10章
第91話 季節
学園祭が終わって12月。
自身の体温と天然ゆたんぽことお姉ちゃんにより温められたお布団から出るのがとても辛い。これが春まで続くと思うと現実逃避がてら2度寝を決め込みたくなってきてしまうが、ここは我慢する。だって、お布団から出ないと璃月には会えないし。
そうやって璃月に会うことをモチベーションとして、お布団の誘惑というか、誘いというか、ハニートラップというか、何はともあれぬくい世界から脱却する。
どんなに居心地がいい場所にいようと、そこに璃月がいなきゃ意味がない。彼女さえいれば、そこがどんな地獄でも、そこがどんなにお布団がない寒いところでもかまわない。僕がずっと居たい場所は、僕の居場所は璃月の隣しかないんだ‼
と、『最終決戦中に戦うのを諦めかけた主人公が、大切なモノや帰る場所を思い出して再び立ち上がる』的な状況下で気付きそうなことを適当に思う。
個人的にはもっといい場面でそのことに気づきたかったけど、今気づいちゃったから仕方がない。きっと、お布団から出るのってそれくらい大変なことなんだよ。
諦める僕。
よくよく考えてみると、僕は璃月一筋。
そんな僕が言えることは1つ、お布団なんかと浮気なんてしないんだから‼
寒いのを我慢して、お布団から出ることした。
ここまでのお布団から出るだけの話はさておいて。
僕は1階に降りてリビングに向かうと、そこでお母さんの作ってくれた朝ごはんを食べる。それから洗面所に向かって顔を洗って歯を磨く。特にここでの身だしなみチェックは重要。昨日の自分よりも今日の自分を璃月に好きになってもらいたいので、身なりはキッチリしておきたいからだ。
満足したら学校の準備を始める。
一端、自分の部屋に。まだお姉ちゃんは寝てたけど、ほっておく。
制服に袖を通すと、最近買ったばかりのフードの付いた丈が長めのダッフルコートを羽織る。僕自身が小さめなこともあり、萌え袖になっちゃうけど気にしない。それからマフラーをまけば準備が完了する。ちなみに手袋は璃月と手を繋ぐときに邪魔になるから付けない。寒さよりもそっちのが大事だ。
そうこうしているうちに、出発の時間。完璧に寝坊をしているお姉ちゃんに少しだけ声をかけつつ、お母さんに「行ってきます」と伝え家を出た。
ドアをくぐると、当然のことながら家の中とは比べものにならないくらいに寒い。
12月に入ったことで気温はどんどん下がっているし、ここら辺はただでさえ海の近い地域だ。吹き抜ける海風が身体を震わせてしまうほどに体温を奪ってしまう。
身震いする身体を守るようにマフラーを口元までやって防寒対策を強化する。それでもその場しのぎ程度。はやく璃月を抱きしめて暖をとりたくなってきちゃう。
最初のうちはそんな想いと一緒にゆったりてとてと歩いていた僕だったけど、璃月にはやく会いたい気持ちが強くなってゆく。そうなると我慢できずに小走り気味に。
待ち合わせ場所には既に璃月がいて、僕は思わず抱き着いちゃう。だが不意打ちの抱き着きなど彼女には通用しない。僕同様にアホ毛を使い相手の存在に気づくことができる。そのため、彼女は僕を抱きとめてくれた。
抱くのも好きだけど、抱かれるのも好き。
ぎゅーってされるのが心地いい。
「わぁー、急にびっくりしちゃうよ」
たいして驚いてる様子もなく、そんなことを言う。
彼女の声音は弾んでいる。
「璃月のこと、好きすぎて我慢できなかったんだもん」
「もー、なら仕方ないね」
困ってそうなことを言っているが、彼女の顔はいい笑顔。抱き着き甘える僕の頭をよしよしと優しく撫でてくれて、身体は寒いけど温かな気持ちにさせてくれる。
そんな璃月の恰好は、フードの付いた丈の長いベージュのダッフルコートとマフラーといった感じ。デザインは僕の使っているものと同じ。お揃いで買ったものだ。
同じものを着ているとペア感が強く出て、嬉しいものがある。
恰好で違う点をあげるならば、璃月はスカートとタイツを履いてることくらい。
さすがの僕も男の娘フォームではない時に、タイツやスカートを履いたりしないし学校の制服はズボンだし。そんな違いはさておいて。
僕は思うことがあった。
それが何かというと、璃月が全体を通してめっちゃくっちゃに可愛いってこと‼
いつも可愛いけど、今日はもっと可愛くなっていた。
では、各所を見て行こうと思う。
まずはマフラー。巻かれているそれにより、璃月の可愛いセミロングが、モコってなっている部分がある。そこが可愛い。マフモコ可愛い。好き。モコってなってるとこをこの手でモミモミしたい衝動に駆られる。ウソ、抱きしめながら揉んでる。
