第99話 裸になれるのは浴室の中だけ……。

 

 瞬と別れて、家に帰ると私はそのまま浴室に向かった。


 最近……瞬と会った後は一目散に家に帰り部屋へ行く。

 部屋に入ると着替えもせずにそのままベッドの上へ……そして……両手で顔を覆いながら身体を丸めうずくまる。

 

 そうすると……手から……身体から……ほんのりと瞬の匂いがする、瞬の匂いが消えるまで、私はじっくりとその日の余韻に浸る。


 でも……今日は……直ぐに浴室に行きシャワーを浴びた。

 匂いも感触も嫌な気持ちも……全て洗い流したかったから……。


 忘れたいけど……逃げたいけど……。


 頭からシャワーをかけながら……今日の事を考える。


 今日、私は……瞬に……嘘をついた……。


 菫と……一緒にいないで……私だけを見つめていて……。


 友達なんていらないじゃないって……私がいればいいじゃないって……言いたかった。


 でも……それは完全に私のわがまま……そもそも彼に友達がいない原因の一つは私なのだから……。


 キスした時、ドキドキが止まらなかった……彼が好きで好きでたまらなくなった……もっともっと彼と……そう思った。


 でも……少しずつ冷静になってくると、嬉しさよりも怖さが増していった。

 このまま……彼と、瞬と……進んで良いのだろうか? って、そんな思いが頭を過る。

 

 彼は……私なんかで良いのだろうか?

 私は彼を選んで良いのだろうか?


 彼と私は似ている……だからこそ、わかる事がある。

 今、彼は揺れているのだ……私とは少し違う気持ちで。


 そう……今……私も揺れている。

 

 好き……嫌い、束縛したい……束縛したくない……抱き締めて欲しい、抱き締めて欲しくない。

 私の中で相反する気持ちが、感情が同居し、せめぎあっている……。


 逃げ出したい……いや、多分中学までの私なら……こんな気持ちに耐えられず逃げ出していたのだろう。


 瞬が好き……。


 でも……知らない事が多すぎる……彼の事を私はまだ知らない。


 今までシステムに頼りすぎていた、多分それは彼もそうだ。


 私たちはまだ、お互いを晒け出していない……そんな気がする。


 知られる事が……知る事が怖い。


 嫌われたくない……嫌いになりたくない。


 だから、知りたくて、もっと知って欲しくて……彼とキスをした……頑張って……キスをした。

 私の精一杯の気持ちを伝えたくて……そして…………彼を私の元に留める為に。


 でも……心配していた事が現実なる。

 ……菫に言われた事が……現実になった。


『システムの信頼を失ったら……貴女たちの関係はどうなると思う?』

 前に話し合った時……最後に言われた菫の台詞……。

 それを瞬に気が付かせたくなかった。

 

 キスをして舞い上がっていた私、でもそれは瞬との関係が進んだからではなかった。

 彼が私に夢中なってくれるって……彼が……私から離れられなくなるって……そう思ったから……。


 だから私はもっと……自分の全てを使って……もっと好きになって貰えたらって……そう考えてしまった。


 出来もしないのに……。


 彼の前で……裸になんてなれるわけ無いのに……、

 私はお湯を止めると、自分の裸体を見つめる。

 

「……籠絡なんて……出来るわけないのに……」

 自分の身体で彼をなんて……出来るわけ無いのに……なんの経験も無い自分が……。



 今の私なんて、精々頑張ってキスまで……しかもその結果……瞬にこの先の事を気付かせる事になってしまった。


 瞬は気付いてしまった……システムの事に……私との違和感に……。


 ──私は酷い女だ。


 最低なのは……男じゃない……最低なのは私……私は全てを利用している。自分のエゴの為に……。


 瞬も、システムも、そしてこれから……菫、高麗川菫さえも……利用しようとしている。


 自分のトラウマを解消する為に、男性不信を治す為に……。


 自分の目的の為に……自分のエゴの為に……。


 魔王は菫じゃない……魔王は私……私は自分の為に……システム同様に……二人を利用しようとしている。


 


 

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