第3話 マッチングシステムの概要

 

「1年間……マジか……」


「……あんたのスマホ見てごらん」


「ん?」

 言われて俺はスマホをテーブルに置く


「GPSがロックされてるでしょ?」


「お? ああ、うん」

 スマホの上部にあるGPSのマークが点灯している。普段は使わないのでオフにしているんだが、いつの間にかオンになっていた。

 俺はロックされているという事を確認するべく設定画面を開きGPSをオフにした。しかし直ぐにオンになってしまう。


「変更できないでしょ? もう私達はすでにAIの監視モードに入っているのよ……一定期間会わなかったりしたらそれでもう罰則になるの……」


「監視? 罰則? へ?」


「ああ、もう……本当に何も知らないのねあんた! 登録の時確認事項として書いてあったでしょ!?」


「す、すみません……全部飛ばしてOKしちゃいました」


「もう、あんただけの問題じゃ無くなってるの、知らないで巻き込まれるのは私なのよ! ああ、もう本当最悪」


「す、すみません……」

 何も言い返せなかった……本当に軽い気持ちで利用しただけだったから。


「私達はまだ未成年だから懲役迄はないとは思うけど、学校と連携してるから停学や下手すると退学も……」


「はあああああ? なんだそれ?」

 懲役? 停学? 退学?


「もう……ちゃんと説明するから聞いて!」


「は、はい……」


 そして彼女の説明が始まった。

 細かい事はよくわからなかったがざっとで言うとこうだった。


 急激な人口減少による国家存亡の危機で発案されたシステムの為に遊び半分や悪用は許されない、その為使用する者には色々な制約や罰則が適用される。

 彼女はそれを株式市場に例えた。


 情報等や自社株を売買出来る立場の人間が前もって株価が上下するのを知ってそれを売買し利益を得る。一見何が悪いのか? と思うが、これはインサイダー取引と言う立派な犯罪行為にあたる。また虚偽の情報を流し第三者を誘導し株価を変動させ利益を得る、これも一見よくありそうだが風説の流布と言って金融取引法違反となる。


 これらの行為を許すと正当な取引をしている者を妨害し、そのシステム自体の信用を根本から崩してしまいかねない。


 つまりこの恋愛マッチングシステムも同様に不正やいい加減な使用を許せば、そのシステム自体の信用が崩壊してしまう。

 なので使用に関して真剣に取り組む事を求められ、当然罰則事項も設けられているとの事。


「わかった? いい加減な事は許されないの! そもそもこんな事は中学の社会の授業で習ったでしょ?」


「いや、現社は受験に関係ないから寝てたので……す、すみません……」


「全く……だからね、本気の人しかこのシステムを利用しない……皆一定の覚悟を持って利用しているの、て言うか今更こんな話をするって事が信じらんないくらい皆知っている事よ?」


「す、すみません……えっと、じゃあそうすると……月夜野さんは真剣にご利用されたと……」


「……なんかそのへりくだったしゃべり方ムカつくわね……まあいいわ、そうよ私は真剣に利用したわ」

 そう言うと彼女は胸を張った。ヒラヒラの服の上からでもわかる綺麗で形のいい胸、顔もいいけどスタイルも抜群……黙っていればモテるだろうに……本当に何故このシステム利用してるのか俺にはさっぱりわからなかった。


「いや、これってモテない奴が利用するシステムじゃん、今でも2割の奴等は自力で見つけてるんだろ?」


「悪かったわねモテなくて、ふん」


「いや、そういう……あ、そう言ってるのか、フム……」


「うっさい! とにかく不正は許されないの、居場所特定されない様にスマホをわざと忘れたりしただけで不正認定された人だっているんだから」


「そ、そうなの?」


「個人の行動パターンくらいシステムの情報の中に入ってるわよ、今まで一度も忘れた事がないのに突然何度も繰り返すとか明らかにわざとでしょ? さすがに会話迄は盗聴されないと思うけど、それ以外の情報は全て監視されてると思った方がいいわ!」


 そう話している最中目の前に置いてある俺のスマホにメールが入った。続いて月夜野のスマホからもメールの着信音らしき音がなる。


『初顔合わせおめでとうございます。お二人のカップル誕生をお祝い致します。尽きましては次回のご予定を入力してください、推奨場所は以下の所です』


 と、システムからメールが入った。成る程本当に監視されているのがわかる。


「次の推奨場所? そんな事迄指定してくるのかよ?」


「そうよ、システムはカップリングが上手く行く様に指示をしてくるわ、過去の前例や私達個人の好み全てを考慮しているからね」


「いや……それにしても……そんな細かく……行き場所くらい自力で決めれるだろ?」


「システム使う人なんて、デートした事無い人だらけだもん、それに好みに合わない場所について行く身にもなれって事でしょう?」


「そんなもん黙ってついて来いでいいじゃねえか」


「うーーーーわ、今時そんな事言うなんて信じらんない。やっぱりあんた最低、ううん男って最低」


「男ってって、いや、まあそれは謝るよ」


「ふん、どうせ口だけでしょ」


「……それで、どうする?」


「どうするもこうするも行くしか無いでしょ?」


「いや、俺達……付き合うの?」


「…………そうよ……1年間変更は出来ない……私はどうしてもこのシステムを使うしか無いの……だから……利用停止は困る……の」

 月夜野は俺を真剣な顔で見つめる。いつもの人を食った様な顔ではなく、真剣な顔に……そしてその顔はまるで……天使の……俺の理想の女の子の様な顔だった。


「…………わかったよ」


 こうして俺達の1年間限定の付き合いが始まった。

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