第78話 風邪 璃月の場合
璃月の看病のおかげか、次の日にはすっかり元気になっていた。
あまりの元気の良さに、先生が出席をとっている時間に名前を呼ばれたら「はい、元気です‼」なんてウケを狙おうとしてスベること間違いないネタをやりそうなくらいだった。アレは一体、どこに笑える要素があるのか謎。
とはいえ、元気になったのは体調だけ。心は元気ではない。
また、そのネタをやろうとしても、朝のホームルームが始まる時間はとうに過ぎていてもう終わっている。そもそも学校にすらいない。いまだに登校中の身だった。
やる気というか心に元気がないためか足取り重く、家から学校まで徒歩10分の距離なのに40分程度かけて歩いてしまっている。
言ってしまえば遅刻。違う違う。これは満員電車を避けるために、他の生徒たちと登校時間をズラす時差出勤ならぬ時差登校をしてるだけ(電車に乗ってない)。断じて遅刻じゃない。
言い訳ですらない、だただたの世迷言を思う僕。
あー、璃月がいないとこんなにも人生ってつまらないんだなー。
・・・・・と、涙が流れぬように、
たしかに僕の身体は元気になった。だが、それは璃月という犠牲があったから成り立っているに過ぎない。人生とは何かを犠牲にしなければいけないと言うのか。
寂しさから、いつも隣にいる彼女の手を握ろうとして、何もつかめずに空振りに終わる。どうやら癖になってしまってるようだ。
癖になってるんだよね・・・・璃月の手を握ろうとするの。
乾いた笑いをこぼす。
体温を、そこにいる証を感じられない為に、先ほどよりも寂しさが増す。彼女に触れられない故にリツキニウムも得られない為、幸福感すらない(危険なものじゃない)。また、体内リツキニウム量もごくわずかになってきていて、このまま死んじゃうのかも・・・・、なんて思ってしまう。
心に、人生において大切な人――璃月がいないためか、めちゃくちゃ暗い気持ちになっていた。気分的には誰か大切な人を犠牲にしてセカイを救った感じに似てる。
まぁ、セカイなんて救ったことないけどね・・・・・。
大げさに言ってみたものの、璃月はちゃんと生きているし、セカイから消えたりなんてことはない。単純に僕の風邪がうつり、熱を出した。そのため、大事をとって家で寝ているというわけだった。
はぁ・・・・璃月。僕が風邪なんかひかなければ、こんなことにはならなかったのに。後悔先に立たず。過去はどうやっても変えることはできない。
そうこうしているうちに、僕は学校に。
とっくに授業は始まっている上に、時差登校(遅刻)をしている身なので、先に担任の先生のもとへとむかわなければならない。
なんで璃月以外の女の人に会いに行かなきゃいけないんだ・・・・。
これ浮気になるかも・・・・。
というわけで、やってきた道をひき返そうとしたとき、担任の先生と目が合う。
うっわ、登校したのばれちゃったよ。って顔をすると、ため息をつかれる。そのまま職員室に連行された。
「どうして僕は、璃月の看病に行かずにここにいるんだろう・・・・・」
先生は悲しそうな顔をして「遅刻して何を言ってるの・・・・」と正論を言ってくる。本当にそれですね。と納得しそうになるけど、思いとどまる。
「あくまで時差登校です」
先生はうわーみたいな顔をして「計画的にやってるとするなら、余計に性質悪いわよ」とまたもや正論。よくよく考えると悪質な行為にしかならないと反省、素直に遅刻をしたことを認めることにした。
当たり前のことだけど、「なぜ遅刻したの?」と訊ねられるわけなんだけど、僕のとる行動はただ1つ。
「そんなことよりも先生」
盛大に話題を逸らすことだった。先生はため息をつきつつも、話を聞いてくれるようで「どうぞ」と促してくる。どうしようもない生徒の話も耳を貸してくれるなんていい先生なのかも。ぶっちゃけ、婚活にしか興味がないものだと思っていたため、評価を改める。そして僕は口を開く。
「璃月のいないところで、先生――女の人と喋って、璃月に浮気とか疑われたりしませんかね?」
答えは沈黙。
2秒、3秒、10秒くらいたって、先生の顔は青ざめ最終的には僕から距離をとると「もしかして私、消される!?」と小さく呟いた。
都合の悪いことをとぼけるために言ってみたものの、この先生は僕の彼女、もとい自分の生徒をなんだと思ってるんだ。呆れた眼差しを送り、いい先生という評価をやめようか迷う。
居心地が悪そうに(でしょうね)先生はむぎゅーと唸った。
「にしても、先生」
