第102話 正月その2 振袖とカメラと撮影会
――パシャパシャパシャ。
振袖に身を包んだ僕は、カメラのフラッシュを四方から浴びている。
どうしてこんな状況になったかといえば、謝罪会見とか、璃月との結婚会見というわけではない。後者に至ってはしてみたいけど、僕たちは有名人ではないからすることはないはずだ。ひっそりと2人きりで幸せになっていこうと思います、はい。
・・・・。
・・・・。・・・・ひっそりと2人で幸せになる、か。
これ、すんごく響きのいい言葉じゃない?
自分で言っておいて、考え深くなるというか、自画自賛をする僕がいた。
脱線に脱線を重ねてしまったので、ここで本筋に戻さなきゃ。
そんなわけで、僕がどうして写真を撮られているのかについての話に戻すこと。
どうしてこうなったかと言えば――。
「鳴瑠。こっちに視線ちょうだい」と僕の母。
その声に思考を遮られてしまった。とりあえず、続きを話したいところだけど、無視をするわけにもいかずに、むすっとしながらも視線を送っておく。
ここで何の反応も見せずにモノローグを続けてしまえば、お年玉の減額化が行われる可能性がある。危険を冒してまでモノローグを続けるのは得策ではない。
とはいえだ。
それがわかっていながらも思ってしまう。
モノローグを邪魔するのが、親のやることなのか‼、と。
あーあ、お年玉さえ貰ってしまえば、文句も言えるのになー。
現金な僕がいた。
子どもはね、お年玉の前では大人しくなっちゃうものなの。
みんな、そーなの。
何とも情けないことを思う僕は、お母さんに数枚パシャパシャされる。
撮り終えるとようやく解放されて、モノローグを再開できることに。
ふぃー、それじゃ、ここまでの経緯を話そうかな。
どうしてこうなったかと言えば――。
「今度はこっちにお願い。鳴瑠ちゃん」と今度は璃月のお母さん。
その声に思考が遮られて、またもやモノローグができなくされる。苦笑いを浮かべつつも、
仕方がないの。
僕って璃月と結婚するわけでさ。ここで無視をして関係が悪化してしまえば、璃月との幸せな結婚は遠のいてしまうわけで・・・・。今後のことも考えて、ここでヒドイ対応なんてできない。むしろ、少しくらいはサービスしてもいいレベル。
お金で動いたり、えこひーきしたりだとか。
なんだかクズなことをしているような気も、しなくはない。
一瞬、そんなことを思ってしまうが、僕は見て見ぬふりをしておくことにする。
何て考えていると、璃月のお母さんは満足したのか、撮り終えた。
これでようやく自分のモノローグの続きができるね。
そんなわけで、続きを話そうか。
どうしてこうなったかと言えば――。
「ナーくん、こっちにも‼」と璃月(大好き)。
2度あることは、3度ある。
そう言われるように、3度目のモノローグの邪魔をされたわけなのだが、今回ばかりは僕の気持ちは違っていた。だって、あの璃月が声をかけてくれたんだよ?
こんなの、こんなの・・・・、こんなのッ‼
モノローグなんて、やってる場合じゃないよね‼‼‼‼‼
もはや、モノローグをやめるまであった。
自然と笑顔になってしまう。
そんな僕を璃月は写真におさめはじめた。
パシャパシャパシャ。
三角座りをしてみたり、袖を掴んで両手をあげてみたり、背中を向いて顔だけ振り返ったり、頬に両手を添えてみたり――璃月に撮られるたびにポーズを変えてゆく。
思う限りの彼女好みの可愛いポーズをすると、璃月も喜んでくれて僕を「可愛いよ」「世界一だよ」「いや、宇宙一だよ」「ううん、私一だよ(これ、1番嬉しい)」なんてプロのカメラマンばりに褒めてくれる。
もー、こんなのノリノリになるしかないよぉ。
ウィンクのサービスもしちゃおうかなっ(した)。
璃月が「きゃー、可愛いぃぃぃ」と可愛くはしゃぎ始める。
もーね、璃月のお部屋に行って、今着てる着物を少しずつ脱いでゆくサービスもしちゃおうかしら。えっちなDVDぽい感じに思考がシフトし始める僕がいた。
アホな方向に思考がシフトする中、ぶーぶー文句を言い始める母親2人と、まだ撮影順が来ていないお姉ちゃん。どうやら、僕が璃月だけ特別扱いして、笑顔だったり、ポーズを取ったり、撮影時間が長いことが不満のよう。
うん、改めて字にすると、えこひーき感は否めない。
とはいえ、相手は璃月だよ?
僕の大好きな人だよ?
