第57話 無償の恋
恋ってなんだろうって……海から帰って来て私はずっと考えていた。
私に初めての彼が出来た……でもその相手は、よりによってあの五十川君だ。
初めて会った時……一瞬で彼の事が嫌いになった。あいつに似ていた事もそうだけど……なにか余所余所しい態度が気に入らなかった。何もかもが気に入らなかった……ただのいいがかり、それは分かっていた。
今思えば……逆だったんじゃないか? って思う……五十川君に似てたから、あいつの事を好きになったんじゃないかって……私は時を駆けたんじゃないかって……そう思う。
マッチングシステムで彼が選ばれた時、実は正直ほっとした……知らない男の人と……どう接すればいいか全くわからなかったから……怖かったから、だから実は彼の名前が表示されて私は内心……ほっとしていた。
でも……私が彼に散々悪態をついた、散々いいがかりをつけた。彼の中で私の印象は最悪だっただろう。
それでも……彼は私を受け入れてくれた、私の全てを受け止めてくれた。そして好きと言ってくれた。
嬉しかった、それだけで幸せだった。
そんな彼に……私は何かしたい、何かしてあげたい……今の私に何が出来るのか……そう考えていた。
そして何かしてあげたいって思うこれが……この気持ちが恋なんだろう……彼に何かしてあげたい……なんでもしてあげたい、私の物をなんでもあげたい、私の大切な物をなんでも……彼に上げたい……見返りなんていらない……ただ側にいてくれればいい……一緒に居てくれれば……一緒にいたい……もっと一緒にいたい。
でも……彼は気に入ってくれるだろうか? 私を、私自身を、私の大切な物を……それが怖い、彼と離れる事が怖い、彼に嫌われる事が怖い。
でも勇気を出そう、信じると決めたんだから、そう……私達には確信がある。マッチングシステムに選ばれたんだ。私達の相性は日本一なんだ。
だから勇気を出して彼を呼ぼう、私の家に……私の部屋に……もう隠す物は何もない……。
こうして私は彼を部屋に呼んだ……親の居ない……誰もいない日を狙って……。
◈ ◈ ◈ ◈ ◈
そして当日、お母さんが出掛けてすぐ私はお風呂に入った。部屋は早起きして綺麗にした。別に隠す物は無いけど、やっぱり少しでも綺麗な部屋で彼を迎えたかったから。
だから今は汗でびっしょり、これでは彼には会えない。
特に何かを期待しているわけではないけど……でも……何が起きるかわからない……だからいつもより念入りに身体を洗う……。
お風呂から出たら、予め用意していた下着を身に着ける……勿論上下お揃いの新品……ボーダーにしようか白にしようか散々悩んだけど……縞パンはいざって時に笑いが起きそうなので白にした。
服装はミニスカートにノースリーブ……なにか誘ってるイメージかも? でも水着姿を喜んでくれたから……露出高めでいいかなって……暑いし家だし普段着って言い訳にもなる。
全ての準備が整い私は部屋で彼を待った……待ちきれなくてずっと窓から彼が来るのを眺めていた。
こんなにも待ち遠しいなんて……会いたい早く会いたい…………来た!
私は慌てて玄関に駆け寄る……会える、彼に会える……もう何年も会ってないくらい待ち遠しかった……多分織姫よりも私の方が待ち遠しいって思えるくらい。
しかし……待てど暮らせど彼は呼び鈴を押さない……早く……早く! 「あああああ、もう!何してるの!!」玄関に駆け寄り扉を少しだけ開け様子を見た……なにか家の前をウロウロしている……ああ、もう我慢できない! 早く会いたいの!
私は思わず扉を開けた。
「怪しいから早く入って来なさいよ!!」
ああ、思わず以前の様な言い方で彼を出迎えてしまった。 呼んでおいてこれって……駄目だ……もっと可愛く接しないと……とりあえず彼を部屋に案内しよう……すると彼はお母さんの事を聞いて来た。私が今日は二人きりだと告げると彼は顔を赤くした。 あははは、可愛い……この人って可愛いなあ……。
さあ、もっと頑張って彼をもてなさなければ、まずはオタクの男の子ってパンツ好きだよね、アニメとかで言うラッキースケベ……さっき履いたばかりの綺麗なパンツだから見ていいよ……と、私は彼に見せる為に先に階段を上がった。
ええええ! 彼は私のすぐ後ろにぴったりくっついて来た……これじゃ見れないよ? 見たくないの?
オタクの男の子って奥手? あんなエッチな同人とか見てるし、凄いエッチなゲームとかしてるじゃない?
告白の時はグイグイ来てくれた……でも海では少し大人しかった……手は繋いでくれたけど……もっと来て良いのに……もっと来て欲しいのに……。
彼を部屋に入れてお茶を入れに行く……あはははこのシチュエーションよくアニメとかで見るよね、彼はどうするのかな? 部屋を漁る? 下着とかさがしちゃう? 見られて困る物なんて無い……って言うか全部他の部屋に隠した。
適当な所で戻って脅かしちゃえ、そして私は怒るの……彼は許しを請う……そこで私は言うの……名前で呼んでくれたら許すって……あはあああ、お約束よね……名前で呼び合う……そしたら……もっと……盛り上がれば……えへへへへへへ。
麦茶とお菓子を用意してそーーっと階段を上がる……そして部屋の扉をそっと開けた…………え? な、何? 何でベットに顔を突っ込んでるの?
意味不明の行動……ことごとく作戦が狂う……
「…………な…………何してるの?」
とりあえず理由を聞こう……ベットに顔を突っ込むなんて奇行を聞こう……洒落たわけじゃないけど……。
あ、言い訳を考えてる……虫がいたからとか言わせない……私は機先を制した。
すると彼は観念して本当の事を言った……えええええええ! わ、私の……匂い……そ、そんな……恥ずかしい……。
どんな匂いなの? 自分じゃわからない……でも好きって……だったら私の答えは一つだ。
「嗅いで良いよ……」
そう言うと彼は私の匂いを頭の匂いを嗅いで来た……クンクンと犬の様に鼻を鳴らす彼……ふ、ふええええええ、くすぐったい……変な匂い……しないよね、さっきしっかり洗ったから……でも匂いフェチの人ってシャンプーの匂いとかよりも体臭とか嗅ぎたいんじゃ……って言ってる側から髪を持ち上げろって……ああ、首筋に彼の吐息が……くすぐったい……恥ずかしい……ああ、もう限界……彼はようやく離れてくれた……もういい? 終わり? すると彼は言った。
「あ、あのさ……わ、脇……も……いい?」
脇? 脇って、えええ! お手入れはしてるけど、海の時だし……って言ってる側から近付いて来る……ああ、彼の望みだから……で、でも……でもおおおお。
「……だ、だ、駄目えええええええ」
ああああああ、つい、つい勢いで彼を、五十川君を叩いちゃった! でも……でもおおおおおお。
何でも上げる……なんて無理だった……だって、だってえええええ、恥ずかしいよおおおおお!
私は彼に全部……私の全てを上げたいって思っている……でもそのハードルは高いって……彼に思わされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます