第45話 夏休み 7月その1 宿題 後編
僕がコーラで、璃月が紅茶を手に再び腰を下ろす。飲み物補充も終わって、おしゃべりしながらの勉強会が再開。ちなみに、店員さんからの監視の目は今だに和らいではいない。気にしていても仕方がないので、彼女との話に意識を集中させる。
「璃月は読書感想文の本は決めた?」
「まだ。君は?」
「うーん、それなんだけどね。璃月に訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「うん、いいけど」
紅茶を1口飲んで璃月は僕に向き直ると「ん?」と可愛く小首をかしげて微笑みを向けてくる。その仕草がどうしようもなく可愛い。ここに店員さんがいなかったら、抱き着いていたことだろう。
僕はぐっと我慢すると、真剣な面持ちで訊ねる。
「日記とか、ポエムとか。そうゆうの書く趣味ってある?」
「ポエムはないけど、日記はあるかな」
「よし、きた」
「待って。君が何を考えてるのか予想できるんだけど」
「なら話が早いね。璃月、僕にそれを読ませて。それを読書感想文にするから‼」
「絶対にやだぁ‼」
うん。そんな気はしてた。
まぁ、本気で言ってないので、すぐに引き下がるけどね。
「うん、さすがに無理だよね。ま、さすがの僕でも恋人の日記をニヤニヤしながら読んだ後に、その感想を原稿用紙に書くような趣味はないよ。ま、趣味って言えるものも2つくらいしかないけどね・・・・・」
「自虐ネタでテンション下がるのやめよ。あやしてあげようか?」
「ぜひお願い・・・・あ、待って。あとでにしよう」
「うん?」
璃月側に行こうとしたとき、店員さんが一歩こちらに足を踏む出していたのが見えた。危ない、追い出されるところだった。
「それにしても日記、書いてるんだね」
「うん。君との思い出を絵と一緒に書き残してる」
「まさかの絵日記かー。可愛いなー、小学生みたいで」
「出た、ろりこん。でも、そんな可愛いもんじゃないよ?」
「そうかな?」
「液タブ使ってる」
「あ、なんかガチ感でてきて、たしかに可愛さが吹き飛んでったよ」
とはいえ、僕は特殊な訓練をうけている。
そのため、璃月のことであるという前提さえクリアしていれば、すぐに可愛いと思える特殊体質だった。うん、液タブ使ってるガチな璃月も可愛い‼
もはや、彼女のことなら何でも可愛いと思ってしまう僕だった。
勝手に頬が緩んでしまう僕に、今度は彼女が訊ねてきた。
「でも、読書感想文って本ならなんでもいいのかな。なら私はマンガで書きたいなー、なんて思っちゃう」
「どうだろうね。僕的にはアウトの気はするけど・・・・」
「うーん、ダメかなぁ。でもさ、絶対にマンガの方が小説よりも短時間に読めて効率がいいと思うからマンガがいいかなー」
「たしかにそれはあるかも」
それに『このコマの中には作者が遊び心をくわえた伏線がある』なんて書けば、数十行は埋められる気がする。
「ま、100%再提出になっちゃうだろうし、宿題が終わるまでよけいに時間がかかっちゃうかもだしね。そんなかけには出ない方がいいかなー」
1人で納得する璃月は、うんうん、と頷く。
そして別案を出した。
「なら、ラノベかな。アニメ化作品なら、原作読まなくても書ける」
「やっぱり、効率重視?」
「うん。それもある。けど1番の理由はアニメを見て書けるなら鳴瑠くんと見れるじゃん。30分が12話分と考えて、約6時間も一緒にいられるよ。えへへー」
「でも、尺の問題でカットされてるとこあったり、アニメオリジナルがあったらばれちゃうかも」
まぁ、先生がその原作を読んでいて、尚且つアニメも見ているという条件での話だけど。言っていてアレだけれど、中々あることではないと思う。
璃月は「たしかに。なくはないかなー」と苦笑いを浮かべる。
「もう桃太郎しかないね」
「遂には絵本が出てきちゃったかー」
「うん。3分もかからず読めるし」
「たしかにそうだけど、逆に書くの難しくない?」
内容が少ないからこそ、また内容が誰にもでも知れ渡っているからこそ、独自の見解を必要とする読書感想文との相性は最悪とも思える。
だが、璃月は自身満々に指を振って答えた。
「そこはあれだよ。桃太郎と家来から垣間見える雇い主と労働者との関係と、昨今の労働環境についての闇について書けばいいと思うんだ。たとえば、そーだね。家来たちにあげる報酬がきびんだんご1個で命かけさせられてる話と、労働者が受け取る賃金の低さについて。労働時間のわりに報酬があっていないことと、サービス残業についてとかさ。社会の闇を掛け合わせて書けば意外といける気がするんだ」
「絵本という媒体から社会の闇を見つけるのが、どうしてか嫌な僕がいる」
さらに璃月は続ける。
「もし、途中で書けなくなったらシンデレラも足して2本立てにするの」
「聞きたくはないけど、一応きくね。シンデレラからは何を書くの?」
「決まってるよ、社会に蔓延るいじめ問題」
「そこまで考えて読書感想文に、絵本に向き合ってるのは璃月くらいだよ!?」
「そーかなー、えへへ」
なぜか照れる璃月。
特段、褒めてはいなかったけれど、彼女が嬉しそうなので否定をすることはしない。彼女は僕に訊ねてくる。
「それで鳴瑠くんはどーするの?」
「うーん、璃月の日記がダメになると・・・・決まらないなー。他に案ないんだよね、残念ながら」
