7章

第61話 愛してるゲーム

 9月の上旬のこと。

 夏休みが終わってから数日たったこともあり、学校中に蔓延していた夏休みロスもなくなり、普通の学校生活の空気に着実に戻ってゆく。

 そんなある日の休み時間のこと。

 プレゼントした髪飾りを身に着けた璃月がてとてとこっちにやってくると、


「鳴瑠くん、鳴瑠くん、ゲームしよ、ゲーム‼」


 と、提案してくる。

 彼女の誘いにおいて僕に断るという選択肢はなかった。

 それにゲームなら楽しそうだしやってみたい。というわけで、


「いいけど、どんなゲーム?」

「私たちにぴったりなゲームだよ。それはね、愛してるってお互いに言い続けるゲーム――愛してるゲームってやつ。やろー」


 それって普段となんら変わんなくないかな?

 よくよく考えてほしい。僕と璃月って、けっこうな確率で『好き』『大好き』『愛してる』『しゅき』なんていうところの好意を伝え合っているわけだし。

 やってみたい気持ちがあるのでその思いはおいておく。

 でも、これってどうやって勝敗を決めるのかな。

 僕の疑問に璃月は答えてくれる。


「見つめ合って照れたほうが負けってルールらしいよ」

「相手を照れさせるゲーム・・・・・やばい、めっちゃ璃月を照れさせたい。絶対、可愛いじゃん‼」

「すんごくやる気になったね」

「当たり前じゃん。恥かしがってる璃月が見れるとか、興奮するじゃん」

「えっち」


 むっつりスケベな璃月に罵倒される僕。

 まぁ、今回の彼女の提案はけっこう健全な内容だし、そんな野暮なツッコミはしないでおくことにした。本人も気にしているところだし。

 彼女自身が変態性を隠せているかと訊かれたら、完全に隠せてないけど。


「そーそー鳴瑠くん。ただゲームをするのも面白くないし何かをかけようよ」

「かけるかぁー例えば、なにを?」

「決まってるよ、私が勝ったらナーくんの貞操1日自由権がほしいの♡」

「あー、ここでそうゆうこと言っちゃうかー。このむっつ璃月」

「だ、誰がむっつりつきなのぉ!?人のお名前でそうゆーあだ名付けるのはいじめの始まりなんだからね‼」

「ごめん、それは悪いとは思ってるよ」

「ほんとにー?」

「あとね、この愛してるゲームは闇のゲームだってわかった」

「大切で大好きな彼女に貞操をあけ渡すのがそんなに嫌なのぉ!?」

「デスゲーム呼ばわりしてないだけマシかと思うんだけど」

「私とのイチャイチャをかけたゲームをデスゲームって言われたら泣いてたよ‼」


 よくよく考えてほしい。

 初めてでぶっ続けの6時間だよ?

 丸1日の間、璃月に貞操をあけ渡したら、僕がどうなるかわからないじゃん。

 そう思いつつも、このゲームから降りるという選択肢はできなかった。だって、璃月とゲームしたいじゃん。

 それに、もし負けたとしても、気持ちいことが待ってるというポジティブな考えも出来なくはないしさ・・・・。末期だった。


「とりあえず、罰ゲ・・・・・勝った時の報酬はさておいてさ」

「罰ゲームってゆおーとした‼」


 璃月は指をさしてわーわー言う。

 その指をくわえちゃおうかな、とか思いつつ僕は全力でなかったことにする。


「気のせいだよ。とりあえず、ゲームしたいんだよね?」

「・・・・・うん」


 そんなわけで、ゲームを開始することになった。

 開始から約2分少々、僕たちは互いに「「むー」」と唸るだけで愛を囁かない。それぞれ相手の出方を見ている状況が続く。

 僕的には、このまま見つめ合っていてもいいのだが、それではゲームとしてなりたたない。そもそも僕には璃月を照れさせる必勝法がある――それは、


「愛してるよ。ぎゅーってしてほしいな、璃月お姉ちゃん‼」

「あう♡」


 びくっと身体を震わせ、嬉しそうにニヤニヤする璃月。

 このとき、教室中が静かになったのは想像に難くない。だが、僕は命がかかっているのでなりふりかまっている余裕はない。


「さっきのはずるだよぉー」

「璃月の性癖を巧みに利用しただけだよ」

「性癖じゃないもん。ちょっと、お姉ちゃん呼びされるのが好きなだけだもん」

「それを性癖と言うんだと思うだよね」

「で、ナーくん。勝負は私の負けだけどさ」

「ん?」

「もうお姉ちゃん呼びはしてくれないの?」

「・・・・」

「残念な子を見るような眼で、お姉ちゃんを見ないでよー‼」

「えーと・・・・・それは後で2人の時に、で」


 まんざらでもない僕だった。

 それを聞いて突然、璃月は僕に抱き着くと囁くように告げる。


「ナーくん。しゅき♡」


 僕は最初から耳が弱い。しかも先日、璃月に開発されているために、性感帯と呼べるほどまでに敏感になってしまっていた。

 そのため、


「あ、んううぅ~」

「ナーくんも負けでいいよね」

「たしかに、照れたけど・・・・・――まぁいいや、負けでいいよ」


 僕を照れさせたことが嬉しかったのか、はたまたお姉ちゃん呼びがよかったのか。たぶんどっちもだと思うけど、璃月はえへへーとデレデレした顔。

 それを見て負けてもいいかな、と思ってしまった。


「あれ、でもそうしたらかけはどーなるの?」

「決まってるよ。それぞれのかけたものを手に入れるってことにしよー」

「え、それってつまり・・・・・」

「ナーくんの貞操は1日、私のもの♡」

「・・・・」


 僕のかけで手に入れたので、せめて半日は取り返せないかな・・・・・。

 そう思って聞いてみたけど、まぁ無理だった。

 とりあえず、璃月から何をもらうか、決めておこうと思ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る