第8話 俺の家俺の部屋
今日は待ちに待った親への紹介イベント、いや、待ちに待ってるのはうちの両親だけど……。
まあ、あいつの、あの態度でうちの両親も色々と冷めるんだろう……と思っていた。
「初めましてお義父様お義母さま、この度、瞬君とお付き合いをさせて頂く事になりました
彼女は俺の隣で深々とお辞儀をした。
「ま、まあまあ、ご丁寧に、ほらお父さんも呆けてないで」
「お、お義父様……も、もう一回言って」
スパン! と母さんが父さんの頭を後ろから叩き二人揃って深々とお辞儀をする……なんだこれ?
「写真で見たけど、実物はもっと可愛くて、もう息子には勿体ないわ」
「いいえとんでもありません、私なんて、お母様こそ物凄くお若くて、お姉さまかと思いました。あ、すみませんこれつまらない物ですが」
そう謙遜しながらお土産を母さんに渡す月夜野…………だよね? こいつ本当に月夜野だよね?
長い髪をアップにして白いブラウスに薄いピンクのカーディガン、紺色のロングスカート姿、そして深々とお辞儀をした後は背筋をピンと伸ばしてソファーに座っている……完全にどこかのお嬢様なんだけど、誰だこいつ……。
「まあ~~良い娘ねえ~~あらやだ、私ったらお茶も出さないで、ちょっと待っててね」
「あ、いいえ全然、お構い無く」
「あ、か、母さん、私もちょっと」
「もう、お父さんは瑠ちゃんの相手をしていてください」
「む、むりいいい」
そう言うと二人揃ってリビングを出ていく。なんか父さん情けないぞ。
二人が居なくなっても姿勢と笑顔を崩さない月夜野……なんか……すげえなこいつ……。
「悪いな……気を使わせて」
俺がそう言った瞬間笑顔から一転いつもの、可愛いけど可愛いげのない表情に戻った。
「ふん……それくらいの常識は踏まえているわよ」
「そか……」
「何よ?」
「いや何でも」
そう言って俺は苦笑した。
「気持ちわる!」
彼女はふんと横を向く、いや、こいつも可愛い所あるんだなって思っただけ……。
「お待たせ~~」
暫く無言で座っていると再び父さんと母さんがお茶を持ってリビングに入ってくる。
勿論彼女は直ぐに表情を笑顔に戻した。
そして1時間……ペチャクチャと母さんが一人で喋り続ける。俺の出生から幼稚園の時の話、そして小学校の時と延々話す……さすがの月夜野も笑顔が崩れかけて来た。
「あ、母さん、そろそろその辺で、月……る、瑠ちゃん、俺の部屋見る?」
「あ、う、うんそうだね、あ、お義母様、お話出来て嬉しかったです」
「ううん良いのよ、あ、お夕飯食べていく?」
「いえ、今日は家で用意して貰っているので、瞬君と次のデートのお話だけして帰ります」
「次! 次があるなんて……ああ、良かったねえ瞬、システム利用して、お前なんかでも次があるなんてねえ」
ハンカチを取り出し涙を拭う母さん、俺の事どんだけモテないって思ってるんだ? いや、モテないけどさ……。
「うっせ、ほら行こう」
「あ、うん……」
リビング後にし月夜野を俺の部屋に連れていく。とりあえず母さんには俺の趣味とかは言うなって口止めしておいた。しかしあの調子で喋られたら中学の辺りで俺のオタ趣味が暴露される可能性もあったので無理にでも打ち切った……とりあえず俺グッジョブ!。
階段を上ると部屋の手前で聞かれないのを安心したのか月夜野が俺の後ろで大きなため息をついた。
「はああああ、あんたの部屋に入るとか最悪、息って何秒止められるのかしら」
「……何秒でも止めてくれ」
「それで私が失神したあとに変な事するんでしょ、あーー怖い怖い、本当男って怖いわ」
「しねえよ、自分から言っておいて俺を陥れるのは止めてくれ、ほらどうする入るのか?」
「いいわよ、入るわよ……すうううううううううううう」
「本気で息止める気かよ……」
思いっきり息を吸い込む動作をする月夜野、全く何処まで冗談かわからない。
俺は構わずに部屋の扉を開けた。
片付けは3日かけて念入りに行った。ヤバい物は全て隠してある。勿論安易には見つからない場所だ。
「へえ……綺麗な部屋じゃない」
「そ、そうか」
「ええ、綺麗過ぎて不自然なくらいよねえ」
俺の横から顔だけで部屋を覗きこむ……なんだよこれは、とりあえず入るのか入らないのかはっきりしてくれ……あとあまりジロジロ見るな。
「……そ、そうか……なあ……」
「ほら例えばそこの本棚、スカスカよねえ、あとそこの棚も何も無いし」
「…………そ、そうかあ……なあぁ……」
同人誌とコスプレ、声優関係の本は全て片付けた、らのべと漫画は数を減らし有名作品だけそのまま残した。空いたスペースに参考書と両親の部屋から借りてきた新書を並べておいたが、それでも本棚はスカスカだ。そしてベットサイドの棚、それほど多くないけどフィギュアが並べてあったが全て押し入れの奥にしまいこんだ。その為に今は何も置かれていない。
「どこに隠したのかしらねえ……貴方の性癖がわかる本達は……ね」
「せ!」
「まあ、知りたくも無いけどねえ~~」
ニヤリと笑う月夜野……くっそおお、俺も反撃してやりたい……まさかこいつそれをさせない為に親の都合とか言って断ったのか!?
「あのさ……とりあえず中に入って座って話さないか?」
イライラする気持ちを抑え、月夜野を部屋の中に誘う。座って話せる様に普段は置いてない座卓を物置から用意して、座布団も2つ並べておいた。
「あはははは、友達居ない癖に座布団2つとかうける」
「うるせえよ! いるわ!!」
「ああ! もう大きな声は止めてって言ってるでしょ」
くっそお……なんでこいつはいつもこうなんだ? 毎度毎度イライラする……。
月夜野は恐々部屋に入ると、座布団を何度かはたきゆっくりと座った。
「ほら座ったわよ……それで次回のデートの場所は来た?」
「え? あ、いや、まだ……あ、来てた」
気を取り直し俺も座布団に腰をかけながら、スマホ画面を覗くといつものメールが届いていた。
「あ、本当…………え!」
月夜野も自分のスマホでメールを確認すると、何か驚いた表情に変わる。
「ん? どうした?」
「ううん……えっとまた変な所ねえ、い、池袋……な、なんでかしら」
「池袋…………おかしいなあ? なんで池袋なんだ?」
「さ、さあ? 二人の共通点……って事だから何かあるのかしら…………そ、そういえばあんたの趣味とか聞いてなかったわねえ、この先長いし聞いてあげてもいいわよ?」
「え!」
「な、なんで驚くの?」
「い、いや、……特にないかなあ? ど、読書?」
「……へええ……趣味読書とか本当に面白くない男ねえ」
呆れ顔でそういう月夜野……って言うかオタク趣味とかこいつにバレたら……もう何も言い返せなくなる……それだけは絶対に避けなければ。
「そ、そういう月夜野はどんな高尚なご趣味をお持ちなんだよ?」
「わ! 私? え、えっと…………そ、そう、私も読書よ、奇遇ねえ」
「あのなあ、人に面白くないって言ってそれかよ」
「女子は良いのよ女子は!」
どんな基準だよ、同じじゃねえか……もういいや、こいつと話しててもイライラするだけだ。
「じゃあ次は本屋でブラブラするか? 東口に大きな本屋があったよなあ?」
「ひ、東口!!」
「いや……なんで東口でびっくりするんだ?」
「な、なんでも無いわ、そうね、あったわね大きい本屋が、サンシャインの方には行かないって事よね?」
「サンシャイン? ああ、確か水族館とかあったな……なんならそっちするか? 割引とかあるだろう」
俺はシステムの案内メールから各施設の割引率が見れるサイトにアクセスしようとした。
「いい、いいの、私も丁度本屋さんとか行きたかったし、本屋さんいいね」
月夜野は指でいいねサインをする。なんだその誤魔化し方は?
何か変だけど、まあこいつは俺に対してはいつも変だし。
「なんか適当だなあ……まあいいか、それでなんだけど、最近毎週会ってるけどさあ、俺達喫茶店でお茶を濁すとか言ってなかったっけ?」
「ああ、言ってたわね、貴方との会話なんて殆ど覚えてないけど」
「一々茶々を入れないと気が済まないのか?」
「それで? 何が言いたいの?」
俺は毎週デートする必要は無い事を月夜野に告げた。調べるとやはりシステム利用者の多くが住んでいる場所が遠く、中には月1なんてカップルもいるらしい……俺達は学校帰りに二人で会う事も出来る。何も毎週一緒に出掛ける必要は無いのではないか? そう月夜野に告げると少しの考慮の末に彼女も同意してくれた。
とりあえず俺達は今後、テスト期間や学校の行事の場合を除き、週末のデートは月2回、学校帰り喫茶店等でその名の通りお茶を濁す事を週1で行う事にした。
「じゃ、じゃあ次のデートは2週間後ね、放課後はどうせ隣の席なんだから、何かしら伝えると言うことでいいわね? って決まったって事で私はこの辺でおいとまするわ」
「え? あ、ああうん、じゃあそこまで送るよ」
「いい、いいの、大丈夫……いえ、あんたなんかに送って貰ったらそっちの方が危険だからいの!」
「なんだそれ、じゃあ玄関迄な」
「あ、うん……じゃあそれで」
なんだか急に慌て始めたけど……一体なんなんだ?
俺は家の外まで月夜野を見送った……その後ろ姿を見て思う。
「やっぱり何か慌ててるなあ……なんだろうか?」
あんなに慌てる月夜野を俺は今まで見た事がなかった……。
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