第51話 バカップル
「ねえ……いつまで握ってるのよ……」
「一生……」
「つっ……あ、あああ、あんたねえ、やっぱり調子に乗ってるでしょ!」
「本心だもん」
「つつつ……さっきからなんなの? なんで男がデレるのよ、誰得よ!」
月夜野の顔がどんどん赤くなっていく、いや、デレてるのはむしろ貴女ですけど。
月夜野の表情は面白いくらいにコロコロと変わる。学校じゃあクールビューティーを気取っているが俺の前でだけは違う、これは出会った時からで、他の奴らと俺では前から月夜野の態度や表情が違った。
最初はクールに言いがかりをつけて来るが俺が反論すると真っ赤な顔でマウントを取りに来る。わざわざ俺に絡みに来る。当初一体こいつはなんだったんだと思っていた……可愛い顔して性格は破綻しているんじゃないかって……そう思っていた。
俺にだけ……俺だけ特別……今思えばその頃から俺に気があったって事だ。
そうとわかれば何も不思議な事は無い。子供が好きな子を虐めちゃうあれと一緒だ。
そうとわかれば今度はもう月夜野が可愛くて可愛くて仕方がない。
「……お前が得だろ?」
「な! べ、別に得ってわけじゃ……」
「月夜野って本当……可愛いよなあ……」
本心で思う事をそのまま言ってるだけ……なんで俺の彼女は、可愛くて綺麗なんだろう……握った手も細くて折れそうで、可憐という言葉がしっくり来る。
「だーーーかーーーらーーー」
限界まで顔を赤らめた月夜野は遂に限界に達したか俺の手を振りほどこうと
手をブンブンと振った。
「あーーー」
俺から無理やり手を離すと月夜野は立ち上がり俺の前に仁王立ちする。
月夜野の水着を下から見上げる様な形になる……ぐはぁっ……なんていやらしいんだ。
スカートの中と言っても水着なので見ても問題無いんだが、目の前ではさすがにヤバい……。
「べーーー、泳ぐ!」
俺に向かってアカンベーをすると月夜野は海に向かって走り出した。
「ちょっと、待って」
俺は立ち上がり月夜野を追いかける……何青春してるんだお前らは、リア充爆発しろって思ってるんだろうなあ……。
でも……これがしたかった、これがやりたかった。
凝り固まった俺の妄想、恋人が出来たらしたかった浜辺での追い掛けっこ。
見るなと見てが同居する月夜野の水着姿。
「こうなったらトコトンやってやるううう!」
波打ち際を走る月夜野に俺はダッシュで追い付くと、そのまま腰目掛けてタックルした。
「ええええええ!! きゃあああああああああ!」
悲鳴と共に一緒に波に飲まれる……俺と月夜野は二人揃って海の中に飛び込んだ。
ゴボゴボと水の音がする、俺の腕には柔らかい感触、浅瀬なので少し痛い……。
抱き合いながら海の中に二人揃って倒れている。と言ってもここは全然浅瀬、波が引くとただ砂浜に寝そべる二人と化した。
穴場の海水浴場、お盆休みが終わった直後とはいえ、まだまだ人は賑わっている。そんな中波打ち際で抱き合い寝そべる俺と月夜野……さすがにバカップルが過ぎたか、周りからクスクスと笑い声が聞こえる。
「ちょ、ちょっと、どこ触ってるのよ!」
「え? あああああ、ご、ごめん!」
月夜野の太ももの間に俺の右腕が挟まれている……柔らかくて暖かくて……い、いや、これって俺が悪いのか?……まあ、飛び付いたのは俺が悪いんだけど……。
慌てて離れる俺と月夜野、月夜野の髪は見事にほどけ濡れて半分垂れ下がっている様な状態……これでも可愛いってどんだけだよ、普通貞○になるだろ?
「ふ、ふええええええええん」
「あ、ああああああ、ご、ごめん、ごめん」
痛かったのか恥ずかしかったのか、髪がほどけたのが嫌だったのか? 月夜野はその場で泣き始めてしまった。
周りの目もある……俺は月夜野の手を握ると、慌ててさっき座っていた所に連れて行く。
「ふえええええ、もうやだあああ、帰るうううう」
「ご、ごめん、ごめんよ」
レジャーシートに座らせ借りていたパラソルを調整して日陰を作る。置いてあったジュースを月夜野に渡しなんとか泣き止む様に懇願するも月夜野全く泣き止まない。子供の様に泣きじゃくっている……。
くっ……こうなったら仕方がない……最後の手段を使うしかない……コミフェの後じゃかなりきついが仕方ない。
「えっと……何か食べる? 奢るよ」
そう言うと月夜野はピタリと泣き止み俺を見て言った。
「焼きそば……大盛りで……あと……たこ焼きと、かき氷も……」
「そ、そんなに?」
「び、びええ……」
「わかった、わかったから、今買って来るから!」
「うん! 待ってる!」
子供の様に満面の笑顔になる月夜野……くっそ……絶対に嘘泣きだっただろ!
そう思いながらも惚れた弱み……あの笑顔には逆らえない……と俺はダッシュで月夜野の注文を買いに走った。
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