第58話 緊急メッセージ

 

 俺は少し同情を買うように思いっきり倒れて床ぺろをした。

 まあ、悪いのは俺だけど暴力良くない……。


「だ、大丈夫!!」

 そう言って月夜野は俺に駆け寄ると少し間を開けて正座をする。


 そして俺を半回転すると……結構力あるな……俺の頭を抱えて自分の膝の上に置いた!

 今度は膝枕ですか? 自分で倒しといて膝枕とかどっかの女騎士みたいじゃないか! しかし俺の願望をこんなに次々と叶えてくれるとは……マッチングシステムで出会いを求めるのは間違いじゃ無かった。


「あ、あの……月夜野さん……なんか……照れる」


「……わ、私も……」


 じゃあするなよ……と、思ったけどこの台詞で俺は気が付いた……。

 露出の高い服を着て、わざとらしく部屋に一人にする。震えながら俺の変態に付き合い、絶対にした事無いだろう膝枕……。


 そうか……月夜野……俺に気を使っているのか……頑張っているのか。


 月夜野の膝枕……太ももの感触は惜しいけど、お俺は足を上に振り上げその反動で起き上がった。


「あ……」


 そしてそのまま180度反転し月夜野の前に正座をする。更に昔とった杵柄、流れる様に間髪を入れず月夜野の両手を掴む。


 最後に真っ正面から月夜野の綺麗な瞳をじっと見つめながら言った。


「……無理しなくて良いよ」


「え?」


「そんな頑張らなくても良いよ」


「そ! そんな事……」

 俺がそう言うと月夜野は少し困惑した顔をする……俺はそのまま何も言わないで見つめ続けた。


「……め、迷惑だった? 嫌だった?」


「……嫌だよ」


「……そ……んな……」


「嫌だよ、月夜野が無理しているなら、嫌だ」


「え?」


「付き合ってるからとか、俺の為にとか……そう言う事で月夜野が無理しているなら、俺は嫌だ、嬉しく無い」


「で、でも! 私はしたいの……五十川君の為に」


「だからそれが嫌だって言ってるんだよ!」

 俺は少しキツイ言い方で月夜野を否定した。そんなのは嫌だから……して欲しく無かったから……。


「そんな……」


「いいか、月夜野……俺はお前が好きなんだ……大好きなんだ……大好きな人が……無理している姿なんて見たく無いんだ」


「…………」

 俺がそう言うと月夜野はうつ向く……ちょっとキツイ言い方だけど……でも言わないと……今しっかり言っておかないと……俺が……俺の理性は……もう限界だから。


「嬉しいよ、俺の為にしてくれて凄く嬉しい……でも違う……焦ったって良いことなんか何も無い……だから……もう無理しないで欲しい」


「無理……してない」


「……月夜野は俺の事好きか?」


「え?」

 月夜野再び顔を上げる……俺はしっかり手を繋ぎそう質問する……手から月夜野の同様が感じ取れる。


「俺の事を本当に好きなのか?」


「……も、もちろん……好き」


「本当に?」

 俺がそう言うと小刻みに月夜野が震え出した……。


「……好き……なんだと思う……」


「……思う……か」

 やっぱり……月夜野は恋人というのはそうあるべきと、システマチック的にそう思っていた。

 オタクの弊害……俺もそうだけど……こういう事ってゲームやラノベの様にはいかない……いや、いってはいけない。


「……私……男の子が苦手……でも、五十川君ならって……でも好きってどういう気持ちなのかよくわからない……これが……この気持ちが好きって思いたくない……五十川君に対して……あいつと中学の時のあいつと同じ気持ちなのが嫌なの。そんな気持ちで五十川君を好きって思う事が、見る事が嫌だった。だからもっと、もっと好きに……今以上に好きになれればって……そう思ってた」


「……だから……焦ってたのか」


「こんな私を好きって言ってくれて、あんなに酷い事をしてたのに受け入れてくれて……だから五十川君に恩返しをしたいって……何でもしてあげたいって……そう……思ったの」


「あははは、そうか……でもそんな心配しなくてもいい……それはゆっくり返して貰うよ……」


「……ゆっくり?」


「そうだよ……だってさ、俺達はこれからずっと一緒に居るんだろ? 違う?」


「……一緒に……ずっと…………うん……そうだね」

 婚約、結婚、マッチングシステムのゴールはそこだ。今は長い長い二人の物語の始まりに過ぎない、この先どうなるかわからない。

 でも……一緒に居たいって、ずっと一緒に居たいって……今はそう思っている。だから焦る事は無い……先はまだまだ長いんだから、


「じゃ、じゃあさ……五十川君……ずっとずっと一緒にいる……居てくれる約束に……その……キス……してくれる?」


「……は?」


「五十川君からキスして欲しいの」


「いや、だから無理は」


「無理じゃない! 今の私の気持ち……私……五十川君とキスしたいって……今心からそう思っている……よ」


 今俺達は手を繋いだままお互い正座で向き合っている……月夜野はニッコリ笑い……そしてそっと目を瞑った。


 正座から膝立ちになる俺、いや、するのか? また罠じゃ? でも、ここでしないって、無いよな……月夜野に恥をかかせる事になる……そして繋いでいる手はさっきと違い震えていない、今月夜野は無理していない、本心からそう言っている。

 俺は顔をゆっくりと近付けた……可愛い月夜野の顔が迫ってくる。月夜野の小さくて綺麗で艶のある唇……えっと俺の唇ガサガサしてない?


 こういう時俺も目を瞑るの? でも目を瞑ったら照準が合わせられないぞ! 鼻とかぶつかったら? ああ、もういい! 失敗を恐れてたら何も出来ない!


 俺は覚悟を決め目を瞑り月夜野の唇目掛けて顔を突進させ…………ようとしたその時!


『ブオンブオン、ブオンブオン』


 俺と月夜野のスマホが妙な音を出して部屋中に鳴り響いた。


 緊急地震速報に似た音に俺と月夜野は焦った。

 もし地震とかなら月夜野を護らなければと俺は咄嗟にスマホをポケットから取り出し画面を見た………………「は?」


 スマホには緊急とメッセージが出ている……しかしそれは地震とかでは無かった。


 緊急メッセージを送って来た相手は……『少子高齢化対策国民恋人適合システム』通称恋人マッチングシステム……その管理センターからだった。


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