第7話 初デート その1 待ち合わせ

 璃月とナックへ行った次の日は、1日お姉ちゃんの遊び相手になってあげた。そんなこんなで夜が明けた今日は待ちに待った初デート当日だった。

 そわそわし過ぎた僕は6時に目が醒めてしまった。

 集合時間は13時なので、まだまだ時間がある。そわそわしているからなのか、妙に時間の進み具合が遅く感じた。

 頑張って10時まで家で過ごしたが、遂には我慢の限界に達した僕は2時間近く前だとわかっていながら家を出発した。

 その時に、お姉ちゃんからどこに行くのか、ついて行ってもいいのか、色々と訊かれたが、どうにか振り切って待ち合わせ場所の双ヶ丘十海里駅にやってきていた。

 この駅は路線が1本しかない小さな無人駅。上り行、下り行、それぞれ6~10分程度の間隔で交互に訪れるそんな駅になっている。

 片隅市の遊び場である片隅駅。水族館や観光名所である江トノ島などがある江トノ島駅。この電車は小さいながらここに住む人たちの交通手段となっている。

 ベンチに座り、どう待ち人が来るまでの時間――約2時間を過ごそうか考える。

 双ヶ丘十海里駅周辺には、とにかく何もない。

 あって僕たちの通っている学校で、ひねり出して海くらい。とはいえ、海があるからと言って5月には入らないし、1人で遊ぶ勇気など僕にはなかった。

 再び家の方へと戻ることになるが、ナックにでも行こうか迷い始めたそんな時。


「君、待ち合わせにはまだはやいと思うけど?」


 大好きな声が僕へと呼びかける。

 振り向くとそこには案の定、アホ毛がぴょこんとしている璃月の姿があった。

 僕はブーメラン過ぎる彼女にツッコミを入れようとした。けれど、それは残念なことにできなかった。理由は単純で彼女に見惚れてしまった為だった。

 白のフリル付きブラウスの首元には、リボンがワンポイントに付けられている。

 裾が少し吊り上がっている紺のコルセットスカートに、ニーソックス。それらが織りなす絶対領域は本当に最高だった。

 肩には斜めがけにかけられているポシェット。谷間にベルト部分が挟まり、大きさを強調している。ポシェットがいい働きをしていた。ぶっちゃけ、場所を代わりたいまであった。

 ようするに、彼女の格好は『童貞を殺す服』てやつだった。

 璃月は僕を上目使いで見つめると言う。


「君は好き嫌いがないから、服選ぶの難しかった。だけど、この『鳴瑠くんどうていを殺す服』ならおーるおーけーかなと思いまして・・・・君を殺しにきたよ」


 一部ルビに対しツッコミたいところがあったけど、そんなことはどうてもよかった。いろいろと考えて選んでくれたことが何よりも嬉しいかったからだ。

 たとえ、一周回って言っていることがヤンデレと化していてもだ。


「いや、璃月ならヤンデレもいいかもしれない」

「ひどいいいよーだなー」

「でも、すんごく似合ってて、可愛いよ」

「ありがと。(童貞殺しの服で童貞の)君を殺しにきたかいがあった」

「服は可愛いけど、うん。とりあえず、言葉選びは気をつけようか。意味はわかるけど、言ってることがすごく物騒で、そこだけは可愛くないからさ」

「えー、そっか。うん、仕方がないなー。気を付けたあげる。でもさ――」

「なに?」

「――あと少しで、この服を着ても君を殺せなくなっちゃうかもしれないし。今のうちにいっぱいメロメロにして殺しておこうかなー、なんて思っている私もいるの」

「うーん・・・・ん?」


 理解が及ばなかった。なので、ちょっと考えることにする。

 璃月はいわゆる『童貞を殺す服』を着れば今は僕を殺せるけど、もう少しで殺せなくなってしまう。それって・・・・1つしか意味ないよね?


「どしたの?」

「えーと、璃月さん。もう少し詳しくお聞かせ願えないでしょうか」

「・・・・」


 黙る璃月。

 それからそっぽを向くと、


「やだ。自分で考えて。鳴瑠くんのえっち」


 と言って、僕の手を握ってくる。とりあえず僕は手を握り返すことにした。

 『童貞を殺す服』で僕が殺せなくなる。

 ――それってつまり、僕の童貞卒業も近いってこと・・・・・?

 もしそうならそれを言った璃月の方がえっちな子なんじゃないのかな。

 そう思いつつも言わないでおくことにした。

 これが僕たちの初デートの始まり。

 僕はとりあえず、今のうちにいっぱい殺されておこう。

 そんな物騒なことを思っていた。

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