「ふーん、そっか。じゃーさ」
「ん?」
「こんど、本みにいく?」
「いく‼」
「そ、じゃ楽しみにしてる」
いつものごとく、そっけない感じの物言いだった。
だけれど、どことなく嬉しそうな雰囲気が伝わった。些細なことだけど、こういった小さな約束が嬉しかったりする。
そんなこんなで順調に宿題をこなし、8割方が終わった時の事。さすがに1日中やりっぱなしだったためか、璃月が宿題に飽き始めてきていた。
ちなみに人のことは言えず、僕も飽きてきていた。
「鳴瑠くぅーん」
「どーしたの?」
「私、飽きてきたから、先延ばしにしてた君をあやすやつやりたーい」
「あー、そう言えば、自虐ネタを言って僕が落ち込んでたときにそんな話になってたね。じゃ、休憩がてらあやされようかな」
「うん、おいでーおいでー」
何か大切なことを忘れている僕は誘いのまま席を立つと、手を広げ受け入れる準備を整えた璃月のおっぱいの中に、何の躊躇もなく顔を埋めてみる。
うん、疲れた脳にはやっぱりおっぱいが1番だった。
この2つの膨らみ、ぬくもり、匂い。全てが癒しとなり、とろけてしまいそうにあんる。一生、こうしていたくなりゅう~。
さらに彼女からの甘い言葉が鼓膜を揺らす。
「よーしよーし。このままおっぱいに永住しよーか?」
「するぅー」
勉強のやり過ぎで、僕の思考回路は低下の一途をたどっている。それも仕方がないことだろう・・・・・。
と、ふと違和感に気づく僕。
『どうして璃月にあやされる至福の時間を後回しにしていたのか』ということだった。疲労が消えてきた脳で考えてみる。答えはすぐにでて、遅まきながらに慌てる。
「にひゅひ(璃月)」
「なぁに、鳴瑠くん?」
「いっはぁんはなひへ(いったん、はなして)」
「やぁだ」
どうやら璃月も度重なる勉強の影響で、僕を甘やかしたかったのだろう。中々放してはくれなかった。いつもの僕ならそれでいいけど今はダメだ。
仕方がないので璃月のわき腹をくすぐることにした。
初めて触ったけど、簡単に折れてしまいそうなくらい彼女のお腹周りは細い。だがそれでいて、ちゃんと柔らかいところがあって、ずーっと触っていたいと思う不思議な感触の魅力的なわき腹だった。
おっぱいだけでなく、お腹にも顔を埋めたくなってしまう。
けど、―――ダメだぁ‼
理性をフル動員させて僕は誘惑を立つ。
そして、無念な想いを心に残しながら、彼女のおっぱいから脱出した。ついでにお腹周りに顔を埋めたくなる性欲にも打ち勝つ。
とはいえ、くすぐり続けてしまう僕がいた。これは仕方ない体が勝手に動いてしまうのだから・・・・。笑いながら璃月は、
「あははは、鳴瑠くん。いたずらはめっだよ?」
「いやね、璃月」
おっぱいから離れた僕。
そんな僕が見た璃月は、ちょっと服が乱れていた。下着が見えているわけではない。それなのにどうしようもなく色っぽく感じてどうしようもなかった。
しかも、極め付けにおへそが見えていて。
このおへその中に指を入れたい――そう思った刹那、何故だかわからないが、璃月のおへその中に僕の指が入っていた。わけがわからないと思うけど、事実をありのまま話すと、彼女のおへその中に僕の指が入っていたんだ。僕にもどーしてこうなったのかはわからない。たぶんだけど、妖怪の仕業か、新手のスタ〇ド使いの攻撃かもしれない。今、僕がわかることは2つしかない。性癖がおかしくなりそうだってことと、おへその中に指が入ってて幸せだってこと。ただそれだけだった。
「鳴瑠くん・・・・おへそから指ぬいて」
「あ、ごめん」
おかしい。僕の指のはずなのにまったくゆうことをきいてはくれない。まるで引力に引かれているようとでも言えばいいのか。はたまた、僕の指に別の意思が働いているのではないかと言えばいいのか。どちらかはわからない。わかるのは抜けないってことだった。
「抜きたくないのはわかるけど、・・・・抜いてぇ」
「ごめん」
我に返って、僕は指を抜いた。
案外、簡単に抜くことができた。さっきの現象は何だというのか。世界やおへそにはまだまだ不思議なことがいっぱいのようだ。
はふー、と璃月は紅潮させた顔で吐息を漏らした。なんというか、色っぽかった。
「おへそはめっだけど・・・・もっと、くすぐってもいいよ?」
そんなことを顔を赤くしながら言う璃月。
彼女からのそんな誘いを僕は断るしかなかった。
「・・・・。・・・・。・・・・・・。・・・・・。・・・・・。今はできないよ」
「けっこう、心が揺るぎそうになったね。無理したら体に悪いよ?」
たしかに無理するのはよくないよね。
じゃない‼
ダメじゃないか、ここでこんなことをしたら。おへそに誘い込まれてイチャイチャしてる場合じゃない。だって、ここでこんなことしたら――、
全てを思い出して僕は視線をあげた。
そこには店員さんがいて、黄色いカードを持っていて。
璃月もすべてを思い出したらしく服を整える。
「「はい、今日は出て行きます」」
僕と璃月はイエローカードを2枚くらい、お店から出されてしまった。まぁ、出禁にならなかっただけ良しとしよう・・・・。
こんな感じで夏休みが始まったのだった。
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