何かしら?と眼差しを送ってくる。
そのまま続けることにした。
「いつになったら学校にフレックスタイム制が導入されるんですかね?」
目をまん丸く開けると「されないわよ!?」職員室にとどろく声で言う。
「働き方改革が行われ自由な働き方ができるように少しずつなっている昨今。僕は思うんです。好きな時間に学び、好きな時間に帰ることのできる新たな自由な学び方。学び方改革。学校にもフレックスタイム制を導入するのはどうでしょうか」
先生は「無理でしょ」とか言う。
ぶっちゃけ、僕も先生の意見に同意見。
自分で言っておきながらなに言ってんの?、とか。やってみなきゃわかんないじゃん、とか。言いたいことはあるかもだけど、正直な話、これって通信制にすればいいだけの話だったりするし。
むしろ、全日制でフレックスタイム制なんかにしたら、勉強しなくなる人が増えると思う。根拠は大学生。講義を自主休校にして、飲んだり、パチンコ打ったり、えっちなことしてるからね。ろくに学校に来なくなるからね(あくまで僕調べ)。
僕自身、大学行ったことないから知らないけど。とりあえず最後に「※諸説あります」「※個人差があります」とも記して逃げ道をつくりつつそれはさておく。
ようするに、勉強なんてものは学び方がどうのこうのではなく、意欲があるかないかによって変わると僕は思っている。
そこまで話すと、先生も「おー、珍しく真面目」なんてパチパチ拍手してくる。それから「あれ?それじゃ、これってなんの話しなのかしら?」と疑問符を頭の上に浮かべ始める。
先生の様子を見て、僕は満を持して真意を伝えるときが来たかと悟る。さて言ってやるか。思いのたけの全部を‼
「ようするにです。今日はもう早上がりして帰っていいですか?」
めっちゃ怒られた。
とほほ・・・・。
そんなことがありつつ、僕は現在、椅子に縛られて授業をうけています。
これ、教育委員会に行ったらアウトなやつだよね?
とか思うものの、遅刻した上に、フレックスタイム制という意識高そうな用語を使い早退しようとした負い目があるため、今回は見逃してやることにした。
まぁ、別のやり方で報復はしてやるけどね‼
「これで勝ったと思うなよぉー」
担任の先生の授業中に呟いたために、睨まれてしまう。
そんなこんなで、璃月のいない退屈で語ることすらない学校生活を送って時間を潰す。そして、放課後を待つ。
・・・・♡
放課後。
僕を縛るもの(物理)から解放され、レインを使ってメッセージを送ってみる。
が、一向に返信がくる気配はない。
そもそも朝に送ったメッセージも既読にすらなってはいなかった。・・・・・寂しい。昨日もメッセージを返してもらえてなかったからなおのこと寂しい。
ふと思い出す。
今日、学校を休む連絡も璃月本人ではなく、お母さまの方から来ていたことを。
あれれ。もしかして璃月の容態めちゃくちゃ悪かったりする?
今更ながらにそのことに気づく。
いてもたってもいられなくなってお母さまに電話をかけると、3コール目にガチャリと繋がる。冷静さを失いつつ璃月の容態、連絡がつかない理由を訊ねた。
その結果をまとめると、容態は大したことはないとのこと。そして、連絡がつかない理由はスマホを現在持たせていないかららしい。
とりあえずは安堵のため息をこぼす。
落着きを取り戻した僕は、今の璃月にスマホを持たせてない理由を訊ねてみることにした。で、答えはというと。
璃月が風邪になると、病気時特有の寂しさと、彼女の持つ寂しがり屋さんなところが相まって極度の寂しがり屋となる。そうなった彼女がとる行動は、寂しさを埋めるように数万件にわたり電話やメッセージを人に送りつけるようになるからだそうだ。
なにそれ、めっちゃ可愛いじゃん。
と思いながら僕はニヤニヤ。今から璃月のもとに行くことを伝える。
すると、お母さまはこれから3時間ほど出かける用事があるらしく、僕に璃月の面倒を見てほしいと言ってきた。もちろん、いいに決まってる。
もはや、3時間だけでいいのかって話しだ。
璃月の面倒は一生見る気の僕だ。
だから「何時間でも、何日でも、何年でも、一生でもいいですよ‼」なんて元気に言っちゃう僕にお母さまは嬉しそうに笑ってくれる。
こうしてお母さまに家の中に入る許可をもらった僕は璃月の家にむかう。
何度となく通っているために、迷うことなくたどり着く。朝からずっと来たかった場所だったために、ここに来れたことがすごく嬉しい。
駐車場をみて見ると、車はすでにない。
