第105話 力ずくでも連れて帰る

 

 マッチングシステム停止という報道の翌日高麗川は学校を休んだ。


 明らかに落ち込んでいる瑠、でもそれ以上に心配なのは高麗川だ。

俺は何度となく高麗川にメッセージを送ったが一向に既読がつかない。

 大好きだったお兄さんが逮捕されるかもしれない状況で、全く連絡のつかない高麗川。

 

 俺はまさかと思い、居ても立っても居られず、慌てる様に学校を後にし高麗川の家に向かった。


 今のところ高麗川の兄さんの名前は報道されていない。


 ただ、ニュースは威力業務妨害や電磁的記録不正作出及び供用で逮捕と報道されている。

 高麗川の兄さんが務めていた会社は閉鎖状態。


 高麗川は大丈夫か? 


 そう思い高麗川の家に着く。

 今の所マスコミはまだいない。


 俺は何度かインターフォンを鳴らすがやはり反応が無い。


 まさか…。


「緊急事態だから」

 そう呟き高麗川の家の塀を乗り越えた。

 玄関は勿論開いてない。

 

 俺は家の周囲を一回りし、高麗川の部屋の階下のひさしに手をかけ、昔取った杵柄、そのまま特殊部隊やレスキュー隊の如く腕の力だけでひさしの上に上がる。


 いきなり窓を割って入るのはさすがに気が引けたので、とりあえずコンコンと窓を2回叩く。


 返事はない……仕方ないと窓際ガラスを割ろうと手をかける。


「……開いてる」

 高麗川の部屋の窓が開いていた。

 緊急事態だから、と再度そう理由をつけ俺は窓を開け靴を脱ぎ薄暗い部屋に入った。


「こ、高麗川?」

 人の気配はする、俺は窓から差す光を頼りに目をこらし部屋を見渡すと、部屋の隅にうずくまる高麗川を発見する。


「こ、高麗川!」

 俺は慌てて高麗川に近寄り彼女を抱き起こす。

 

「……」

 良かった生きている。高麗川の目は開いていた、でも完全に放心状態になっている。

 とりあえず生きている事に生きていてくれ事に俺はホッとする。


「おい、高麗川、おい!」


「…………君か」


「だ、大丈夫か?」


「……ふふふ」

 俺がそう声をかけると、高麗川は突然笑い始める。

 涙をボロボロと流しながら……。


「おい! 高麗川!」


「ふふふ、あはははは、ざまあみろ……あははははは」

 力無く笑い、そう言う……それが誰に対して言っているのかは聞く迄も無い。


「大丈夫か? 一体どうなってるんだ?」


「さあ……ね」


「お兄さんはいないよな……親は? お前一人なのか?」


「お父さんはお母さんのいる病院に行ってる」


「病院?」


「……倒れた……今回の事で」


「今回の……」

 俺がそう言うと高麗川は俺の腕にしがみついた。


「ぼ、僕が……僕のせいで……僕はとんでもない事を……」


「とんでもない事って」

 高麗川は俺にしがみつきブルブルと震えている。

 

「ぼ、僕が……僕が情報を流したんだ……兄の資料を……マスコミに……」


「……いや、それでこうなったのかはわからないだろ?」

 いくら関係者の妹だからって、ただの学生のたれ込みだけでマスコミが簡単に動く筈が無い。

 ましてやこうもあっさりとマッチングシステムが停止するなんて、そのスピードを考えても、もっと前から探っていたって考えられる。


 でも、今そんな事を高麗川に言っても気休めにしかならない。

 ましてや、このまま高麗川を一人にするわけにはいかない。


 もしもここにマスコミが押し掛けでもしたら、高麗川は……。


 俺は震える高麗川の頭をゆっくりと撫でた。

 まずは落ち着かせる事、そして安心させる事。

 俺がついていると、言葉よりも態度で示す。


 俺にしがみつく高麗川の腕の力が強くなる。

 俺はそのまま高麗川の頭を抱いた。


「大丈夫……心配するな」

 

「ふ、ふえええん」

 高麗川は俺の胸で泣き始めた。

 あの気の強い高麗川がここまで弱ってしまっている。

 そして俺に抱き付く腕から、助けてと悲鳴の様な思いが伝わる。


「……行こう」


「…………い、いく?」


「ああ、ここに居ては駄目だ、高麗川を一人にはさせられない……」


「……ど、どこへ? いや、嫌だよ、ぼ、僕、僕は」

 俺がそう言うと高麗川はパニックに陥った様に俺を見上げ首をブンブンと横に降った。


「大丈夫だから、別に高麗川をどこかに引き渡すわけじゃない」


「……じゃあ、ど、どこに?」


「……俺の家、とりあえず俺の家に行こう」


「……で、でも」


「大丈夫だよ、うちの親父は色々と顔が広い……だから大丈夫」

 道場に通っている者の中にはマスコミや警察等に顔が利く者だっている。


「……で、でも」


「駄目だ、俺は絶対にお前を連れて帰る、力ずくでも、な」


「……」

 高麗川は俺をじっと見ると、そのまま俺の腕に顔を埋めコクりと頷いた。


 俺はそのまま直ぐに高麗川を立ち上がらせ、着の身着のままの高麗川を家に連れて帰った。



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国による恋人マッチングシステムを使ったら、選ばれたのは隣の席の大嫌いな女子だった。 新名天生 @Niinaamesyou

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