第42話 私とは住む世界が違う……
「暑い……」
コミフェ1日目、サークル参加前日、私はコミフェには行かず学校に来ていた。
照りつける様な日差しの中、いつもは日傘を差して外に出るが今日は制服の為日焼け止めをしっかりと塗って学校に向かった。
校門をくぐり校舎には入らず直接各部活動が行われているグラウンドに向かった。
野球、サッカーと並びうちの学校で強豪の陸上部、専用トラックでは真っ黒に日焼けした男女が暑さに負けず駆け回っていた。
「私とは違う世界だなぁ」
運動なんて体育以外殆どした事はない……いつも部屋で絵ばかり描いていた。
細くて色白で良いねなんて言われるけど……私はこんな自分は好きじゃない……もっと……そう……高麗川さんみたいに、明るく元気になりたいって思う。
そう……私は高麗川さんに逢いに来ていた。クラスで唯一連絡先を知らない女子……1年から同じクラスなのに今まで殆ど関わり合った事はない。
ただ彼女の噂は聞いていた。バリバリのオタク、それもゲーム特に恋愛系のゲームをこよなく愛しているという噂……。
「なんで……あんな事言っちゃたんだろう……」
絶対にバレちゃいけないのに……五十川君に続いて高麗川さんにも私のオタがバレてしまった。
しかも親も知らないガチの趣味を二人に半分バラしてしまった。
BLの事はまだ言っていない……まあ明日会場でバレるけど……。
しかし明日、コミフェ2日目当日迄待てない……もし陸上部の人に、男子に高麗川さんがバラしたら……。
「私……あの同人の様に……陸上部の男子達から、あんな事やこんな事を……だ、ダメそんなの……らめぇ~~」
「らめぇ?」
「ひいいいいいっ!!」
振り向くとそこには真っ黒に日焼けした高麗川さんがいた。
ランパンランシャツから出ている細長い手足、そして顔は汗でびっしょりに濡れており、太陽に照らされ全身がキラキラと光っていた。
眩しい……この娘は私には眩しすぎる。
「そんなびっくりしなくても、どうしたんだい? らめぇって?」
「い、いえ……あの……高麗川さん……あの……れ練習は?」
「今からだよ、ウォーミングアップで3キロ走ってきた所だ」
「は? 3キロ?」
「うん?」
「ウォーミングアップに3キロって、それが本番じゃないんですか?」
「うん、ただのウォーミングアップ、これから1000mのインターバル5本やるんだ」
「インターバル? 1000mって1キロですよね? 5キロ……」
「そうだよ、あ、ごめん先輩が待ってるから」
「あ、はい……」
そういって高麗川さんはトラックに駆けて行った……そして、私には考えられない位とてつもないスピードでトラックを2周半走り、止まらず半周ゆっくりとジョギングさらに同じスピードで2周半走りそれを5回続けていた……な、なんなのあの娘……。
恐らく先輩なのだろうか、高麗川さんの前を走る人物に殺気を感じる位、必死に食らいついて走るその姿はいつもの高麗川さんではなかった。
そして1時間もしないで高麗川さんは6000mを走りきった……凄い……この暑さでそんな距離を……。
日陰で立っているだけでクラクラしてきている私なんかとは比べ物にならないその体力に圧倒された。
さらに少しの休憩を置いて、ゆっくりとトラックを10周……4キロを走り最後に体操迄していた。
もう……見ているだけでお腹一杯……陸上部ってこんな凄いんだ……高麗川さんてこんな凄いんだと圧倒されてしまった。
練習を終えたのか、高麗川さんが私の方に駆けてくる……あれだけ走ってまだ走れるの? もう意味がわからないよ……。
「ごめん、僕に何か用なんだよね? 今着替えてくるから待ってて」
「あ、練習終わり?」
「うん、この後ストレッチするんだけど、友達が待ってるからって抜けさせて貰った」
「……良いんですか?」
「まあねえ~~昨日の記録会で勝ったからこれもご褒美かな? 明日休むからちょっと気合いいれないと駄目だったんだよね~~じゃあちょっと着替えて来る」
そう言うと高麗川さんは部室に走って行った……ぴょんぴょんと軽やかに走るその姿はまるで黒ウサギの様にとても可愛い……そう思った瞬間胸が痛んだ……そして五十川君の顔が浮かんだ……なんで今五十川君の事を思い出したのか……そしてこの不安な気持ちは、胸の痛みは一体……。
夕方近く、まだまだ日差しは強いが、今私は暑さを感じなくなっている。
むしろ寒気を感じていた。
それは高麗川さんの練習を見たせいなのか……それとも……。
しばらくして高麗川さんが制服姿で戻って来た。
「暑いよねえ、月夜野さん暑くなかった? ごめん待たせて、かき氷でも食べながら話そっか」
「ご、ごめんなさい、あんなにキツイ練習をした後なのに」
「へ?」
「え?」
「あ、ううん今日は合宿前の比較的軽い練習だったから」
「あれで……軽い……」
「さあ、行こう、かっきごおり~~」
そう言うと高麗川さんは私に背を向けてストレッチをしている先輩に向かって大声を出した。
「高麗川帰ります! お先に失礼します!!」
そう言って深々とお辞儀をする高麗川さん……遠く迄聞こえる位大きな声で……それを見て思わされた。
この人は私とは何もかも違うって……性格も生きる世界も何もかも違うって……。
こんな子になりたかった……私は高麗川さんの様に、真っ直ぐな高麗川さんみたいになりたかった……。
はっきりとわかった、今まで高麗川さんと話さなかった理由が今はっきりとわかった。
私は高麗川さんに……嫉妬していたんだ…………。
◈ ◈ ◈ ◈ ◈
その頃の五十川君は……。
「うははは、ループ、ループ~~コミフェ最高~~~♡」
2日目の事も月夜野も高麗川も全て忘れ、コミフェ1日目を堪能していた…………。
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