どうやらお母さまはもう出発したようだった。とはいえ、鍵は開けておいたとのことなので、中へと足を踏むいれることにした。
お邪魔しますと言えばいいのか、ただいまと言えばいいのか、どっちにするか悩みつつも扉を開けて中に。とりあえず鍵を閉めておく。
日が短くなってきたこともあり、家の中は電気を付けなくては暗い。
通い慣れかってを知っている家なので、電気を付けるスイッチの場所も把握済み。そこへと手を伸ばそうとしたとき僕は気づいた。
ゆらゆらと揺れる赤い目がこちらを凝視しつづけていることに。
暗闇に浮かぶ赤い目は、ホラーじみていて、少しばかり・・・・ごめん、見栄張った。めっちゃ怖いよぉ・・・・・りつきぃ。
もしもおばけとかなら「ハロウィンはもう少し先ですよ?ほら、先走り過ぎだから帰った方がいいよ?」って優しく教えてあげなきゃ。あげなきゃいけないのに、あー、あー、発声練習をするのを忘れたためか声がでない(恐怖で声が出ない)。
そもそも、僕自身、怖いのが好きじゃないから、夏休みもその手のイベントは全部回避してきたというのに。いま出てきたら意味ないじゃん‼
どうにかこうにか軽口を交えてみたけど、最終的には本音が出てきちゃう。
怪しく赤く光るそれは、ゆらゆら揺れながらも、確実に僕の方へとやってくる。
あと2メートルくらいという刹那――トゥルルルリーン‼
脳内に響わたる謎の音。
昨日、風邪をひいた代償に覚醒した謎の力――病名:アホ毛超感知能力が発動。僕は無性に「ヤツが、ヤツがくるぅ‼」と言いたくなるのを我慢。とりあえず、正体が〈赤目のアホ毛〉こと、璃月であることを悟った。
正体見たり枯れ尾花。
まさにコレ。
相手が璃月だと思うと、先ほどまでの恐怖なんてどこのその。好きになれるまで出て来たよ。あー、もう好き。好き好き大好き。マジだいしゅき♡
このまま、服を脱ぎ捨て、抱き着いてやろうかと思う僕。まぁ、今日は病み上がりだし、そこまではしないけど。
家の暗さにも目が慣れてきたこともあり〈赤目のアホ毛〉の全貌が見えてくる。
毛布が全身を覆い、赤い目の光がこぼれでている。またワンポイントとして、上の方からはアホ毛がぴょこりと出ててめっちゃ可愛い。もうそのまま抱きしめてアホ毛に頬ずりしたいレベルで可愛い。素敵なワンポイントだった。
靴を脱いで僕は、朝からの寂しさを埋めるように、抱きしめる態勢に。
「璃月。会いたかったよ」
と、声をかける。
「・・・・・」
おかしい。いつになっても、返事はかえってはこない。
ゆらゆらと左右に揺れながら、彼女は僕の目の前にやってきて立ち止まる。
そこで違和感を覚える。
たしかに、アホ毛は璃月のだ。だが今の璃月のアホ毛からは彼女の意思を全くと言っていいほどに感じてこない(健康になったはずだけど、病気かも)。
覚醒した力をまだ僕自身が使いこなせていないだけ?
否、そんなことはない(段々と自分でも何がなんだかわからなくなってきた)。
と、いうことは・・・・多分、璃月。寝ぼけてるな。
そう結論づける。
だとすると、無意識の中、僕を察知してここまできたってことか。
人外離れしたことをやってのける彼女を見て、僕は笑みを浮かべてしまう。とりあえずは無意識ながら僕のところに来てくれたのがとっても嬉しい。
それから不規則な揺れ方をしている璃月は、くるまっていた毛布を目いっぱい広げると、僕のことを毛布の中へと飲み込むように抱き込む。
あー、璃月に捕食されちゃったぁ♡
とりあえず、僕は草食系男子の極限系を生きているので、食べられることを喜ばしく思いつつ、気絶しておくことにした。
次に目を醒ましたとき、瞼を開けているのか閉じているのかわからない程度には暗い場所に寝かされている。寝心地から璃月のベットだろう。
何度か寝たことのある感触だから、僕、わかる。
上体を起こそうとしてもそれは叶わない。
何かが身体の上に乗っかっている為だ。重さ的には46キロくらい。自身のお腹にあたる柔らかな2つの膨らみの感触。温かさ、匂いから察するに璃月。
スースーと可愛い寝息を立てている。とりあえず、抱きしめておくことにした。
肌に触れた感触、ダイレクトに伝わる人肌。
これらから推察するに、僕は制服を脱がされ、全裸でいることを悟る。
彼女も寝るときは全裸派なわけで、全裸なのは間違いない。風邪の時くらいは服を着ないさい、と心の中だけで思っておく。現状を理解。そして、思う。
・・・・やばい、めっちゃ興奮してきた。
仕方なくない?
