第23話 中学生男子と高校生男子


 門限とかは特に決まって無いがそろそろ帰らないと行けない時間は勿論存在する。

 その時間ギリギリ迄俺達はずっとオタ話をしていた。

 

 半日以上オタ話をしてわかったが、どうやら彼女はほぼゲームしかもいわゆる、恋愛シミュレーションゲームを新旧問わずに暇さえあればやっているとか……まあ、後は古い漫画を好んで読んでいるらしい。


「まあ、そう言っても僕は部活で忙しいから毎日は無理だよ」


「毎日とか俺だって無理だよ」


「週5ならなんとかする!」


「ほぼ毎日じゃねえか」


「嘘嘘、もうじき大会だからねえ、今日だって休みなのに自主練さ」

 そうか……だからジャージ姿だったんだ……さすがガチ運動部、それでもゲーム屋に寄るとか、かなりのオタだなあって思うけど。


 支払いを済ませ外に出ると高麗川は帽子を被りマスクをつけた。

 いや、帽子はともかく走るのにマスクは怪しいよ……。


「走って帰るのか?」


「うん? まあ、大切な荷物があるから軽くね」


「そうか、気を付けてな」

 俺がそう言うと高麗川は俺を見つめてニッコリ笑う。そして暫し俺を見つめると突然くるりと背中を向け挨拶の代わりに片手を上げて走り始めた。

 

 その高麗川の走りがあまりに美しくて、俺は見えなくなるまでずっと見続けていた。



◈ ◈ ◈ ◈ ◈



「今日の目的をすっかり忘れていた……」

 久々にオタ趣味の話を思う存分に出来た喜びのまま帰宅、風呂に入って飯を食って部屋に入ってベットの上でくつろいだ瞬間に今日の本来の目的を思い出した。


 来週月夜野とデートをしなければならない、しかも俺が彼女をエスカレートを……いや……すみません、エスコートをしなけりゃならない。


 女子と付き合った事どころかまともに喋った事も無い俺が……あれ? そういえば……今日俺ずっと女子と一緒にいたなあ……あれ?


 高麗川……女じゃない? いや、いくら一人称が僕でも俺はそんな風に思った事は無い。確かにボーイッシュだが、小さくて可愛くて十分に魅力的な女の子だ。


「ただ……なんか高麗川って小動物みたいな感覚なんだよなあ……」


 ウサギ? みたいな感覚……俺の回りをピョンピョンと跳び跳ねる、そんなイメージ……そうか……そうだよ、その感覚だ。


 月夜野はネコだ、どら猫……いや、シャム猫? なんかお金持ちが飼っているような、気にくわない事があれば引っ掻いてくるそんなイメージだ。


 うん、可愛い……よな、猫は可愛い……つまり月夜野も可愛い……。

 可愛い彼女がいる、俺には……。

 そう考えると何か気分が楽になる……。


「あいつの趣味がわかればなあ、そういえば読書とか言ってたけど、何の本を読んでるのか聞かなかったなあ……」

 俺はあいつの事を全く知らない……1年も一緒のクラスだったのに、普段何をしているのか、そして何を好んでいるのか……全く知らない……。


 今まではデートの度にシステムの話ばかりだった。殆どプライベートの会話をしてこなかった。でも今は仮とはいえ俺達は付き合ってるんだ。

 

 ならば聞けばいい、聞いても良い筈だ。


 そうだ次のデートはあいつの事を知るデートにしよう。話そう……とにかく話そう、俺の事をそして聞こう、月夜野の事を…………。


 俺のオタがバレても…………良いから。




◈ ◈ ◈ ◈ ◈



 地方の同人即売会にて小さめのスーツケースに大量の同人誌を詰め、ホクホク顔で駅から家に向かって歩いていると目の前に美味しそうな二人が、いやいや、怪しい二人がいた。


 一人は帽子にマスク姿の小学生? いや、中学生? もう一人は後ろ姿から高校生くらいの男の子。

 二人はファミレスの前で別れを惜しむ様にじっと見つめる合っている。


 男の子同士で見つめ合うとか一体……私は思わず魅入ってしまった。


 暫く二人で見つめ合いニッコリ笑うと、その小さな少年は片手を上げて走り去って行く、何か大切な物を抱える様に……彼からのプレゼントなのか? 走りながらも、いとおしそうにその袋を抱いていた。


 そしてその高校生らしき人物は、見えなくなるまでずっと少年の後ろ姿を、その場から動かずに……ずっと見続けていた。



 はううううううううううう…………なにこのBL美しすぎるんですけど。


 ああ、なんて悲しい、なんて切ない二人なの、ああ、でもいい……中学生と高校生……最高のシチュエーション、私の大好物。

 

 私はそのまま興奮しながら残った高校生の男の子を見ていた。


 走って行った少年が完全に見えなくなると、高校生の彼はようやく歩き出した。

 角度が変わり高校生の顔が見えて来る……ってあれ? どこかで見た事ある顔……えええええええええええ!!


「い、五十川君……」

 その高校生は五十川君……私の仮の彼だった。


 彼は普段着の私に気付く事なく、物思いにふける様にその場からゆっくりと歩いて行く。

 何か嬉しそうに、私には見せた事の無い表情を浮かべて。


「…………五十川君……て……やっぱり……男の子が……好き?」

 

 私はそう呟き呆然と彼を、彼の歩いて行く後ろ姿を見続けていた。



 



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