システムに翻弄される二人

第50話 イチャイチャスタートは水着から


 青い海……白い雲、熱い砂浜、潮の香り……。

 海は良いなあ……。


「ふん……」


「えっと……まだ怒ってるんですか?」


「はあ? 当たり前でしょ! 付き合い始めた翌日から、ううん、その夜からいきなりラインもメールも電話も無視されて、ほったらかしにされて夜まで連絡つかなくてようやく連絡付いたと思ったら素っ気なくされて、いきなり後悔したわよ!」


「だって……仕方ないだろ、コミフェ3日目が俺のメインなんだから、買ったら早く読みたいし……」


「私も誘えば良いでしょ!」


「3日目に彼女と行くとかそれなんてエロゲ?」

 無理ゲーか?


「いきなり浮気された気分になったわよ!」


「浮気って……いや、本当ごめんって何度も謝っただろ」


「足りない! 一度謝った位で謝ったと思わないで!」


「どこの国だよ! じゃあどうすれば良いんだ?」


「そ、そんなの……自分で考えなさいよ!」


「そんな事言われても……」


 俺達は付き合って初のデートをしに来た。

 日帰り海旅行、怒れる月夜野さんをなんとか言いくるめ誘い出す事には成功したが、電車の中からずっと不機嫌で水着に着替えて一緒にレジャーシートの上に座って海を見ている今現在も、その怒りは収まっていなかった。


 そもそも何故こんな時に海に誘ったか……アニメ化で月夜野さんの見事なプロポーションを披露する為……とかでは勿論なく、もうこれはただ俺が見たかっただけだ。

 だってさ、うちの学校にはプールが無いんだ。なので女子のスタイルを見れるのは夏服と体育の時ぐらい……そしてそんな少ない露出の中、月夜野は他の女子を圧倒し、一際輝いていた。


 プロポーションは高麗川も良かった……しかし今、月夜野の水着姿を見るに、天性の美しさ、神から与えられた美しさという物を実感出来る。


  作られた美と授かった美、どちらも尊いがそこは彼氏贔屓で月夜野に軍配が上がる。


 ずっと彼女は欲しかった……ずっと出来なかった……いや、作ろうとはしなかった……2次元さえあればいい……なんて俺はずっと思っていた。


 しかし……それはただのやせ我慢だ、2次元を見れば見るほど凝り固まる妄想、彼女が出来たらして見たかった数々の事……そして俺が一番リア充爆発しろと思っていた事、それは……毎年ニュース等で流される海岸で寝そべるカップルの映像だ。


 リア充爆発しろ! そう思った。しかし……それはただのやっかみだ。自分だってそういう相手が居れば……出来れば……そうずっと思っていた。


 そして今俺にはアイドル顔負けの美貌とやや細身だがモデル並のスタイルを持ち合わせた理想の彼女……彼女……うへへへへ……俺の彼女が……。



「キモ……」


 俺の……彼女が…………彼女が彼氏をキモいって言うなあああ。

 泣くぞ、泣いちゃうぞ、前とは違うんだ、メソメソ泣くぞ!


「な、なんでだよお!」


「そんな目でジロジロ見られたら誰だってキモいって思うわよ!」


「だってしょうがないだろ、お前があまりにも綺麗過ぎて目が離せないんだから!」


「なっ! つつつ……」


「世界一可愛くて綺麗でスタイル抜群な彼女が水着姿だったら、そりゃ見るだろ! 目に焼き付かせるだろ!」


「き、きれ、綺麗……しょ、しょんな恥ゅかしい事を、こんな、言わない……で」

 月夜野は俺の横で体育座りをしていたが、さらに身体を丸め膝の間に顔を埋めた。


 いや、だって本当の事だし……。


 あまり言いたく無かったので言わなかったが、そろそろ俺の月夜野の姿を仕方なく、仕方なく言っておこう……感謝しろよ童貞ども! いや、お前もだろって突っ込みはいらない。


 今の月夜野は黒のタンキニで下半身はスカートの様になっている。

 ビキニでは無いのでまだその全貌は明らかになっていないが、初めて見る彼女の胸は大きくなく小さくなく俺の手にすっぽり収まる様な大きさ、ツンと上を向いていて綺麗な形をしている様だ。

 ウエストは俺の太ももよりも細いんじゃないかって位細く前にあれだけの量のご飯を平らげたのは一体どこへって位細い。


 そしてすらりと伸びた長い足、付け根部分はスカートで見れないがそれでもわかる太ももの細さ、足首に至っては俺の手首よりも細いかも知れない。


 いつもの長い黒髪は可愛く纏めてアップにしている……なので今俺の目には初めて見る月夜野のうなじが映っている。


 これが俺の彼女だ参ったか! ひれ伏せ愚民ども~~わははははははは!


 しかし優越感に浸っている場合じゃない、今が仲直りのチャンスだ。

 

 俺は膝を抱えている月夜野の手を強引に剥がすとそのまま手を繋いだ。

 

 月夜野の手を俺の手に重ねる様に置き、更に指を絡めて恋人繋ぎをする。


「ちょっ!」


「良いだろ……俺達恋人なんだから……」


「…………し、仕方ないわね……あんたが繋ぎたいって言うなら」


「繋ぎたい!」


「…………強引なんだから、ほんと……男って……」

 月夜野はいつものセリフを吐こうとして途中で止めた……止めた瞬間繋いでいた手に力が入った。


 俺もそれに合わせて強く握り返した。


 海から心地よい風が吹いている……俺達は泳ぎもせずにずっと手を繋いだままキラキラと輝く宝石の様な海を、ただじっと眺めていた。



 

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