全裸で抱き合いつつ、同じ毛布の中にいるんだよ?
ここは一旦、落ち着こう。深呼吸がいいかな。すーはー。
余計に興奮する僕。
仕方なくない?
ここは璃月の毛布の中なんだよ?
璃月の匂いでいっぱいなわけで。そんな場所で深呼吸なんてしたら、興奮しないわけない。まさに悪手。してよかった思える悪手‼
無意識ながら璃月を抱く力が強くなってしまう。それに反応した璃月はもぞもぞと動いて、僕の身体に自身の身体を擦りつけてくる。
う、ううぅぅ・・・・気持ちがいいよぉ。あんまり擦らないでぇ・・・。
とはいえ、どんなに興奮したからと言って、どんなにえっちな気持ちが湧き出てきたからと言って、寝込みを襲うようなことはしたくない。
それは襲われても、服を脱がされていても変わりない僕のラバーズプライドってやつだ。なにより、
「むにゃ、にゃーくぅん、しゅきー♡」
なんて言いながら、僕の身体を抱き枕にする彼女が可愛すぎて、寝込みを襲うなんて鬼畜になれるはずもない。そもそもこの子は病人だ。
どんなに寝ぼけて僕の乳首を舐め始めているとしてもだ・・・・・うぅぅ、気持ちいよぉ。りつきぃ、ダメぇ。ダメぇになるよぉ~。
「さすがにこれは擁護できない・・・・・寝ぼけ方も璃月はえっちだな」
「ん、んんー、にゃーくんの声がしたきがしたぁ?」
目元をこしこし擦りながら璃月は目を醒ます。どうやら僕の声に反応したようだ。どんだけ僕のこと好きなの、嬉しい限りだよ。
と、思いながらも、
「起こしちゃったか。ごめんね」
謝る僕。
璃月は自身の身体をもぞもぞさせて、僕の存在を確かめる。
「ん、んー、やっぱりナーくんだ。暗くて見えないけど、この肌の感触、抱き心地に、声もそー。匂いは鼻がつまっててわかんないけど。絶対そー。なにより私のお腹に当たってる固くてえっちぃ感触もナーくんだぁ、しゅき♡、おはよー」
「・・・・・おはよう」
恥かしい。特に最後のが恥ずかしい。口に出さないでぇ・・・・。
とはいえ、目が見えなくても僕とわかるのは流石だ。
「で、なんで鳴瑠くんが私の毛布の中にいるの。襲いに来てくれたのかな‼」
「看病しにきたら、璃月に抱き枕にされたの。あと、寝込みは襲わない」
「え・・・・えっちぃことしてこないの」
「どうしてそこで残念そうなのかな・・・・・されたかったの?」
「・・・・・。・・・・・・。・・・・・。私はえっちくありません」
なんださっきの間は。
間が全てをモノ語っているよ?
あまりイジメるのもよくないので、話を変えることにした。
「体調は平気?」
「うん。鳴瑠くんとくっついてるから、幸せ過ぎて平気、えへへ」
「可愛い」
「突然なにー?」
「言いたいことを言っただけ」
「知ってた」
えへへーと再びだらしくな笑って頬ずりをする璃月。それを受け僕は思う。
ほっぺの柔らかさを静かに楽しむ、これが和の心なんだな。
自分で言ってみてるものの、何を言ってるのか正直わからない。とりあえず最高ってこと。和の良さを改めて感じていたのに、璃月は突然それをやめてしまう。
ほっぺを僕から話すと言った。
「鳴瑠くん。ちょっと離れようか」
「え・・・・・もしかして、僕・・・・寝込みを襲わなかったから嫌われたの?」
「いやいや、その勘違いやめて。私が襲ってほしいすぎるえっちな子みたいじゃん」
そうじゃん。
とはさすがに言えない。
「いやさ、よくよく考えると私ね、汗・・・・いっぱいかいちゃってるの」
「最高じゃん」
「変態」
単語だけってくるものがある。
もちろん、辛い方の意味で。決して嬉しいとかじゃない。
「でも、璃月」
「なに?」
「気づいてないから言うけどね、離してくれないのは璃月の方なんだよね」
今、僕に乗っかっているのは璃月なわけで。
彼女自身が離れなくては、離れることはできない。当たり前のことだった。
「・・・・そーだけど。汗の匂いが気になる私もいるし、離れたくない私がいるの。察してよぉ」
「察しててわざと言わせてる」
「たち悪い」
「そもそも僕は璃月が汗だくでも気にしないよ」
「私はする。あと、気にされないのはそれはそれで嫌」
「ワガママだな。それじゃぁね。汗だくの璃月に興奮する」
「それもそれでちょっと・・・・・」
「じゃ、どうしろと」
「ならね・・・・」
どれを選んでもバットエンドじゃないか‼
璃月は苦笑いをして、うーん、と少し唸る。答えが出たのか璃月は言った。
「なら答えはただ1つ。離れたくないけど、汗は気になる。だったら簡単な話だよ。一緒に・・・・・一緒にお風呂に入ろう」
☆♡
いい湯だな。
向かい合わせで体育座りをする璃月を見てしみじみ思う。
いいのは湯じゃなくて、目の前の光景――璃月に他ならなかった。
「鳴瑠くん。君はどうして私の身体を普通にボディタオルで洗っちゃったのかな」
「僕は一体、何を怒られているのでしょうか?」
「彼女の身体を洗うのって、自分の身体に泡を付けて、身体を相手にこすりつけるように洗うのが一般的だと思うの。もう、これはオコだよ。ぷんぷん」
「えーと、それはごめん。でもこれだけは言わせて。怒ってる理由を言われても、なんで怒られてるのか理解できないよ」
「ふん。逆の立場ならわかるかもね‼」
そう言いながら、「えい‼」とお湯を顔にかけられる。
おっと、璃月が手を動かしたときにおっぱいの全貌が見えたぞ。ちょっ、お湯かけないで。見えないよ。まぁ、お湯をかけられるのも悪くはない。
何はともあれ、僕たちは身体を洗い終わり、汗やら色んなものを流せてスッキリした状態で、湯船に向かい合わせで座っていた。
こうして向かい合わせで座っていると、自分のも相手のもそれぞれ丸見え。恥かしいような嬉しいような。とりあえずえっちな気持ちがまた湧き出てきちゃいそう。
「鳴瑠くん、今日の学校どーだった」
「それはもちろん、璃月がいなかったからつまらなかった」
「そっか」
「うん。おもしろいこともなかったから、担任の先生をからかうことくらいしかやることがなかったレベル」
「それはどーかと思うの。人として、生徒として」
「でも、やり過ぎちゃったからなのかな――」
「うん」
「先生ね、僕を授業に出させるために、縛りあげてきたりしてきたなー」
「はぁ?」
低い声で璃月は、ただただそう相槌を打つ。
そして彼女は続ける。
「鳴瑠くんの心も、身体も縛っていいのは私だけなのに。私がいない間に鳴瑠くんを縛った?・・・・・あとで泣かす。絶対、泣かす」
「璃月のそうゆうとこ・・・・すんごく好き」
これで璃月が元気になったら、報復されること間違いなし。
僕にしたことを後悔することになるだろう。
とか思いながらも。
まぁ、元はと言えば、僕が帰ろうとしたのが悪いんだけどね・・・・。
事実に目を伏せておくことにした。
「にしても・・・・今日あらためて思ったけど。璃月がいないと生活できなくなってるなぁー、僕。学校に通うこともままならないし」
「急にどーしたの。そんなのわかりきったことじゃん」
「はは、そうだね」
「うん。それにそれは私もだよ」
微笑みを向けてくる璃月。
彼女は四つん這いでこちらに歩みよってくる。僕の頬に左手を添えて、僕の瞳を真っ直ぐに見つめてくると呟いた。
「ちゅーしたいな」
「僕も」
「だけど、今、口にしたら鳴瑠くんにうつしちゃって、また風邪ひいちゃうかも」
「正直、僕はまた風邪ひいてもいいかな。璃月が看病してくれるなら」
「バカ鳴瑠くん。2人で完璧に治して、心おきなくした方がいいに決まってる」
「たしかに」
「だから、今はほっぺにしとく」
「それじゃね、僕は普段とは違う、おでこにしよーかな」
「鳴瑠くん。いい案だね」
「でしょ」
「てっきり君のことだから、アホ毛、もしくは、アホ毛の生え際にちゅーするとか言い始めると思ったのに」
「――ッ‼」
「その手が・・・・ううん。その口があったか、みたいな顔しないで。今日はおでこがいい。おでこにして」
「ちゅ――そうした」
「なりゅくぅん。きゃわわ」
前髪をあげてキスをすると璃月は、おっぱいをぷるんぷるん、アホ毛をぶんぶんさせて大喜び。お返しだよ、とばかりにほっぺに数十回に渡ってキスをしてきた。
蕩けた顔をする璃月は興奮気味に言う。
「はぁー、でもやっぱり、口にしたいよぉー。昨日みたいに、べろちゅーしちゃおうかなぁ。我慢できないよぉー」
「・・・・ん?」
「どーしたの?」
小首をかしげる璃月。
さっき「昨日みたいにべろちゅーをしゃおうかなぁ」って言わなかった?
