第6話 初デート


「今日はゴスロリじゃ無いんだな」


「着てきて欲しかった?」


「いや別に……」


 今日の月夜野は至って普通のワンピース、柄は、花柄で春に合わせて着こなしている。本当に黙っていればスタイルも良いし滅茶苦茶可愛いんだよな……こいつ……。


 俺達の初デート先は上野恩賜公園内にある美術館になった。しかし何故システムが上野を選んだのか不思議だった、二人の共通点? 上野が?


 とりあえず美術館とか興味ねえ……ちょっと行けば秋葉原がある……さっさと終わらせてちょろっと寄ろう、俺はそんな気持ちでいた。


「とりあえず初デートだし、美術館を一回りすればいいと思うけど」


「ああ、それでいいけど、なんか予定でもあるのか?」


「え! な、無いわよ……あ、あんたと一緒に居るのが嫌なだけよ」


「――そうかよ……じゃあさっさと回るぞ」


「あ、うん……」


 システムで紹介された場所は交通費が減額され、施設も割引されたりする。場所によっては半額以下になったりする。俺達は最大割引になるという理由だけで美術館に決めていた。


「ところでどうする?」


「何が?」


「いや、次のイベント……お互いの両親を紹介するって奴」


「ああ……えっとそれなんだけど……あの……ごめんなさい私は両親の都合で……駄目なの」


「えええ! そうなの?」


「うん……」

 

「マジか……」


 俺が調べた所によるとシステムには各カップルの内部ポイントが設定されているらしい。デート頻度や回数、行き先などでポイントが上下する。それによりイベント等の指示が増減され、あまりシステムに反発してると警告が来る。そして最終的には罰則が適用される。

 罰則には3年の使用停止から始まり罰金、懲役迄ある。

 高校生の場合停学1週間から始まる。勿論高校生であろうと不正使用は厳罰となる。


「ごめんなさい……でも貴方の家には行きますから」


「いや、いいけど」

 珍しく殊勝な態度に俺は少しドキッとしてしまう。こんな態度の月夜野は学校でも見た事が無かった。


 俺と彼女はお互い絵にはあまり興味が無かったのでぼんやり眺めながら今後の話やシステムについてゆっくりと歩きながら話をし続けた。


「メールやラインは監視されてると思った方が良いと思うの」


「まあ、だろうね」


「電話はさすがに聞かれてはいないと思う……でも出来るだけしない方が良いと思う」 


 毎日学校で顔を合わせているが、システムの話は勿論一切しない。学校では俺達の仲は秘密だ。だからこういう時に話すしかない。


「でも、それだとマイナスポイントになるんじゃないのか?」


「どうせ1年限りなんだから警告が来なければ良いのよ、毎日のメールより1回会った方がポイント高いらしいし、学校外で会えば良いみたいだからまた帰りの喫茶店とかに行けば」


「あれもあんまりやるとクラスや学校の奴らにバレないか?」


「あそこは穴場だからね、そもそも一人ではあまり行かない喫茶店だし、カップルなんて今や殆ど居ないんだから」


 うちの学校であからさまに付き合っている奴らは皆無に近い、今や恋愛している奴らの方が少数なってしまった。システムを利用している奴らの相手はほぼ別の学校なので自然と通学路付近の喫茶店は逆に穴場と化す。


「それでも駄弁りに来る奴らはいるだろう?」

 奥まった二人席には中々来ない出入りを見られる可能性はある。


「そうしたら普通に付き合ってる事にすれば良いわよ、システムを使ってる事がバレなきゃ私はそれでいいわ」


「……良いのか?」


「何が?」


「いや、俺と自由恋愛の方が……その……周りに色々と言われるんじゃないか?」


「はん! そうしたらあんたがどうしてもって言う事にしといてあげるわ」


「な!」


「あらこんな美人に声を掛けてOKされるなんて光栄でしょ?」


「お、お前なあ!!」

 俺が彼女に向かって少々声を荒げてそういうと、彼女は俺を鋭く睨み付け俺に近付き耳元で小さく言った。


「ここは美術館よ、大きな声を出さないで、ああ、もう男ってすぐに大きな声を出すから嫌!」


「くっ!」

 彼女の吐息が耳にかかる。俺は思わず耳を抑えるが彼女はそんな俺を見もせずにさっさと隣のフロアーに歩いて行く。


 俺はそれ以上何も言い返せなかった。くそ、なにかと言えば男は男はって、その男と付き合いたくてシステム利用したんだろ!



「ほらモタモタしない、早くいくわよ」

 隣のフロアーの入口で振り向き俺にそう言う。


「お前だって大きな声だしてんだろ……」

 俺はブツブツと小さな声でそう文句を言いながら彼女の後を追った。


 イライラしながら絵画鑑賞なんて全く頭に入らない……美術の教科書に載っていた有名作品なんかもあったりしたが特に感動もない、とにかく一刻も早くこの最悪なデートを終わらせたかった。


「あんまり早く歩かないで、そういうのもシステムに見られてるのよ」


「ハイハイ」


「ハイは一回!」


「はーーーーーい」


「はあ……」

 いや……ため息をつきたいのはこっちだよ……。


 それでもここで帰るわけにはいかない……仕方なく下手に回って来週家に来る約束を取りつける。一先ずうちの両親に直接挨拶し、彼女の両親には俺からメールを送るという事になった。

 これでシステムの最低要求はクリアした事になるだろう。


 なんとか2時間くらいはかけて美術館を一回りする。最後出口付近にカフェが併設されていた。

 

「どうする? 入るか?」


「次回の話は全部済んだし、お金勿体無いでしょ、今日はもう良いんじゃない?」


「まあ月夜野がそういうなら」


「……じゃあここでね、あ、来週宜しくね」


「あ、ああこちらこそ」

 そう言うと彼女は早足で外に出ていった。何かそわそわしていたが、予定でも有ったんだろうか?


「…………まあいいや、ふふふふ、これでたっぷり秋葉を回れる」


 電車代減額は結構美味しいな……でも本当なんで上野だったんだろうか?

 俺はシステムの判断を不思議に思いながら美術館の外に出た。

 御徒町を経由してそのまま秋葉縦断するか……くくく、嫌な事の後には良いことがあるな。


 久しぶりに秋葉を満喫出来る嬉しさに、さっきのイライラは完全に解消していた。

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