アホ毛以外にも髪の良さを発見しつつ、次のポイントに。
次にダッフルコートの丈が長すぎて、スカートの裾が見えたり、見えなかったりするあの感じが何か好き。チラリズムっていうのかな。また、スカートが見えない時に、何も履いてないのではないかと淡い期待をさせられて、えへへ、璃月えっちぃ‼
最後にタイツも可愛い。普段のニーソックスとスカートの間に発生する領域こと絶対領域も大好きな僕だけど、それと同じくらいにタイツ姿も魅力的。なんでかはわからないけど、タイツを履いてると落ち着いた印象を見受けられる。彼女の違った魅力を引き出しているような気がして、もういい‼
語彙力が低下していく中で、僕は黙っていることもできなくってきて、
「璃月、ほんと可愛い‼」
ぴょんぴょこ跳ねながら、素直な気持ちを告げる。
「ありがと、鳴瑠くんも可愛いよ」
「璃月のが可愛い」
「それは鳴瑠くんの方が」
なんて挨拶代わりの褒め合いをしつつ、僕たちは学校へと向かう。
何の変哲もない幾度と璃月と歩いた通学路。
手を繋いでブンブン振って歩いてると、ふと思うことがあった。
季節が巡るのが早いもので、もう冬。
璃月と付き合い始めたのが5月上旬のこと。
言うなれば、春のこと。
こうして、冬がやってきたということは、当然のことだけど、秋と夏を経由しているわけで。僕が何を言いたいのかと言えば、フタリでまだ過ごしたことのない季節も今から始まる冬だけなんだなってこと。なんとも考え深いものがあった。
「璃月はどの季節が好き?」
「んー、私はね、春が好きかな」
「どーして?」
「決まってるよ。鳴瑠くんと出逢って、鳴瑠くんの誕生日があるんだもん‼」
その気持ちはよくわかる。
璃月と出逢った春が捨てがたいけど、璃月の誕生日がある冬が大好きだし。
ちなみに彼女の誕生日が12月2日で、今日は12月1日でようは前日にあたる。明日はめいいっぱいお祝いしてあげたい。そんなことを思う僕に璃月は訊ねてくる。
「鳴瑠くんは?」
「僕はね、冬が好き」
「あ、なんでか当てたあげる。私の誕生日があるからだぁー」
「当たりだよ」
「えへへ、ナーくんは私のこと、ほんとに大好きなんだから」
上機嫌になった璃月は、萌え袖から出ている指で、僕のほっぺをムニムニしてくる。それが気持ちいい。あと、萌え袖可愛い。されながら僕は続ける。
「あとはね、」
「え、まだあんの?」
「え、うん」
「私の誕生日以外に理由とかあんの・・・・・」
先ほどまでの上機嫌はどこへやら、絶望しきった顔をする璃月。
嫉妬を超えて、絶望しないで。
「璃月関係だから安心して」
「ほんと?」
「うん」
「きく」
そもそも僕は璃月に人生極振りしているわけで、趣味嗜好に行動理念すべてにおいて璃月が関係しないことなんてありえない。なんて思いながら口を開く。
「えっとね、冬って寒くて少しだけ寂しさがある感じわかる?」
「うん」
「その寂しさが、璃月とぎゅーってしてたり、手を繋いでたりすると和らぐの。温かくて、安心できて、璃月をいつも以上に感じられるあの感覚が堪らなく好きで、ずっと一緒に居たいなって思える。だから冬が好きなんだ」
「・・・・ナーくん、可愛いなぁー、もぉー、私なしじゃ生きられないのかー」
「うん」
「ならずっと一緒にいたあげるぅ‼」
とか言いながら璃月は、僕に抱き着いてくる。寒さが身に染みる中、抱き着かれてる感触、ほのかに伝わる彼女の体温が幸福感をくれる。ほっこりして心が温かい。
やっぱり、冬が好き。
とはいえ、これから先、何度となく璃月と一緒に季節を共にすると思う。
季節にあった折々の良さがあるように、イチャイチャの仕方も季節によってやれることがあったりする。繰り返されるサイクルの中で、今の価値観はいい方に変化してゆくだろう。そうして、最終的には全ての季節が好きになると思う。
そんな未来が、楽しみな僕がいた。
とはいえ、それは未来の話。
明日の璃月の誕生日の方が僕にとっては重要なこと。
僕はどこかの魔王のように「祝え」と璃月に催促される前に盛大に祝っちゃう(彼女が自分から催促するとは思えないけど)。祝いの鬼となることもいとわない。
彼女が『生まれてきてよかった』っと思わせられるようなそんな日にしたい。僕はそんなことを新たな季節の始まりと共に思うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます