第32話 雨宿りと透けた制服
6月。
今年も梅雨入りし、じめじめとした季節がやってきた。
それに伴い、双ヶ丘十海里高校の生徒たちには衣替えが訪れ、男女それぞれブレザーを脱ぎ半袖へと装いを新たにしていた。
とりあえず、そんな下校中のこと。
僕と璃月は一緒に帰っている中、突如として雨に襲われた。急いで屋根付きのバス停まで避難すると雨宿りをしていた。
ちなみに、僕は傘を持っていなかった。璃月も傘を出さないあたり、今日は持ってきていないのだと思われる。
『濡れて帰るか』、『雨がやむのを待つか』の2択しかない。僕たちは自然と長い時間一緒にいられる『雨がやむのを待つ』を選択していた。
ひたすら空の方を見て呟く。
小事情があって、僕は璃月の方を見たくても見れなかった。
「えーと・・・あ、雨。やまないね」
「うん」
ポツポツという音だけが僕たち2人の世界に響く。雨が奏でるコンサートは、すぐには幕引きにならないようだった――。
珍しく情緒あふれる詩的なフレーズを僕はモノローグで言ってみる。
別にやればできるということを示したいわけじゃない。そうして思考をさくことでどうにか理性をコントロールしていた。
そうせざるおえない理由は単純で、璃月の白いブラウスが雨に濡れ、服の中が透けているからだった‼
情緒あふれることでも考えてないとやってられないよ‼
女の人の下着はお姉ちゃんのしか見たことがないけど、アレはお姉ちゃんのと同じようなヤツだし。今見えてるのは下着だと思う。絶対に下着だと思う(確証の仕方がおかしいような気がしたけど、今は気にしてられない)‼。
今日までキスをしたり、顔面やら胸板におっぱいを押し付けられたり、添い寝まで僕たちはしてきた。だけど、だけど、よく考えてほしい。
僕は今だに璃月の下着を1度たりとも見たことがない。拝見させてもらったことがなかった。
このありそうでなかったド直球なラッキースケベに、僕はどうしていいのかわからなかった。
いつもみたいに変態になればいいのかな?
でも、なんか違う気がするんだよね。僕は変態でありながら紳士なのだ。だから、ここはあえて目を背ける。必死に目を背けるのが正しい選択だと思う。
それに、こんな形で見るのではなく、自分で脱がして見たいしね(紳士とはなんなのだろうか)‼
「鳴瑠くん。なに考えてるの?」
「いえ、なにも」
「ふーん。さっきから私のほう見ない。なんか変。いつもなら視姦するのに」
「そーかなー?」
どうやら璃月は自分のブラウスが、透けてしまっていることに気づいていないようだった・・・・・。
気づいてくれればどれだけ楽なことか。
「じー」
何かを怪しむように璃月に見られている気配がする。
ジト目ってやつだ。
うん、これはなかなか興奮する。
ジト目が好きになった。どうやら、僕はまた最強に1つ近づいたようだった。
くだらないことはさておき。
「仕方がない。このままジト目を送られるのは本望だけどさ。白状するよ」
「白状する前にヒドイ内容を白状された」
「僕が何を考えていたかというとね、変態には変態なりのプライドがあるんだってことを考えてた」
「絶対ね、恋人と一緒にいるときに考えることじゃないよ・・・・」
さらにジト目を送られている気がして興奮を禁じえない。
と、そこで。
リュックの中に体操服の上着が入っていたことをふと思い出した。体育で使ったから汗臭いかもしれないけど、ここは着させてあげる方がいいかもしれない。
僕は取り出すと、璃月に上着をかける。
「汗臭いかもしれないけど、とりあえずこれでも着てて」
「ん?」
「いやさ、気づいてないかもしれないけど・・・・・下着が透けてるよ」
「ん?」
その反応おかしくない?
普通、照れたりしない?
自分の姿を見て、ようやく納得がいった様子の璃月は僕に言う。
「あー、これ、ブラジャーじゃないよ」
「え、違うの?」
「うん。キャミソール。いちおー下着の一種かもだけど、ブラジャーよりはまぁーいいかなって感じ。そもそも別に鳴瑠くんに見られるならいいかなって思ったから知っててそのままにしてたってのもあるけど」
言葉が続くにつれて明後日の方向を見始める璃月。
見せたがりの変態さんか?
最高じゃないか。なら、上着を渡す前にガン見すればよかった・・・・残念。
「まぁ、男の子だし。存在を知らないのも無理ないかな」
なんていう璃月の言葉を聞きながらふと思った。
あれ、でもそしたら・・・・。
「それがブラジャーじゃなかったら、お姉ちゃんがそれ1枚しか服の下に着てないのって・・・・」
「鳴瑠くん。お姉ちゃんの下着事情に詳しいのはどーかと思うし、それ以上深く考えちゃダメ」
「ご、ごめん」
なんか謝っとく。
「なら、璃月の下着事情に・・・・」
「それは変態というか、恋人という名目をお持ちの君でもストーカーって呼ばれそーだね」
素敵な笑顔で言われた。
とりあえず、下着事情をすべて把握するのは踏み込んではいけない領域な気がしたのでこれ以上踏み込まないようにした。線引きがしっかりできる変態なのが僕だ。
それに、服を脱がした時に初めてどんな下着を身に着けているのかわかったほうが楽しそうだしね‼興奮も倍。いや、数百倍‼
ポジティブな僕だ。
「絶対にヒドイこと考えてる」
頬をつねられた。
「いらひ、けほ、それはいひー」
「変態さん。でも、上着を貸して気づかってくれたのは嬉しかった。・・・・ありがと」
僕の貸した上着で口もとを隠す璃月。
たぶん、隠された口はニヤニヤしてるに違いなかった。あわよくば上着の匂いを嗅いで喜んでいると妄想すると余計に興奮・・・・ではなく、嬉しく思う(これも何かが違う)。
それから彼女は立ち上がると、うさ耳が付いたリュックをごそごそとあさり始める。中から取り出したのは1本の折り畳み傘で・・・・。
「え、璃月さん・・・・」
「ん?」
「それって・・・・」
「傘だけど」
「持ってたの?」
「うん」
「えー、持ってないと思ってたんだけど」
「持ってないなんて言ったっけ?」
「僕が勝手に持ってないとばかり思ってた・・・・」
「鳴瑠くん。入りなよ。上着のお礼。ま、それがなくても入れたあげるけど」
傘を広げる璃月。
僕は急いでその中に入る。もちろん、折り畳み傘な為、傘の中は狭かった。
だけど、それがよかった。
なんていうのかな。
傘の下が僕たちだけの世界みたいで、ふわふわとした幸せな気持ちになる。
僕はふと訊ねる。
「璃月、どーしてはやく傘があること、言わなかったの?」
「なんでだろーね・・・・少しだけ一緒にいたかったから・・・・とか?」
「そっか」
「なにその反応」
ぷくっと頬を膨らませる璃月。
そんな顔をしながらも、彼女は僕の方へと距離を詰めたのだった。
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