特別扱いしても当然だよね。
そんなわけで、ここまできたらさらに開き直ってしまうことにしよう。
ちょっと、璃月とえっちな撮影会をしてこようかな、えへへ。
なんて思うもさすがに、そんなことを親に言えない。言えたら鋼のメンタル過ぎるし、これからどんな顔をして会えばいいのかはわからない。そんなわけで、えっちな撮影会はお預け(やらないわけじゃない)。特別扱いもこれくらいにしとく。
そんな時、璃月とチラっと目が合い、アホ毛式モールス信号で僕に伝えてくる。
「(えっちななのはまた今度しよ、ね)」
「(うん‼)」
「(だから今は我慢しよ)」
「(それじゃ、璃月。その時は僕をえっちく脱がしてね‼)」
「(もちろんいーよ。えへへ、はやく脱がせたい)」
璃月とのえっちな予定を立てることに成功した。
とりあえず、ここは大人しく引き下がることにしましょうかね。
僕と璃月が人外なコミュニケーションをしているとは思っていない母親2人。それとは対照的にお姉ちゃんは怪しんでいるような気もするが気にしないでおく。
何はともあれ、璃月との撮影会も終わり、たいした理由ではないのに引き延ばしになってしまった『どうして撮影会が開かれているのか』の理由について語れる時がきた。ここまで長かったな。幾度となく邪魔をされたな、まったく(璃月はそこにカウントしない)。1つため息をついて、僕は心の中で語る。
どうして僕が『振袖』を着て、写真を撮られているのかと言えば――、
「なーくん、次はいろはの番‼」
――、璃月の家にやってきた僕の家族。その流れで初詣に行こうという運びになったのだが、そこで振袖を着ることとなった。着付けの際に璃月の策略にハマり、僕は女性ものの振袖を着ることとなり、気が付いたらこんな撮影会になったと言うわけ。
もうね、七五三とか、小中の入学式やら卒業式やらなんかよりも、写真を撮られてるね。お母さんなんて「どーしてもっと早く、女装させなかったのかな」なんて嘆いてるし。嘆きたいのは僕の方だよ、ほんとに(心の叫び)‼
親に見られるのって、なんだか恥かしい。
だけど、それが――、いや、やっぱりキツイよ‼
いくら変態でも無理だった。
羞恥心で興奮するのは、璃月とのやりとりだけの僕である。
ともあれ、久々の『ルナ』の恰好。
うん、落ち着くまであるな。
可愛い恰好が好きになってきているし、何よりルナになるとウィッグを使いアホ毛を璃月に作ってもらえる。好きな子に好きなものを作ってもらえることが何よりも嬉しい。えへへー、アホ毛がついてると思い出しただけで頬が緩んじゃう。
アホ毛、ぴょこぴょこ動かしちゃおうかなー(動かした)。
ちなみに、両家の父親たちはリビングの隅っこの方でゲームをしていて、この撮影会には参加はしていない。本当にそれだけは救い。父親の撮影会参加はキツイよー。もしも参加されてたら、洗濯物を別にしてもらうことくらいしちゃうんだから‼
心まで女の子ぽくなっちゃう。あ、でも何かそれは可哀想・・・・。心が痛んできた僕は「ごめん」と心の中でお父さんに謝って罪悪感を減らしておく。
そんな僕に、お姉ちゃんが話しかけてくる。
「いろはのこと、無視しないでよ。いろはもね、カメラマンごっこするんだから」
「みんな、カメラマンごっこしてたわけじゃないと思うけど」
「いいの。そしてね、誰よりもいい写真を撮ってみせてあげるんだから」
豪語するお姉ちゃん。
僕の笑顔を最大限に引き出せるカメラマンとか璃月しかいないよ?
あんまり舐めてるとね、こちょこちょして笑かしちゃうんだからね。
璃月至上主義な僕は、心の中で可愛い脅しをしちゃう。
そんな僕を気にする様子もなく、躍起になっているお姉ちゃんはパタパタ走って離れてゆき、距離を取るとレンズを覗き込む。それから「うーん」と唸り始めた。
撮ろうとしない。
それはそうだろう。
だって、お姉ちゃんに1番いい写真を撮らせない為に、全然笑ってないもん‼
ヒドイ弟がここにはいた。
だが、僕のたくらみに負けないお姉ちゃん。
何かひらめいたのか「ピコーン」と音がしたように、カメラから顔を上げた。
そして、口を開く。
何か注文を付けるよう。
だが、僕が言うことを聞かなければいいだけのこと‼
勝ったな。
何がかは知らないけど。
お姉ちゃんは、僕に――何かいうかと思えば、璃月に向かってい言う。
「折角だし、璃月ちゃんも写ったら」
「え、私も?」
話しがフラれていると思っていなかったのか、璃月は驚きをあらわにする。
かまわずお姉ちゃんは続けた。
「うん。そっちの方が鳴瑠くんはいい写真が撮れると思うの」
「うーん、たしかに」
納得したようで、璃月はすぐに行動に移し、僕の隣にやってくる。
それから人目というか、親目も気にせず腕に抱き着いてきた。
にゃぁぁぁぁ、璃月だぁぁぁぁ‼
腕に当たる璃月のおっぱいの感触、璃月が近づいてきたことにより彼女の甘い香りが鼻腔をくすぐり、何より璃月が隣に来てくれたことで笑顔になってしまう。
お姉ちゃんめ、無理矢理、僕を笑顔にしてくるなんてやるなぁ。
何より、璃月と一緒に写真を撮ることを提案してくれてありがと‼
本音が出てしまった僕。
まだ写真を撮っていないが、これは認める他ないだろう。
今日1番の写真は、これから撮るお姉ちゃんの写真になるはずだ、と。
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