第95話 もう全て決めてしまうのか?
「うまい! やっぱり練習後の肉まんは最高だよ」
辺りはすっかり暗くなっていた。
俺は話がしたいと高麗川を誘う、喫茶店かファミレスか、そう聞くと高麗川は
「そろそろ肉まんの季節だな!」
そう言ってコンビニに、そしてそのまま近くの公園のベンチに座るやいなや、バクバクと肉まんを頬張りはじめる。
「えっと……」
「はなふぃってはんだい?」
「いや食べてからで良いから……」
「ふぉかごめんふぇ、いまおふゃふぉ」
水分の無くなった口の中に、暖かいお茶を流し込んでいる。嬉しそうに、美味しそうに食べる高麗川……そう言えば、瑠もご飯を食べる時は美味しそうに食べるよな……しかも二人ともよく食べる。
思わぬ所で共通点を見つけてしまう。
「それで話って?」
肉まんを持っていた指をペロッと人なめした高麗川は、持っていたもう一つのピザマンを少し残念そうに見つめ、ちょっとだけ恨めしそうに俺を見る。
「いや、あ、あのさ……やっぱり高麗川の言った通りなのかも知れないって……」
「言った通り?」
もう忘れたのか? 高麗川はなんだっけと考え込む。
「いや、だから……誘導されてるって話だよ」
「ああ!」
「な、なんだよ、高麗川が言ったからじゃねえか」
俺も仕返しとばかりに少しだけ恨めしそうにそう言い返した。
「それで?」
「……いや、その……なんかさ……高麗川に言われてから……信じられなくて」
「信じられない? 何がだい?」
「いや……その……あ、愛が……」
「…………ぶはっ、あはははははははは」
「わ、笑うなよ!」
「き、君の口から愛だなんて、あははははは、わろすわろす、テラわろすって奴だな!」
「言い方!」
「そ、そうか、僕のせいでもあるんだな、ごめんごめん」
「くっ……」
「怒るなよ、それで、システムに誘導されている根拠が自分でも見つかったって事かい?」
「……ま、まあ……でもそこまではっきりってわけじゃ……ただ月夜野の口から……結婚だの子供だのって出てきたら……」
「へえ、随分と進んでいるようじゃないか? 童貞卒おめ~~」
「してねえ! キスしかしてねえ!」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」
そう言うと高麗川は俺を慌てて制止する。
そして……。
「ピザマンが冷めてきた!」
「…………ああ、ハイハイどうぞ」
「すまない…………うまっ!」
モグモグとピザマンを頬張る高麗川……いや、かわいいけど、いま良いところだったんじゃないのか?!
相変わらずマイペースな奴、俺はそう思いつつ、美味しそうに食べる高麗川を黙って見つめる……。
改めて見ても、高麗川は可愛い、日焼けした肌、短い髪、少し垂れた大きな目……性格の勝ち気でお節介でお人好し……。
瑠と似ている……どことなくだけど……。
「……ん? ああ、たふぇるかい?」
「いや、大丈夫」
「えんりょふるな、ほふぇ」
俺が見つめて考え込んでいる事を勘違いした高麗川は、目の前にピザマンを差し出す。
俺はそのうまそうな匂いに、ついパクりと一口頬張った。
「うまいだふぉ?」
「あ、ああ……」
俺が食べたピザマンを気にする事なく再び食べ始める高麗川……いや、間接キスとか考えるってオタッぽいよな……ってオタだけど……。
高麗川は気にしないのかな? 陸上部の奴とこうやって帰りに買い食いとかしてるのかな? 体育会系ってそうなのか? いや、俺も昔はそうだったけど……。
そうなら……なんか嫌だな……高麗川が他の男とこうやって……とか……って俺は何を……。
「君はさ、競技者に戻らないのかい?」
食べ終わった高麗川は再びお茶を煽り飲み、一息つくと、真剣な顔で俺を見つめ、そう言った。
「え? いや、今さら戻るなんて……」
周囲が許さない、親父が許さない、自分が……許さない……そもそも……またやりたいなんて……これっぽっちも思わない……。
「違うよ、競技じゃなく競技者、スポーツの世界に帰ってくるつもりは無いのか? って言ったんだ」
「競技……者?」
「さっき君はあれだけの体幹を、力を見せたんだ、他の競技をやってもそこそこ行くんじゃないのか?」
「……いや……それにしても……今からなんて……」
「何もオリンピックやプロを目指せとか言ってるんじゃないんだ、運動は嫌いじゃないだろ?」
「……まあ」
「……自分の可能性を、もう決めてしまって良いのか? って聞いたんだ」
「……可能性……」
「そしてね、それはマッチングシステムにも言える事なんだ」
「え?」
「君は決めてしまって良いのか? 瑠に……自分の人生を託せるのかな?」
「……それは」
「一生を、もう……決めてしまって良いのかい? 誘導って言うのはそう言う意味さ」
「一生……」
「後から後悔しないかい? 今の君のように」
「後悔……」
「競技を止めてしまった事を全く後悔していないかい?」
「……」
「瑠を選んで、それもシステムによって決められた相手で、君は後悔しないかい?」
「……」
やはり……言い返せなかった……高麗川に俺はまた、何も言い返せなかった。
さっき高麗川が言ってくれた言葉に……君は僕のヒーローなんだって言葉。
俺は凄く嬉しかった、そして凄く悲しかった。
認められた喜びと……そして止めてしまった悲しみが俺の中で渦巻いていた。
そう……俺は後悔していたんだ……。
高麗川の言っていた通り……俺は……後悔していたんだと……今ごろ知ってしまった。
「──なあ……僕達、付き合ってみないか?」
「……え?」
『あとがき』
現在忙しく書く暇が……先が気になる方は、やる気スイッチか、★レビューをクリックしてくださいませm(._.)m(笑)
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