第70話 そして繋がる過去と未来


「な、なんでそれを」


 な、なんなんだ一体……高麗川は一体何者なんだ?

 

 「1年の時から同じクラスだった、だったが高麗川の印象は殆んど無い……俺の中での高麗川は、体育の時に目立っていた元気一杯の女子……そんな程度だ。というか……1年の時の女子の印象なんて全て瑠で塗り潰されている。勿論るりには悪い印象しか無い……」


「そうだろ? 君と瑠は元々そんな関係でしか無いんだ」


「な! 心を読むな!」

 な、なんだと……高麗川魔王は覚醒して、遂に心迄読めるのか!


「──いや……君が声に出して言ってるから……」


「……ま、マジか……まさか自白させる魔法迄も」


「あのさあ、いい加減僕を瑠と二人で魔王扱いするのはやめてくれ、オタク臭いぞ」


「そんな事言っても……オタクだし……」

 そうだ、そんな事言われても、この高麗川の突然の変わりようには正直ついていけないんだけど…………でも……違うのか……高麗川は本来こういう女子って事なのか? 俺が知らなかっただけって事なのか……。



「君の事は昔から知ってたって事になる……まあ、それに気がついたのはついこの間なんだけどね……でも去年から君と瑠の事はずっと見ていた……特に君には何かを感じていたんだ、気が付いた時はビックリしたよ」


「ビックリした?」


「そうさ! 僕のヒーローが目の前に現れたんだから!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ……一体どういう事なんだ? ヒーローって……」

 何がなにやら全くわからない……急展開にも程がある……二部開始が上手くいかなかったからってこんな急展開じゃあ誰も意味がわからないぞ。(ですよね……)


「君は僕のヒーローなんだ……僕は君を見て……君の姿を、子供の頃の姿を見て復活したんだ」

 キラキラと目を輝かせ俺を見つめる高麗川、本当にわけがわからない……なんなんだこの展開は……。


「いや……待ってくれ……それってどういう事なんだ? ヒーローって? 一体どういう事なんだ?」

 

 俺がそういうと高麗川はベットの上で履いていた膝下までのハーフパンツの裾を捲り、膝を出し膝下にある傷を指差し俺に見せつける。


「だいぶ痕は消えたけど、これ……わかるかい?」


「……これって」

 高麗川の日に焼けた太ももがチラチラと見えるのを横目に、じっと膝を見つめると小さな傷痕が幾つかあった。


「手術の痕さ……小学生の時怪我をしちゃってさ、日常生活は問題無いけどおもいっきり走るのは駄目だって言われて」


「──怪我……」


「僕は元々短距離が早かったんだ、運動会ではいつもヒーローさ……でも怪我しちゃって……」


「そう……なんだ……でも、それと俺とどんな関係が?」

 


「走れなくなってね、僕はゲームばかりしてたんだ、でもある時テレビで小さな少年が一回り大きい体格の少年をバタバタと倒していくシーンを見て……感動したんだ」

 高麗川はそれが俺だと言う……もうここで惚けても無駄かと俺は諦めた。

 そして高麗川の思い込みを解消する方向に話をする事にした……俺はそんな凄い存在では無い……。


「……高麗川……そこまで知ってるなら……色々間違ってるから訂正させてくれ、階級があるからそんなに体格差は無かったし、ジュニアオリンピック代表ではなくて小学生の世界大会代表しかもただの候補だよ……そしてそれも最後に負けて駄目だったし……」


「そうなんだ、小さく見えたけどなあ」


「俺のスタイルが低く構えて相手の足元にタックルするスタイルだからだよ、低空タックルで全国迄行ったから……」

 今や黒歴史でしかないけど……。


「凄い……全国……羨ましい…」


「俺がやってた頃の全国なんてたいした事無いよ……今とは環境も人口も全然違う、高麗川の方が全然凄いよ」

 オリンピック競技とはいえ、陸上とは比べ物にならないくらいの競技人口、特に少年の部は……。


「そんな事無い!」

 高麗川は俺に向かい、少し怒った顔でそう言うと俺の肩を両手で掴んだ。


「君は凄いんだ、僕は君の姿を見て手術をしようって決めたんだ、ここまで頑張ったのは君のようになりたかったからなんだ……君は僕のヒーローなんだ」


 そのまま高麗川は俺に抱きつくって……いや、ちょっと待て! 


「と、とりあえず落ち着け、な、高麗川」


 筋肉質かと思っていた高麗川の身体は意外に柔らかくて、そして凄くいい香りがって駄目だ俺には瑠が。


「瑠よりも僕が先なんだ……」

 抱きつきながら俺の耳元でそう囁く高麗川、その言葉と高麗川のといきで俺は一瞬我を忘れそうになる……だ、駄目だ俺には瑠が……。


「と、とりあえず離れてくれ……聞きたい事が」

 俺がそう言うと高麗川はゆっくりと残念そうに離れる……ベットで抱きつかれるとかもう……限界だ。


「なんだい? 何でも聞いてくれ」

 いや、多分感想が荒れそうだから敢えて聞いておかなければ……。


「いや、何で今なんだ? 二部で無理やり過ぎないか?」


「二部? 何の事かわからないけど君の事に気が付いたのは声援の時だったから、テレビで見た時試合を終えた君が声援を送ってのも見たから……その声と僕を応援した時の声が一瞬ダブったんだ。それでひょっとしたらって……君と瑠、マッチングシステムの事を調べながら君自身の事を調べた。あの時の少年が君かどうかって」


「いや、どうやって」

 

「新聞さ、古い新聞を片っ端から探した。そこで君の名前を見つけて確信したんだ」


「新聞……」


「そう……だからその事だけは、マッチングシステムに感謝している……そのお陰で僕のヒーローに、君に引き合わせてくれたんだからな」


「いや……そんな……」


 高麗川は俺に笑顔でそう言った……いや、待ってくれ……俺が高麗川のヒーロー? 

 


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