「なんで?」
「だ、だって君には瑠がいるんだから」
「うん……でも今の高麗川は、ほってはおけないよ」
「大丈夫……僕は大丈夫だから」
高麗川は無理やり顔を上げ、俺を見て笑った。
ぐちゃぐちゃになった顔、涙を流し鼻水をたらしながら精一杯の笑顔で笑った。
その顔を見て俺は……高麗川に一歩踏み出す……そして、高麗川を肩を持った。
「ふえ?」
「我慢するな……よ」
俺は高麗川の肩を持つと俺の方に引き寄せ、高麗川を抱き締める。
「や、やめ……く、ふ、ふえ、うえええええええええん」
高麗川は泣いた、わんわんと泣いた。
「本当に高麗川は泣き虫だなあ」
「だっで、だっでえ、君が泣かせるからあああ、うええええええん」
高麗川の熱い吐息と熱い涙が胸に染みてくる。
そして俺は思った。
俺は本当は高麗川と付き合っていたんじゃないかって……。
システムを利用しなかったら、高麗川と付き合っていたんじゃ無いかっそう思えてくる。
高麗川自身も、ひょっとしたらそう思ってシステムを否定し続けているのかも知れない。
恋愛って順番なんだろうか? 好きになるって早い者勝ちなのだろうか?
俺は大嫌いだった瑠とシステムによって強制的に付き合う事になった。
この俺が抱いている瑠への思いは、好きだっていう感情は本物なんだろうか?
システムによって改変された物ではないと、そう言い切れる根拠が今の俺には……無い。
泣いている高麗川の涙の熱さが俺の胸にじわりじわりと染み渡ってくる。
高麗川の熱い思いが俺の中にじわりじわりと染み渡ってくる。
高麗川を守りたいって、俺の中でそんな思いが沸き上がる。
もしも、マッチングシステムが無かったら……いや、もしも今システム無くなったら……俺と瑠はどうなるんだろうか?
高麗川の頭をそっと撫でながら俺はそんな事を思っていた。
高麗川は俺に抱き締められながらずっと泣いていた。
涙が枯れるまで、ずっとずっとなき続けていた。
俺は高麗川が泣き止むまで、ずっと抱き締め続けていた。
そして、俺のそんな懸念は翌日現実の物となる。
『マッチングシステムによる不正』
立ち上げをしたプログラマーによるシステムの不正が雑誌によって暴露された。
複数の人間が関与したと書かれている。
その中にKと書かれている人物もいた。
恐らくは高麗川の兄なのだろう。
そしてその記事の高い信用性は瞬く間に全国に広がり、政府よりマッチングシステムの運用見直しの案が国会で可決する事になった。
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