第96話 付き合ってみないか?


 少し肌寒い風が冬の匂いを運んで来る。

 冬はもう目前に迫って来ていた。


 学校帰り、公園の外灯に照らされたベンチに女の子と二人で並んで座るなんて、去年までは全く考えられなかった。


 しかも……相手はスポーツ美少女……。

 そう……高麗川は可愛い。

 高麗川は瑠と比べると身長は低く、童顔だ。

 瑠も童顔な方だが、高麗川はそれよりも遥かに子供の顔。

 胸も薄く初めて出会った時、僕は少年と見間違えた。


 大人の中に子供を持ち合わす瑠と子供の外見なのにどこか大人っぽい高麗川。

 

 でも……昔からこういう娘が好きだった。

 まあ、俺の周囲には高麗川みたいなのばっかりだったからかも知れないけど。


 そうなんだ……高麗川俺のもろ好みなのだ……俺のどストライクなのだ。

 元気一杯で、頭もよく、思いやりがあり、オタクにも理解がある。


 そして……俺を……俺のトラウマだった俺の過去を知っていて、さらにはそんな俺を尊敬してくれている。

 

 でも、だからって……。


「そんな事……出来るわけ……」

 瑠の事を信じられないからって、だからって……瑠を捨てて高麗川と付き合うなんて事……。


「ふふ、そう言う君の真面目さは、紳士で真摯な所は好きだ。たいした物だよ、浮気の心配が無いってのは高得点だな」


「……」


「でも……いいのかい? このままで、このまま瑠と一緒で、一生を決めてしまって、いいのかい?」


「そ、そうだけど、だ、だからって、それで高麗川と付き合うのは、違うだろ?」


「そんなに深く考える事じゃない、そもそも僕は君と付き合う権利を瑠から貰っているんだからな」


「権利?」


「宣戦布告したって言ったろ?」


「それは……」

 確かに高麗川は言っていた……でもあの勝ち気な瑠だ……売り言葉に買い言葉で言ってしまったんだろう……そうじゃなきゃ……。


「瑠は……システムに絶対の信頼を置いている、だから君と別れるわけが無いって思っている、そして君もそう思っていたんだろ? だから一時撤退した。でも……今、君は揺らいでいる……だからこそ、今僕と付き合う事に意味があるんだ」


「意味?」


「君達の結束が、決意が本物なのか? システムは本当に君達の未来を明るく導いているのか?」


「俺達の……未来」


「僕と付き合え、それが本物だって言うなら! 付き合ってみろ」

 高麗川は必死の形相で俺を見つめる。大きな瞳から涙を浮かべて。


「…………」

 俺は考えた……必死で考えた……確かに、俺の今の気持ちは揺らいでいる。

 このままで良いのか? って……そう思っている。

 瑠は好きだ……それは紛れもない事実……でも……それがシステムによるものだっていう事は否定出来ない。


「……わ、わかったよ」


「ほ、本当か?!」


「ああ、でも……俺は瑠と付き合っている、瑠が好きだ。これは紛れもない事実なんだ……だから恋人として付き合うとかじゃない、高麗川は友達だ……あくまでも友達……ただ……大事な友達と出掛けたり食事したりするってのは別に変な話じゃない……」

 そんなの言い訳だ……こんなの俺の欺瞞だ……高麗川を都合よく使っているだけ……でも……。


「うんうん、それでいい」

 そんな俺の考えなんて全てわかっていると、高麗川は言っていた。

 そんな顔で俺を真っ直ぐに見つめていた。



「……でも、でもその前に……やっぱり瑠と……一度話してみる……しっかり……話し合ってみる」

 俺の今の気持ちを、そして瑠の気持ちを……俺達の将来を……。


「勿論だ、僕も一度瑠と話す」

 高麗川涙をこぼしながら満面の笑みを浮かべた。

 その笑顔に俺の心はズキズキと痛んだ。


 もし……もしも……システムを利用しなければ……俺は……多分……高麗川と付き合っていたんだろう……今俺は……本気で……そう思っていた。



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