僕は昨日のことを思い出す。どんなに頑張っても最後に軽めのキスをしたのは思い出せるけど、べろちゅーをした記憶はない。
「璃月、昨日・・・・べろちゅーしたっけ?」
「え、あー、うー、どーだったかなぁー」
蕩けた顔などどこへやら、璃月は目を逸らして、僕の下半身を見始める。
おい、視線の逃がし方からえっちさがにじみ出てるよ‼
「璃月。訊ねたいんだけど」
「はい」
「僕が寝たあとに、何をしましたか?」
「・・・・・べろちゅー」
「・・・・・もしかして、それが風邪がうつった1番の原因なのでは」
「・・・・私・・・・ぐす、我慢」
「ん?」
「我慢できなかったの‼」
逆ギレされて開きなおられたんだけど。
昨日、元気な鳴瑠くんがいいからえっちなことしないもん、とか。さっきも風邪がうつるから口ではしない、とか。もっともらしいことを言っていた璃月さんの姿はどこにもなかった。
「要するに璃月は、僕の寝込みを襲った、と」
「う、うぅぅ」
「璃月はえっちぃ」
「えっちくないもん・・・・そもそも鳴瑠くんは嫌なのかな?私に寝込み襲われるの」
「ん?最高に興奮するけど?」
「・・・・鳴瑠くん」
どうして、今度は僕が責められてる視線を送られてるのかな。
尺全としない。
それから璃月は僕に訊ねてきた。
「そもそも、鳴瑠くんはなんで風邪をひいたの?」
「風邪をひいた理由か・・・・」
「もしかして、スカート履いて一緒にデートに行ったからなのかな。もしそうなら・・・・」
申し訳なさそうな顔をして、潤んだ瞳を真っ直ぐに僕へと向ける。
彼女を安心させるように「違うよ」と微笑みを向けて頭を撫でる。そして、1番の理由であろうそれを璃月に伝えることにした。
「僕が風邪をひいた理由はね、将来にむけて璃月と寝る予行練習として全裸で寝てみたんだけど。そしたら、風邪ひいちゃった」
「・・・・・」
「ははは、・・・・はは・・・・璃月?」
「・・・・鳴瑠くん」
諭すような顔をする彼女は呟いた。
「無理せず、お洋服、きよ?」
「うっわ、璃月だけには言われたくなっ‼」
「むぅ、むー」
璃月は可愛くほっぺを膨らませると、可愛いお目目を吊り上げて睨んでくる。睨まれても怖くないな。愛しか芽生えない。もう好き好き大好き。
にやけた顔をしてしまう。
それが気に入らなかったのか、璃月はぷいっとそっぽを向く。
「違う・・・・伝えたいのはそーゆー注意じゃないの」
「ん?」
呟かれた言葉の意図が読めない。
「だからぁ、そのぉ、私と寝るときは抱きしめて温めたあげるからぁ・・・・・だから今は無理せずにお洋服きて寝ていーよってことぉ‼」
「・・・・」
「鳴瑠くん、なんで黙ってるの・・・・黙られるのはちょっと」
「いや、最高に可愛いなーと」
「バカ鳴瑠くん・・・・すき」
「僕も」
とりあえず、璃月と一緒に暮らす日が楽しみで仕方がない僕だった。
あと忘れちゃいけないね。
璃月と寝る時以外は、風邪をひかないように服を着て寝ることにした僕だった。
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